第19話
GFI文化財保護法:歴史的建造物の保護に関する規則第4条2項。『同規則第2条2項に基づき歴史的価値が認められる建造物の周囲においては、あらゆる武器の使用を禁止する。ただしGFI都市計画部ドワーフフォートレス課、GFI軍部およびGFIセキュリティ部とそれらの部長職による許可を持つ者はその限りではない』
***
『で、方針はどうします?』
『適当に耐える』
『そうなりますわよね』
インスタント・メッセージで短く方針を纏めるセドウィックたちを前に、がこん、とスクリーマーが射撃体勢を取る。そしてその上にひらりとXLD-078Lが飛び乗った。
「ようし、それじゃあ3カウントで行くよー! 3、2、1」
「マジかよ」
馬鹿みたいに明るい声で唐突にカウントを始めたXLD-078Lの代わりにゼロを告げたのは、スクリーマーが誇る主砲、レールキャノンの発射音だった。スクリーマーの装甲に使われているマギクリウスに宿る潤沢な雷の精霊力でもって磁力を操作し砲弾を射出するそれは、精霊力が続く限りにおいて高い威力と連射速度を維持することができる。
幸いにも狙いは正確ではなく、砲弾は寸前で散開したセドウィックたちが一瞬前までいた空間を貫き、歴史と技術力の重みある床を粉砕するのみに留まった。
「すごいすごい! スクリーマーくん、ごーごー!」
XLD-078Lの声援に乗せられるように、遮蔽物を求めて走るセドウィックを追跡して回る上部砲塔から、今度は同軸機銃たる副砲のブラスターが
ブラスターとはサーマルガンによる機銃だ。レールキャノンと同じく雷の精霊力の恩恵を受けて矢継ぎ早に放たれる高初速弾丸の嵐が、セドウィックを引き裂かんと襲い掛かってくる。
「ちっ!」
すんでのところでセドウィックが飛び込んだドワーフ彫刻の芸術的な柱を、ブラスターが非芸術的に削り込んでいく。弾丸が至近距離を通過するだけで、物理保護の護符に蓄えられた魔力量が消し飛んでいく。それが分かっていながら、セドウィックはすぐさま柱から飛び出した。直後、続けて撃たれたレールキャノンの第二射が、柱を豆腐のように貫通し、またもセドウィックが一瞬前までいた床の上を吹き飛ばした。
「やるね、セドウィック!」
「加減してくれ!」
「やだ、だって!」
楽しげに代弁するXLD-078Lに、マジかよ、とセドウィックは息を吐きつつ、とにかく走ってブラスターの掃射から逃れる。まともに当たればその衝撃で動きが止まり、立て続けにレールキャノンの直撃を喰らうことになるだろう。そうなればゲームオーバーだ。
勿論、その火力はセドウィックに投射されるだけに留まらない。
『なんで生身でスクリーマーとまともにやり合わないといけないんですかね』
スクリーマーの下部砲塔にある第二主砲、第一よりは小口径のレールキャノンから放たれる砲弾を、別なドワーフ柱を盾にミーシャはやり過ごす。きっちり2秒間隔で飛んでくる脅威に合わせて、柱に宿る土の精霊力を
『先生ですもの、今に始まったことではございませんわ』
シャルベルは側面に回り込み、付かず離れずの距離で一撃を入れることを狙う。潤沢に蓄えられた精霊力と地の装甲で大抵の射撃攻撃を無効化するスクリーマーに対し、3人の中で比較的簡単に有効打を入れられるのはシャルベルの近接攻撃しかない。また彼女の瞬発力なら、比較的余裕を持ってスクリーマーの射撃を回避することができる。
しかしスクリーマー側もそれを理解して、シャルベルには増設された触手マニュピレーターを差し向けてくる。見た目はさほどの攻撃力も持っていなさそうなそれらだが、捕まえた瞬間に雷の精霊力を流し込み、電撃で動きを止めてから主砲を撃ち込んでくるのは目に見えていた。
「あはっ、お上手ですわね!」
右へ左へと触手を引っ掻き回し、一瞬の隙を作って接近しようとするも、その瞬間に第二主砲をシャルベルに向かって撃ち、隙を殺してくる。狙いは甘いところがあるが、3人を同時に対処しながら、自身にできるだけ隙が生まれにくいように攻撃を組み立てる辺りは有人操作ではなかなか難しいところで、流石はAIというべきだった。
「ほらほら、逃げるだけじゃ終わらないよ、だって!」
「そうでもねえさ!」
言ってセドウィックが次の柱の陰、生物的構造物が絡み合い太さを増しているものへ飛び込む。スクリーマーは問答無用でブラスターを撃ち込みながら、レールキャノンを発射する。柱から飛び出すであろうセドウィックの動きを予測し、ブラスターの照準を移動させる。しかし、セドウィックは飛び出さず、ブラスターの射撃が見当違いの方向へ流れている隙に、太さが増しているお陰でぎりぎり隠れる余裕が残った構造体の影から半身を出してハンドガンで1発だけ“願って”撃った。
自身への攻撃を感知し、スクリーマーは多色の精霊力を使った
「うひゃっ!?」
自慢の装甲が拳銃弾に貫通されたのがよほど意外だったのか、XLD-078Lから驚きの声が上がる。第二主砲が一時的に使用不能になったことで、ひたすら隠れて耐えていたミーシャに自由が生まれる。
「ああもう、無茶もほどほどにしてくださいよっ!」
言いながらミーシャが唱えるのは
そしてもうひとつ。
「ふふっ――受け取ってくださいまし!」
足元に出現した立方石を軽々と拾い上げたシャルベルが、舞うような動きの勢いのまま、アンダースローでそれをスクリーマーへと投げつけた。常人を遥かに超える筋力から勢いをつけて放たれたそれは、十分以上の速度をもってスクリーマーの側面へと接近する。
磁力シールドおよび
「よっし、いい迎撃だよ、スクリーマーくん!」
同時、ダメージを受けた下部砲塔も自己復元が完了し、次の呪文を唱えようとしていたミーシャの動きを再び釘付けにする一射を放つ。ブラスターも再び牽制を再開し、第一主砲も大きく旋回し直す。
「さあ、まだまだだよ!」
「いいや」
主砲に狙われている柱の影に隠れたまま、セドウィックが言い返す。
「終わりだ」
――瞬間、スクリーマーの後方、暗闇の中から現れたガロクが、大きな跳躍でもって20メートル以上の距離を跳んで急接近する。
「え? ――!?」
砲弾のように突っ込んできた巨体に反応しきれず、またセドウィックに再照準を終えたばかりということもあり、スクリーマーの砲塔旋回が大きく遅れる。絶好の攻撃機会でもある接近中の時間をほぼ全て逃し、ガロクがスクリーマーのすぐ後ろ、近接攻撃の間合いに着地した時になってようやくガロクに砲身が向けられた。
「わわっ――スクリーマーくん、撃って!」
禄に狙いをつけることもできず、すぐさま一撃。放たれた砲弾を、ガロクは当たり前のようにスカルクラッシャーの大きな刃で防ぎ、その巨体を後退させることもなく、轟音だけを立てて難なく弾いた。
「嘘!?」
本当に驚いたのか、一瞬動きが止まったスクリーマーとXLD-078Lに、ガロクは容赦なくスカルクラッシャーを振り抜く。
「――ぬんっ!」
当たり前のように一撃でスクリーマーの左後ろ脚が粉砕される。慌ててブラスターを連射するスクリーマーだが、ガロクの筋骨隆々とした赤い肌はその全てを金属のような音を立てて何事もなく弾いた。
「えー!?」
そんなの反則、とでも言いたげなスクリーマーとXLD-078Lに、ガロクは再び容赦なくスカルクラッシャーを振り抜き、やはり当たり前のようにスクリーマーの右後ろ脚が粉砕された。
「これで合計で3部位破壊だな。まだやるか?」
油断なくスカルクラッシャーを構えるガロクと、ハンドガンを構えるセドウィック、次の術を唱えようとしているミーシャに、あと数歩の距離に迫っているシャルベルを順番に見て、スクリーマーは砲塔を収納し、XLD-078Lは両手を挙げた。
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