先生、異世界旅行ですか?

7ー1.異世界ツアーチケット

「やったよ! ミサ!」

「う~ん。なにぃ?」


 朝っぱらから身体を揺さぶるのは幼馴染のリサだ。

 小窓から差し込む白々した朝日が硝子の花瓶で屈折してその光を部屋中に撒き散らしていた。

 一筋の光が寝起きのわたしの顔面にクリーンヒットする。


「うげぇ……眩しぃ」


 凄まじい光線にわたしのHPは0になった。ぐったり……


「あーもうッ!」


 怒気を含んだ声が降り注ぐ。

 わたしは、防御姿勢をとった。

 頭から布団を被り耳を塞ぎ、膝を抱えるようにして丸くなる。

 生身の要塞の完成である。

 外界からの光を完全に遮断。音に関しても布団を被ることで防音性を高めた。

 今日は一歩たりともこの要塞――領域テリトリーから出てなるものか、と心に誓う。


「むむむ! 強情な奴め」


 それなら、となにやら秘策を用意しているらしいリサがクシャクシャと紙を広げる。

 はっ! そんな紙切れ1枚でわたしが――この要塞が崩せるなどと思ってはいないだろうな!

 わたしは宣言する。


「わたしは、並大抵の事では動かないぞ」

「ほほーう……いつまでその強気が続くかな?」


 勝ち誇った声が笑っていた。

 わたしも舐められたものだ。この要塞の強固さは身を以て味わっているだろうに。

 わたしは、要塞を築くと丸1日出てこない。決して揶揄やゆではない。

 しかし、一体どんな秘策が?


「ミサ。あたしが今、手に何もってると思う?」


 外界の情報を遮断したわたしにが何なのか解るはずがなかった。


「知らないわよ」

「そんな口の利き方をしてもいいのかな?」


 ん?


「これなーんだ?」


 強引に要塞の隙間を押し広げるようにして腕が突っ込まれた。

 漏れた光に目をやられる。


 ぐはぁああッ――


「ついにゲットしたよ! 異世界ツアーのチケット!!」


 …………

 ……

 …


 要塞はいとも容易く開城した。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※朝の筆者も要塞に閉じ籠りがちです。


次話へ続く。

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