先生、無届けのアルバイトは校則違反ですか?

3ー1.行きつけのお店

「いらっしゃいませ!」


 店内に響き渡る挨拶。


「おっ、元気いいねぇ。新入りさん?」


「はい! そうなんです。これからお店ともどもよろしくお願いします」


 本革の座り心地のいいソファに体を沈めながら、「いつもの奴で」と笑う。


「大丈夫ですよ」


 そう言って少女は店の奥へと消える。


 残された客は待つしかない。普通の店ならば。しかし、ここは普通の店とは一味もふた味も違う。


 観察するには事欠かない。


 隣のテーブルに座る男は、《英雄王》。

 そのまた隣に座るのは、《帝国の魔導騎士団長》。


 五席しかないカウンター席には、


《帝国の勇者》


《トルム公国の勇者》


《ハウゼン大公国の勇者》


《バラム王国の勇者》


《エスぺリオ公国の勇者》


 の順で腰を下ろしている。


 帝国と、帝国の絶対支配の中において近頃、勢力を伸ばし、強国の仲間入りを果たした四つの大国。互いの力は拮抗しているという。


 その最大の要因が五人の勇者たちだった。


 対立の一兎を辿っていた各国は「グローバルカ」なる思想のもと、協調するに至った。


 彼らがもたらす思想の数々は我々の常識の外にある。思想だけではない。知識、技能といった様々な物が常識から大きく逸脱している。


 この店にしてもそうだ。


 勇者たちと同郷だと言う店主が建てた店。


 店内の窓にはめられた硝子には一切の曇りもない。店内には常にオーケストラの演奏が流れており、「何処にこれだけの大人数を隠しているのか?」と問うと、「天井につるされた黒い箱の中」などとはぐらかされる。

 店内にある姿見は一枚板で、相当の技術が必要なことが窺える。


 この店の看板からして不可思議だった。


 チカチカと点滅を繰り返したかと板に文字が浮かび上がる。


 色とりどりな文字が躍っては消え、躍っては消え――


 私は知らぬ間に引き寄せられていた。


 この店には引力とでもいうべき何かがあるのかもしれない。


 しかし、文字は読めない。


 毎日のように通い詰めてはいるものの、店の名前もわからない。料理名も何もかもだ。


 それでも謎の言語を巧みに操る者たちもいる。


 勇者や賢者と呼ばれる者たちはいとも容易く言語を使いこなす。我々はその言葉の端々から独学で学ぶほかない。


 そこで浮かぶ疑問が一つ。


 アルバイトなる給仕たちが我々と異なる言語を使いこなしているのは何故なのだ。

 身なりは風変りではあるものの特質して高価な装飾や作りという訳ではない。

 庶民階級であることは間違いない。


 それなのに王族や勇者、賢者、大魔導師と同じレベルでの教養がある。


 そこまでの教養がない我々一介の客は彼らと同じものを頼むほかない。


 アルバイトたちが食しているものと同じものを注文するのだ。



「お待たせしました。こちら、でございす」


 眼の前に置かれた皿から立ち上る匂いを全身で浴びるように味わってから料理へと手を伸ばした。


 なぜか《ハウゼン大公国》の勇者が睨んでいた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――※登場人物の肩書き以外は全て現代と変わりないよねコレ? 異世界行った意味がない気が……


 次話頑張って設定活かします。きっと……

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