3ー2.異世界のウェイトレス

 バイトを始めて早……はや……まあ、それなりだ。


 お客様へお料理をお出しして、カウンター席へと注文を伺いに行く。


「注文いいかな?」


 ホント、ビックリするほどイケメンだよな。


 同じ世界――日本に生まれたと言うのにアルバイトの私。片や勇者様。格差社会。男尊女卑か!? 不平不満の嵐である。


 ちなみに同い年らしい。


 転生したのは勇者様ご一行が先だった。もし私が先に転生していれば――キイィッ。

 歯軋りものである。


「顔すごい事になってるぞ」


 店長が厨房から顔を覗かせる。


 常連勇者の一人が催促する。


「店長~メシ早く作れや!」


「注文受けてないけど」


「この距離でいる?」


 カウンター席と厨房を隔てているのは物理的ものではない気がする。


 お客様は神様だろうに……いがみ合っている。


「ウェイトレスさん。取り敢えず注文いい?」


「はい。かしこまりました」


 勇者の中で唯一エスぺリオ公国の勇者だけが常識人のようだった。

 きっと変人ぶりを隠しているだけだろうけど。


 大体、異世界転生を果たすノーマルな人間ヤツなどいない(偏見)。


「A定食1つ、B定食2つ、ζ定食1つ、δ定食1つ……って後半2つは何です!? 前々から思ってたけどこの店、幾つ定食あるんですか」


「手抜き仕事は良くないな。ζゼータδデルタが読めないからって、それっぽく言って誤魔化そうとするな」


 くッ……バレてる―殺してぇ……恥ずかしすぎる。


 図星なのが余計に悔しい。


 良いじゃないか、ちょっとくらい背伸びしたって。バカは隠したい。


「わ、私の事はいいですから。とにかくA定食1つ、B定食2つ、ζ定食1つ、δ定食1つお願いしますぅ」


トレイで顔を隠しながら言う。


「はいよ」


 厨房から覗いていた顔が引っ込む。


 …………

 ……

 …


「ヘイお待ち」


「店長。もう少しキャラ固めてください。なに、お寿司握った感出してるんですか」


 A定食1つにB定食2つ。

 サバの味噌煮と豚の生姜焼きか、普通においしそうだ。


 問題はζとδだ。


 見覚えがあるぞ。


 両方ともと同じではないか!?


「店長、人には手抜きするなとか言っておいて自分は堂々と手抜きですか?」


「いやいや、俺はそんな事しないぞ。注文通りのはずだ。なぁ?」


「ええ、その通りです」


《エスぺリオ公国の勇者》が割って入る。


「A~C定食が通常メニューで、それ以降は全てまかないです。まかないが実質日替わり定食ですね。時々凄まじい手抜き料理が出てくるのがたまに傷ですがね」


 楽しげに笑う。


「つまり、うちの店メニュー4つしかないんですね。っていうか何で定食しかないんですか?」


「メニュー考案マジめんどくさい」


「手抜き仕事じゃないですか!」


「いいのいいの。俺、店長だから」


 無茶苦茶だ。


「でもなんで他の客までまかないばかり頼むんだ?」


「覚えてないんですか? 店長が、「こっちの人の言葉判らないから面倒くせぇ」とか言って、昔バイトしてた俺が食ってたまかないをそのまま出したのが始まりですよ」


 やっつけ仕事にもほどがある。


 カランカラン―


 タウンチャイムが鳴る。


 私はお客様の下へと向かい注文を聞く。


 タタタタタ


「店長いつものです」


「はいよ。おい、そこの勇者の皿持って行け」


 マジで適当だな。客を客とも思わぬ所業であった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※客商売はお客様が神様。筆者にとっては読者様が神様です。



 次回こそは設定を活かす。でも……この話終わらないと難しい気がしてきた。

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