2ー3.先生、異世界へ

「あれ? やっぱり怒った?」


 私の様子を伺おうと、下から顔を覗き込む。


 フッ……ふはははっはははははははhahahahahaha――


「壊れた?」


「いやいや。私の教育に懸ける情熱はバナナの皮如きに阻まれてしまうものだったのかと思うと……笑う他ないでしょう?」


 涙が溢れた。


 きっと、教師など向いていなかったというだけの事だったのだ。

 何となく取った教員免許を無駄にしたくなくて、これまた何となく受けた採用試験で合格してしまった。そんな人間が頑張ったところで生徒はついては来ない。


 だから反抗する。


 多感な時期の子どもたちを相手にするのは骨が折れる。


 そんな自分を可哀相だと慰めては自分を正当化した。

 同僚の愚痴に付き合い、共に生徒と保護者を罵り悪態をついた。


 それなのに生徒のことを理解しようとする教師を演じた。

 見栄、プライド、そんなくだらないもののために自分を偽ってきた人間が「教育者」を語り名乗っていた。


 滑稽でありながら、周囲の目を気にして笑われないように努めた。

 振り切って道化にでもなればよかったのだ。

 そうすれば幾分マシな教育者になれたのかも知れない。


「だったら、なればいいよ」


 えっ……。


 覗き込む顔が力なく笑った。


「どうせ死んだんだからそんなに思い詰める必要ないでしょ? 本題なんだけどさ。僕ちんがバナナの皮捨てたから死んじゃったわけじゃん。

 だから、特別に僕ちんの力で転生させたげる。だからさ、そこで人生一からやり直してみなよ。異世界転生だよ! 異世界。男のロマンでしょ?」


 軽快な軽口の中にいも言われぬ違和感を感じる。


 馬鹿にしているわけではないのか。熟考してみたところで真相にはたどり着かない。

 首をひねるばかりだった。

 しかし、自称神様は私の疑問符には答えてくれない。


「ロ・マ・ン、感じるでしょ?」


 私の感じている疑問については気づいているのか、いないのか、スルーされる。


 そもそも、異世界転生という概念が判らない。


 言葉としては理解できる。


 現在の時間軸とは別の時間軸にある世界に転生、すなわち何らかの生命体として、肉体を持って生まれ変わるという事。


 仏教などに見られる思想ではあるが、異世界というのが問題だった。

 異なる世界とはなんぞや?


 理解に苦しむ。


 頭を抱える。


 その様子を見かねた自称神様は諦めたように尋ねた。


「海外で生活するには何が一番必要になると思う?」


「? やっぱり語学力は大切じゃないかな?」


 問いの意図を計りかねる。


「じゃあ、それでいいよね?」


 自称神様は、いってらっしゃいと、手を振ったあと、パチンと指を鳴らした。


 この瞬間、私こと籾木涼介は異世界転生を果たした。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※学校の先生って大変だよな、と思いつつ夏休みが有っていいなとも思う。

 どんな仕事も大変ですよね。

 皆さんお疲れ様です。そして明日もがんばりましょう!


 次話、先生はあまり出てこない予定です。

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