2ー2.バナナの皮は危険です

「何かあっという間だったね」


 緊張感のない間延びした声が語りかけてくる。


 薄れゆく意識の中で見たアレが走馬灯と言うヤツなのだろうか?


 モンスターたちと、その子どもたちしか現れなかった。


 普通は大切な人とかが出てくるものじゃないのか?


 恋人はいないから家族とか、友達とか、色々あるだろうに。


 死を迎える瞬間まで教師だったと言うことにしておこう。


 ところで、


「どちら様かな?」


「おやおや、この状況がお解かりでない? あっ、じゃあさぁ、僕ちん誰だと思う?」


 質問に質問で答える。


「愚答ですね。会話が成立しません。ですが、あなたの問いに答えましょう。十代後半……高校生くらいですかね? 私にはその様に見えます」


「そうだね。そのくらいに見えるよね」


 眼の前の彼が何者かなど考えるまでもない。神様だ。


 確かに見た目だけならば高校生なのだが……。


「残念でした。僕ちんはぁ、神様なのでした!!」


「でしょうね」


 相手に聞こえるか聞こえないかという声でツッコミを入れる。


 首から下げたプレートにでかでかと「神様」と書いてある。


 自己顕示欲の強い神様もいたものだ。


 しかし、神様ってこんな馬鹿っぽいヤツだったのか。そりゃ、日本も不景気だのなんだのと暗いニュースが飛び交う筈だ。


「何か失礼なこと考えてるだろう?」


「そんなことありませんよ」


 しまった。顔に出てしまっていたようだ。反省反省。


 ところで、と話題を変える。


「私は死んだんですよね?」


「うん。そだね」


「軽いですね」


「人間は簡単に死ぬからね。今この瞬間もどこかで誰かが死んでる」


「そうですね。ではその方もいずれはここに来るのですか?」


「うーん、どうだろう? 僕ちん以外にも神様はいるし、死んだ人間が全員ここに来るわけじゃないから」


「では私は何故ここに居るのでしょう?」


 自称神様は申し訳なさそうに言った。


「僕ちんのミス。ごめんなさ~い。許してにゃん❤」


 ……うん、ちっとも謝罪の意が感じられない。


 悪いと思ってないなコイツ。何か腹が立ってきた。



 そう言えば何で私は死んだんだ?


 私はあの夜、学校で各教室の施錠確認を行っていた。


 忍び込んだと思しき生徒の一団を発見し追いかけた。


 もう少しで追いつく―思った瞬間、世界が反転した。


 あの時一体何が起きたのか。


 眼の前の男は全てを知っている。


「なんで私は死んだんだ? ミスってなんです?」


 自称神様は悪びれることなく言う。


「いやぁ、傑作だったよバナナの皮踏んづけて転んで頭打って……奇跡だよね」


 手を叩きながらゲラゲラと笑う。


「まあ、バナナの皮置いたの僕ちんなんだけど」


 あまりにも内容の無い死因に開いた口がふさがらなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――※今日の筆者のおやつバナナでした。明日もバナナ。


 次話へ続く。

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