1ー5.エルフさん激オコです

 学ぶだと? エルフの少女の言葉に意識が遠ざかる。


 なんで異世界に転生してまで勉強しなくてはならないのだ。


 少女が示す学校は高層ビル二棟に挟まれ、見るからに日当たりが悪そうだ。しかし、場違いなほど緑が生い茂り、植えられた桜の木は蕾をつけていた。


「こちらの世界でも桜は見れるんですよ。満開に咲いたらみんなでお花見するんです」


 喜々として語る少女からは、本当に花見を楽しみにしていることが伺える。


 だが、俺には関係ない。むしろ関わりたくない。

 なんで好き好んで学校で花見なんかしなくてはならないのだ。


 みんなと言うのは、学校関係者―すなわち、教師や生徒の事だろう。


「やってられるか」


 吐き捨てるように呟いた言葉は、まだ少し冷たさの残る春の夜風に溶け出し

 た。

 もはや残滓と化した言葉に少女は眉をひそめる。


「はぁ……クソガキが……」


「……え?」


 ギリギリ聞き取ることのできた言葉に疑問符が浮かぶ。


 キャラ崩壊?


「いいえ。こちらが素です」


 耳元で囁かれ、少女の吐息が耳にかかる。


「アナタは見たところ学生さんですよね? なら学校に通うのは当然かと思うのですが」


「いやいやいや、それはおかしいでしょ? せっかく異世界転生したんだから、神様がくれた力使って人助けとかした方がいいでしょ?」


 俺を見つめる少女の瞳に映る俺の顔は引きつっていた。


 知らず知らずのうちに少女に対して半身の体勢をとっていた。


 まさかっビビッてるのか俺? こんな女の子相手に。


 改めて目の前の少女を見下ろす。


 可愛い、美しい、そんな表現がしっくりくる。恐怖の対象とは成り得ない。はずなのに……。


 全身の毛孔が開いたかのような感覚を覚える。寒気まで感じる。


 これが殺気、はたまたプレッシャーというヤツか。

 ラノべやゲームなんかじゃ低レベルのモンスターが逃げ出すたぐいヤツスキルだ。


「スキルでも何でもないですよ」


 ―!?


「これは……ただガンを飛ばしただけです。もし怖いと感じているのなら、それはアナタの防衛本能が働いたと言うことでしょう。素晴らしい感覚をお持ちのようですね。

 中には力量差もわからず、私にセクハラを働こうとするおバカさんもいますから」


 かつて何かあったことだけは察することが出来た。

 これだけの美少女だ。何も感じない方がおかしい。


 しかし手を出してはいけない―いけなかった。関わった時点で俺の運命は決まっていた。


 運命力:0


 自身のステータスを思い出す。


 誠はアビリティの心眼で見た、見てしまった。少女のステータスを。


「チートじゃねぇかよ……」

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