追憶



「ありゃあまずいよな。アキラ、お前も見つけたか」

突然、後方からの声にアキラは振り向いた。

そこには銃を構え、アリスに標準を合わせているシンがいた。160センチほどの身長に銀髪に垂れ目。白いスーツを身に纏う男は冷静なスナイパー、僕と共に戦って来た戦友だ。

「シン!良かった。無事だったの?」

「ふん。アキラも元気そうじゃないか。ところでさっきのは誰だったんだ?」

その言葉に悔しさが滲んだ。殺した相手はシンも知っている仲間だ。

「サユリ‥‥だったよ」

「そうかあいつだったのか‥‥。くそ。まだ見つからない」

彼は銃を下ろす。そうだよね。シンの妹はこの世界で亡くなったんだっけ。

「妹のユイだよね?このは僕だけで十分なのに」

「ふん。ユイは自分で探すさ。それより。お前はアリスの事が好きなんだろ?」

「今話すことじゃないよ」

「じゃあ、いつ話すんだ?この世界はもう滅びるんだぜ?想いを告げろよ」

「世界が終わるならいっそ‥‥でも終焉を倒せば‥‥」

僕はアリスを取り戻すためにここに来た。そして今度こそ終焉に終止符をつけると決意していた。

「お前なら倒せるんだろうな?」

「そうだね。あの上空に行ければ。でもどうやっていこうかな?」

「ふん。‥‥そうだな『契約』なら行けるだろ」

「『契約』!?アンドロイドに体を売れっていうの?」

契約の言葉に体が震えた。それは現世に生きる生身の体、その一部を機械と等価交換する禁忌の手術のことだ。ヒューマノイドやアップロードといったものよりも残酷で、現世では必ず後遺症が残る。一年前に僕は『目』を。シンは『右腕』を契約した経緯がある。やはり、現世ではその部分は壊死していた。その苦しみは出来れば避けたいものだ。

「確かに間違いなく辿りつけそうだよ。でも過去二回もアンドロイドに身売りした人間はいないよね?」

「いない。俺は思うんだ。死んだら人間の魂が機械に乗り移る。でもそいつらは皆、契約してたやつらだけだ。二回契約すればもっと機械に近づけるんじゃないか?」

「ユイは‥‥本当に契約したの‥‥?」

「したさ。俺は見たんだ。死ぬ直前に契約をしていた」

急に胸ぐらを掴まれた。首が苦しくて痛い。けれど僕は抵抗出来なかった、シンが苦しんでいる。

「シンの目にも探索モードは搭載されているよね?探せないの?」

「ふん。これは付属品に過ぎないんだ。探そうにも限界がある。アキラが契約したソレとは能力がまるで違う」

語尾の発言が僕の額にじわりと汗を滲ませる。なんで瞳の特性を知っている?これを知っているのはアリスと現世にいる奴らだけだよ。

『α‥‥』こっそりと呟き、AIを呼び出した。

『アキラ。シンの回路が前回よりアップグレードされています』

間違いない。彼は何かを知っている。

「勿論、契約は俺がする。お前はする必要がないからな」

「なんだか緊張してきたや。ちょっとションベンしてくるよ」

と、言った。もちろんシンから距離を取るためだった。でも‥‥。

「じゃあ、俺も」

横並びになる。隙もないか。

「あれ?アキラはまだ毛生えてないのかよ」

「そんなことないよ!み、見るなよ!」

「きったねぇ!手かかってるぞ!」

「嘘つくな!かかってないから!」

「はははっバーカ!」

シンは笑いながら僕に背を向けた。

「‥‥」


✳︎✳︎✳︎



ドサッ。

今のは、地面にシンが倒れ込んだ音だ。

プルプルと僕の手は震え、仲間を悼む。

心は痛い。心が痛い。音もなくとても痛い。


「シン、今度こそ現世で!αシステム。モード『契約』だ!」


『アキラ。契約を執行します』


無機質なデジタル音声。

禁忌の割に、大それたウィルスチェックもブロックもありゃしないよね。

すぐにアンドロイドとの『契約』が始まった。

両足がぼんやりと発光する。HUDが体の心拍を告げ、目の前にホログラムの赤い3Dアニメーションの人間が手術台に横たわった。

『では開始します』

アニメーションの両足が点滅を始める。

「ぐっ!」

足に瞬発的に痛みが走る。

今度はブンッ!と強い電磁波が脳に走り、心臓が締めつけられる。

「うぅう!い、息がっ!はぁはぁ」

呼吸が時々できない。すぐに僕の両足にはブロックノイズが現れ、体が削れ始める。

まるで透明なチェーンソーが切断しているようだ。足が、足が消えていく。

「ぐっ!ぐぁぁぁぁあぁあ!」

強烈な激痛。

僕は痛みに耐えきれず、意識がぶっ飛んだ。



暗闇の中。

誰かの声が。

ほら、簡単に体がアップロードしたでしょ?

と、囁いていた。






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