PLAYERS HI

@hiroki18

プロローグ

プロローグ



気がつくと世界は変わっていた。

オレンジ色に染まる空は雲一つなく、足元には砂漠が広がっていた。


僕にとってここは見覚えのある場所、そして狙い通り『異空間』に辿り着いたことになる。幾度となく足を運んだ場所をかんがみて、わずか1分も経たないうちに心が安らぐのを感じていた。

「‥‥破壊された都市。まるで無に還る途中みたいな街だね。けど、今日は運が悪いよね」

揺れる足元。次第に大きくなる振動を前に、両目を細めた。

「地震か?いや、誰か潜ってるね」

10メートル先の砂面がボコボコと波打っている。それがこちらに向かって来ている。

「α《アルファ》解析を」

声を出すと同時。

砂漠の一箇所が盛り上がり噴火のように砂が弾けた。その穴からメタル色の機械蜘蛛が這い上がってきた。僕の身長170センチをゆうに越えて二倍はあるだろうその姿に、ため息をついた。

「はぁ。いきなり、どデカイのがいるよね」

『アキラ。堆積量1トン。直線的な攻撃は不利です』

右瞳に埋め込まれたα《アルファ》が音声を発した。網膜を返し、機械のDATAを検出するマイクロチップはAIシステムだ。僕はこいつをプラスの存在に例え、α《アルファ》と呼んでいる。

「α、どうやら戦闘のようだ」

『では、ソードを装着します』

右手のひらが熱を帯びると、青白く光る日本刀が召喚された。冷たい鉄。鋭く尖り、鏡のように光る武器だ。

「ほら、喰いついて来たよね」

敵とみなした機械蜘蛛が弾丸のように迫ってきた。威圧風で肌がピリピリとする。僕はすぐさま腕を敵に振り下ろし、全力でぶつかった。

「くっ、凄いパワーだ!腕がはち切れそうだよ」

ガチガチと剣先が震える。体で押し切ってくるパワーに、たまらず膝が地面に落ちた。八方塞がりだ。

「ぐぅぅぅ!どうだい?解析は済んだかい?」

『 ‥‥1年前に消失した少女です。DATAを送ります』

αがすぐにHUD《ヘッドアップディスプレイ》を起動し、情報が網膜に映し出された。

『サユリ16歳。元は人間です』

目の前に画像が浮かび上がる。そこには赤毛の女の子、サユリという名前がある。生涯年表が現れると。2100年に死去、アンドロイドにより八つ裂き。と‥‥書かれていた。

僕はたまらず心が締め付けられた。

目が熱くなり、唇が震えずにはいられなかった。

「サユリなのかい?今は‥‥君は、苦しくないの?」

「キィキィ」

「それが君か望んだ姿なんだね」

「キィ‥‥」

寂寞の表情でサユリを見つめる。人間の形は一片もない機械サユリだ。口がパカリと開かれ、喉奥から牙が突き出して来た。

『回避率が30%に下がりました』

「サユリ、君の事を僕はよく知ってる。ウィラ塔出身の16歳、可愛い子だ。まずはその機械の中にある意識を解き放つよ。必ず現世に戻れるはずだよ」

腕の力を抜いて体を反転させた。早いスピードですぐさま機械サユリの左側に回り込む。キィンッと刃を逆返すと、頭部一点に狙いをつけた。

悔しい。アンドロイドが憎いよ。

僕は人間だった時のサユリを知っていた。

彼女とは一緒に戦っていた仲間チームだったんだ。誰よりもハツラツとして、赤い制服が似合う可愛い女の子。一年前この世界で一台のアンドロイドによって殺されてしまった。その事を僕は忘れた日はない。


「ごめん。少し痛いよ」

まさか君だったなんて。と、それ以上の言葉を無くし、するどく一閃を放った。刃は外甲羅を貫き、内部まで破壊した。バチバチと火花が散ると、数秒後にはサユリという機械蜘蛛が鎮圧した。

その骸を見て、涙が頬を伝い落ちた。雫は砂漠に落ちると儚くすぐに消え去った。

僕は遠く、遠く、空を見上げた。

「どうか、魂を解放しておくれ」


僕は、ある少女を救いに異世界に来た。

最強にして最悪な終焉PLAYERS HIを倒し、この世界の円環を調べるのが自分の任務だ。現世の地球はアンドロイドに支配され、人類は種として存続を危ぶまれているんだ。

「アンドロイドが作った世界なら、ここで何かが行われているのが筋だよね」

『以前から、この世界には巨大なエネルギーを感じています』

「今何処にいるの?」

『MODLE 港区です』

「港区って言うんだ。なんか、人間を殺すには丁度いい空間に感じるんだよね‥‥うわっ!あちちっ!」

突然、風が吹き荒れた。熱風混じりの砂漠砂が視界を掻き消す。たまらず顔を腕で拭うと、今度はじんわりと体が冷え込んできた。

『環境システム作動。冷却中です』

「環境システムだって!?そういえば、乾燥した大地なのに汗が出ていない‥‥。アリスが作ってくれたこの服ってもしかして‥‥」

僕の着る黒の詰襟の制服は豪勢な刺繍が施されていた。上質なシルクのような着心地。さらに腕についた電子パネルには作動中と写しだされている。どうやらさっき体温異常を感知したようだ。

「凄い。まるで服自体が高性能のマシンだよね。よし。探索モードに移行しよう」

αが声に反応し「ギュイン」と音を鳴す。黒眼に沿いながら白い光が発光すると、眼窩に埋め込められた特殊レンズがピピッっと鳴る。HUD《ヘッドアップディスプレイ》が起動した。

目の前にいくつもの白い円が浮かんでくる。次々に人間の死体に反応し、光を当てていく。終焉PLAYES HIの探索が始まった。

「違う。それではない。また違う。くっ。死体が多すぎるよ。もっと別の反応は?あ!待て!それをスキャンして!」

円が共鳴するように収縮している。その中心部分は赤く光りだした。強い反応だ。

「あそこか!」

200メートル先の高層タワー。その上空の彼方。千余の無人機ドローン達がチカチカとライトを点滅させ、厳戒態勢をとっている。

更に一点。円が強く発光させているのが分かった。

「いた!終焉PLAYERS HIだ!」


それは姿は神々しかった。強靭な黒いオーラを放ち肌がまだらに銀色に光る。高速に動く羽根を広げ、浮遊している。武器を一つとして持たない女神。その全身はまるで隙がない。圧倒的存在。まさに神話のアンドロイドの異形だ。

「一気に蹴りをつける。αモード」

再び瞳が声に反応する。

青色の日本刀を手のひらに出現させると。

剣先を終焉に向けて突きつけた。


「アリス。だから。今すぐ君を殺させてくれ」




『PLAYERS HI』

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