初遭遇

 音の無い海に巨大な宇宙船が浮かんでいた。遠くには幾千もの星々がちかちかと瞬き、曲線で構成された銀色の船体を彩っている。


「博士~! これは一体どんな生物ですか?」

 研究区画にて、若い研究員が一人用宇宙船に乗りこちらへふよふよと寄ってきた。機体から伸びた金属の手で何かを持っている。

「ん? 君はどこでそれを拾ってきたんだい」

 私は初めて見る物に内心驚いていたが、彼の手前表情には出さずに聞いた。

「えーっと……あの銀河系の辺りですね」

 宇宙船の銀色の円盤からにゅっとライトを伸ばし、その生物が居たであろう宙域を空中に映した。

「ふぅむ、あの辺りにこんな生物は居なかった筈だが」

 あるのは氷に覆われた星とか燃えさかる炎の星とか。あとは岩や砂だらけの星もあった気がする。

「博士も知らないんですか~」

 そんな顔で私を見るな!

 その表情はまるで無知な存在を見ているようではないか。

「いやいや、知っておるぞ!」

 ここは博士としての威厳を見せつけねばなるまい。

「おおー! 流石博士です」

 うむうむ、そうだろう。

「じゃあ~、これって一体どんな生物なんですか?」

 期待に目を輝かせている研究員と同じくメタリックなアームを伸ばすとそれを受け取る。感触は意外と柔らかい。

 私は自分の機体に搭載された分析装置を起動し、研究員にバレないように隅々まで探査する。

 結果を見てみると、外皮は着脱可能な装置であるようだった。中身である肌色の身体には細かい毛が生えていて大きな穴も幾つか開いている。胴体と思われる所から突起が五つ伸びていて、一本は丸くて短い。残り二本ずつがそれぞれ同じ長さのようだ。その先端は枝分かれしていてーー。

「うーむ……」

 分からん。様々な星を巡ってきたが、これほど複雑で珍妙な生物は他に例が無い。気体の出入りもあるようで、二つ並んだ穴から出たり入ったりしている。

「じー」

 うぅ、研究員よ。そんなに期待した目でじっと見つめんでもいいではないか。もう少し時間を掛けて詳しく調べたいが、たまにビクッと動くし正直怖いんじゃぞ。

「うをっほん、思い出したぞぃ」

 しばらく触ったり、光を当てたりして反応を見た私は、思いつくまでの時間を咳で吹き飛ばし、ついに言葉にした。

「これはなーー」


 その後、謎の生物には逃走防止用の首輪が嵌められ、ペットとして飼われる事となる。個体名はピルピル。大変珍しい愛玩動物であるとの博士の言葉により、響きの可愛い名前が付けられた。

 意外と賢く、芸や声真似なども披露するそれはマスコット的存在として、その一生を終えるまで船員達に大層可愛がられたという。


 博士と研究員は二言三言会話した後、その生物を研究用の檻の中にそっと入れた。博士は船長に報告をしに研究室を出て行く。研究員も別の用事があるのか研究室を出て行った。

 静寂だけが残る中、彼は意識を取り戻した。

「んん? ここは……」

 宇宙遊泳中に気を失った彼は、連れ去られたことなど知る由も無い。地球から遠く離れた宇宙船にて、人類と異星人はこうして初遭遇を果たすのだった。

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徒然なるままに~短編集め~ リフ @Thyreus_decorus

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