終章 ココロ

 お昼ご飯を食べ終わると、荷物にもつをもって一目散いちもくさんにフミヤの部屋に向かった。

「ヤッホー!!」

 とドアをバーンとひらき、部屋の中に入った。

 でも、返事へんじがなかった。

 いつもいるフミヤがベットにいなかった。

 あれっと思ったその時、クレアがルビの前に現れた。

「?!」

 クレアはルビに向かい

「ルビ、落ち着いて聞きなさい。」

 と話し、ルビはうなずく。

「もうそろそろ天国界からフミヤ君を連れて行く使者たちがやってくるの。」

「フミヤ君は天国界に旅立つの。」

 ルビはおどろいてとても声を出す状況じょうきょうになかった。

「今からフミヤ君のいるとこに行くよ。」

 ルビはコクっとうなづくことしか出来なかった。


                  ※


 集中しゅうちゅう治療室ちりょうしつとびらの所にママと並んだ。

 フミヤは『ゼエゼエ』と呼吸し苦しそうだった。

 くだつながっている透明とうめいなマスクがフミヤの口元くちもとおお呼吸こきゅうで白くくもっていた。

「ルビ。」

 クレアはルビを呼ぶ。

「何?」

 少し体が震えていた。

「フミヤ君はね、一度天国界でたましいいやし、また人間界に転生てんせいさせることに決まったのよ。」

 ルビはうつむいたまま玉のようななみだをこぼし続けていた。

 クレアは続ける。

「もう一度フミヤ君にあって最後さいごのお話をしたら?」

 ルビはおどろいて、

「そんなことできるの?」

 と質問した。

「ママがルビのココロを、フミヤ君のココロの扉の前にまで飛ばします。」

「その扉の前でフミヤ君を呼びなさい。」

「フミヤ君がルビのことを親友と、一番大切な友達と思っているのなら扉は開き、フミヤ君と会えるでしょう。」

「もしそうでなくただの友達と思っているなら扉は閉まったまま。」

「どうする、ルビ?」

 ルビは悩んだ。

「もしフミヤのココロの扉があかなかったら、フミヤは親友じゃないと思っていたという事になる。」

「その現実を受け入れる勇気がぼくにあるの?」

 ルビはその現実を受け入れることにこわさを感じていたが、自分を、フミヤを信じることにした。

「ママ、僕のココロをフミヤに送って!」

 クレアはやさしい笑顔で、

「わかったわ、行ってらっしゃい」

 ルビのココロはフミヤのもとに飛び込んだ。


                   ※


 まわ一帯いったいががまっ白い中に、ポツンと一人ルビは立っていた。

 ただ真っ白い世界、というよりは空間くうかんだった。

 ルビは緊張きんちょうしながらも、フミヤが言ってくれた『自分を信じる』。

 今がその時だと思った。

 ルビはさけんだ。

「フミヤ!!」

「ルビだよ!!」

「会いに来たから扉を開けてくれよ!!」

 そうすると目の前が輝きだしてルビはその光のうずに流れ込んだ。

 ルビは周りを見渡みわたすと、ついこの前の夜、空を飛んだ夜景と星空の世界に浮かんでいた。

「ルビ。」

 後ろを振り向くとフミヤが立っていた。

「フミヤ!!」

 ルビは駆け足でフミヤに向かって飛びつき抱きついた。

「ありがとうルビ、僕を呼んでくれて。」

「こうやって会えるのも親友のあかしかな。」

 フミヤはしずかにほほんだ。

「当たり前だよ。フミヤ。」

 ルビは少し目をうるませて言った。

「見てごらん、ルビ。」

「ちょっと前に見た僕の人生じんせい最高さいこう景色けしきだよ、ありがとう。」

 ルビはだんだんひとみから涙がこぼれてきて、

「ありがとうばっかり言わないでよ。」

「まだまだこれからだよ、フミヤ!」

 フミヤは静かに微笑びしょうし答えた。

やさしいなあ、ルビは。」

「ルビと出会えて、毎週が楽しくて、最後さいごには夢までかなって、ルビは死神だけど、ぼくとっては神様さ。」

「何言ってるんだよ、親友だろう!」

「あ、そっか。」

 ルビは涙をぬぐい、二人してクスクス笑った。

 そしてフミヤはルビにいた。

「俺のたましい、ルビが取りに来たの?」

「もうそろそろだと思うんだけどな。」

「僕なんかじゃなよ。本当は内緒ないしょだけど・・・もしかしたら数十年後すうじゅうねんごにはまた会えるかもね。」

 ルビは最後のほうはとても小さい声で言った。

「え、なになに、最後の方なんて言ったの?」

「やっぱり内緒。」

「ちぇ勿体もったいぶりやがって。」

 とつぶやいた。

 その時だった。

 周りの星空や夜景の夜の景色が徐々に白くなり、フミヤの頭の上から少しずつ明かりがはじめた。

 その時ルビは、フミヤからはなされる力を感じた。

「もう使者が来たんだ。」

 ルビは素早すばやくフミヤと両手で手をつないだ。

「フミヤ、僕絶対に忘れないから。」

「俺もだよ。」

「あたり前だろ。」

 ルビとフミヤは反対方向にられてゆき、徐々じょじょに手がはなれてゆく。

「フミヤ!!」

 もうルビはそれしか言えなかった。

 フミヤは泣きながらも、笑顔で、じっとルビを見つめるだけだった。


                    ※


 ルビはすっと自分の体に戻った。

 すぐさまフミヤを見ると、体中に上空からキラキラとした美しい光が当たっていた。

「よく見ておきなさい、ルビ。」

 クレアはそういうと、ルビの方を見た。

 もうルビは泣いていなかった。

 真っ赤な目を大きくして、真剣しんけんにフミヤの方を見ていた。

 少しして、天国界から美しい羽根を持った女性が二人舞い降りてきた。

 ママが、

「天使よ。」

 と教えてくれた。

 天使がフミヤの周りをゆっくり回っていると、実体のフミヤの体から、フミヤのたましいがゆっくりとはなれていった。

 その姿は、今寝ている姿と全く同じ、違うとすれば半透明に見えたこと。

 天使が上空に少しずつ上がっていくと、フミヤも完全かんぜんに体と分離ぶんりしてゆっくりと上がっていった。

 その時ルビは見逃みのがさなかった。フミヤの右手がこぶしにぎり、ルビの方に向けて親指を立てた。

 いつものサインだった。

 ルビは深々ふかぶか帽子ぼうしをかぶり、フミヤに向かって今までのお決まりサインを返した。


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