第5章 フミヤ

 すべてがしんどかった。

 なんでおれなの?

 なんでおれがそうなるの?

 初めのころはいつもそんなことばかり考えていた。

 でも、いつの間にかそんな不安の感情かんじょうれてしまった。

 もう学校には1年半以上も行っていない。

 そんなさびしさも、結局けっきょくれてしまうものだった。

 「ウ!!」

 またがやってきた。

 このはげしいき気ににえる時間だ。

 めずらしく全身の痛みが少なかったのに、今日はこれかよ。

 この治療の副作用ふくさようや病気の痛みはまったくれることはなかった。

 トイレにとりあえず行くが、出るのは白くにごった胃液いえきだけ。

 でも、吐き気が苦しくて苦しくてしょうがない。

 自然と目がうるんできた。

 つらいからとか、かなしいかとか、感情的かんじょうてきなものじゃない。

 ただ、このなみだが出るくらいくるしいから・・・。


               ※


 初めは小学校4年のおわごろだった。

 みょうにだるい日が続き、貧血気味ひんけつぎみになってたおれてしまった。

 熱も39度近く出たり、胃にたまっていた物をよく吐いたり。

 両親も、風邪かぜとかじゃないのにおかしいと感じ、いよいよと思って近くの総合病院に行った。

 そしたら血液とか採られて精密せいみつ検査けんさをさせられた。


 そのあとはお決まりのコース。

 県立の○〇がんセンターの小児科を紹介された。

 まだ俺は小学4年なのにもう自然告知状態だった。


               ※


 がんセンターで精密せいみつ検査けんさをした結果けっか、「小児しょうにがん」って診断しんだんされた。

 それと「白血病はっけつびょう」という言葉も付け加えられてた。

 これからこうガン治療ちりょうを約半年ここで入院して治療ちりょうすること、や、かみの毛がけたり、皮膚ひふがただれたりすることもあるけれど、副作用ふくさようだからともに戦っていこうと主治医しゅじいは言っていた。

 そして生存率せいぞんりつも今は高いということも言っていた。

 今の小児がんの生存率せいぞんりつは約80%、フミヤ君だったら大丈夫と元気づけてくれた。

 あの時はそれがうれしかった。


 でもいざ入院生活が始まると放射ほうしゃせん治療ちりょう無菌室むきんしつでのこうがんざい治療ちりょう副作用ふくさようがとてつもなくつらかった。

 全身の痛みも止まらず、朝までれずに一人泣きっぱなしの時もあった。

 そのときにはすでに、小学5年生となっていた。

 それでも半年間えて、検査値けんさちが落ち着いたので院外いんがい治療ちりょう通所つうしょ治療ちりょうに切り替わった。

 それと同時に学校にも行けるようになった。

 小学4年の友達だったやつも同じクラスにいてうれしかった。

 はげしい運動うんどうとかはできなかったけれど、友達とのばかげた会話やふざけたりしたのは楽しかった。


 けど、小学校に戻って半年もしないうちに再入院になった。

 検査値けんさちが落ち着かなくなったこと、よく貧血ひんけつを起こしたり、鼻血などの出血が止まらなくなったりしたことが原因だった。

 正直、通学路を歩くこと自体、苦しくてしょうがなかった

 

 でも初めのうちは、友達が良く見舞みまいに来てくれた。

 結構にぎやかだった。親友のユタカやその仲間たちもずっと見舞みまいに来るからなといてくれた。たのもしかった。また絶対ぜったいなおしてやると決心したんだ。

 『何度もきながら』、『なんども一日中続く痛みをこらえながら』、『食べたいものも食べれなくぐらいの口内炎も』、

         

        ・・・・・・・・・・・・

 

                  ※


 翌年の3~4月、小学6年のクラス替えになったあたりから徐々じょじょ見舞みまいに来るやつっていった。

 そして、6月、顔面がんめんの右側がみょうに動かしづらくなり、はしもうまく使えなくなってきたころで再検査をした。

 転移だった。

 病名は「脳腫瘍」。

 白血病という血液のがんなだけに転移しやすいらしい。その頃の僕はほとんど自力で立つことすらできなくなっていた。

 またそんな気力もなく、ちょっと移動するときなどはもう車いすだった。



 そのころになるとほとんど見舞みまいに来るやつなんかいなかった。



 その時思ったんだ。

 口では友達ともだちだから、クラスメートだから、親友だから、と言っておきながら、結局けっきょく自分の人生が大切なんだなって。

 でも冷静れいせいに考えれば、当たり前のことなんだ。

 クラスも入院中に2度も変わり、印象いんしょうがうすくなって、見舞みまいの一つも、話をしてくれるやつも、誰もいなくなるのは必然ひつぜんだって、わかっているつもりだった。

 でも、感情かんじょうが、心が、とてもゆるしてくれなかった。

 まるで嫉妬しっとみたいで自分自身がとてもいやだった。

 しかし、のう腫瘍しゅよう手術しゅじゅつ日程にってい白血病はっけつびょうとの併発へいはつでなかなかまとまらず、両親は暗い顔ばっかり、自分ももう死ぬんだなって思ったら、涙が急にあふれてきたんだ。

 そして一晩泣いたら、もう涙は逆に出なくなってしまった。

              ・・・・・・感情が枯れてしまったんだ。


 つい最近は、この痛みや悪寒おかん、その他いろいろな痛みや苦しみからもう逃げ出したいと思った。

 窓辺まどべを見てここからりればと本当に楽になれそうだよなって考えて、いつ実行じっこうしようかとも考えた時もあった。

 もう自力で立てないから絶対ぜったい無理むりなのはわかっていても・・・。


 そんな時だった。ルビって死神が来たのは。僕は人生じんせい最後さいごけをすることにした。本当に親友というきずなは生まれるのか。ルビにならけてもいいかなと思ったんだ。




 こんな僕は、きっとルビの言う地獄界に行くんだろうな・・・。

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