第4章 友達と会うために

 二人は死神界に戻り、自宅へと歩いていた。

 クレアはルビに質問した。

「どうでしたか? ルビ。」

 ルビは興奮こうふんした様子ようすで、

「楽しかった!!」

「すっごいドキドキしたけど、フミヤ、とってもいいやつでね。」

「フミヤと友達になって握手あくしゅしたんだよ。握手あくしゅ

 と言いながら右手を前に出し何回もフリフリした。

「うふふふ。」

 クレアは右手のこぶしを口元に持っていきくすくすと笑い始めた。

「ほんとによかったわね、ルビ。」

「そんなに喜んでもらえてうれしいわ。」

 そうこたえると、クレアも一安心ひとあんしんした様子ようすだった。

 ルビとクレアは二人手をつなぎながら歩いて行った。


               ※


 自宅に戻りクレアは、おばあ様のパトラとルビ、あと自分の分のホットミルクを作り、クッキーを準備じゅんびした。

 ルビは、ホットミルクを飲みクッキーを食べながら、ママとおばあちゃんに今日あったフミヤのことを身振みぶ手振てぶりで一所懸命いっしょけんめい説明せつめいした。

 パトラはクレアに話しかけていた。

「いいのかい、勝手かってにまだ小学生のルビを人間界に連れて行ってしまって。」

「ばれたら統括官とうかつかん注意ちゅうい程度ていどではすまなくなるかもしれないのよ。」

 パトラはそう言うと、ルビの方に向き

「ねえ、ルビ。」

 と、そのせて血管けっかんいたしわくちゃな手で、ゆっくりとルビの綺麗きれいでふわふわとしたブロンドのかみをなでてくれた。

 ルビはママのやわらかくあたたかい手ででられるのも大好きだったけれど、ちょっとごつごつしたパトラおばあちゃんの手も、とても優しさが伝わり、ママと同じくらい大好きだった。

 ルビはでられると目をつぶりニコニコとしていた。

「いいのよ、おばあ様。」

「これぐらいの覚悟かくごじゃなきゃ、ルビを人間界に連れていけないわ。」

 不思議ふしぎとクレアはニコニコしながらパトラに返事をした。

 そんな表情がルビには不思議ふしぎに思った。

「ねえ、ママ。」

「僕が人間界にって、ママがそんな危険きけんになるんだったら、行くのや止めたほうがいい?」

 ルビはものすごく残念ざんねんな顔でクレアに言った。

「そんなこと、ルビが心配しんぱいしなくていいの。」

 クレアは答え、言葉をつづけた。

「フミヤ君と大切たいせつ約束やくそくしたでしょ!」

「うん。だからさ、どうしたらいいか今、考えちゃって・・・。」

 クレアはルビに優しくかたり始めた。

「いい、ママはね、ルビに人間界の子と友達になって、それを通じて強くなってほしいの。」

「わかるかな、だから今日きょう友達ともだちができたことは、ルビの勇気ゆうきのたまもの、奇跡きせきなのよ。」

「だからこそ、今この時を大切にしてもらいたいの。」

「友達ができたチャンスをのがしてほしくないのよ。」

「きっとフミヤ君は待ってるわ、ルビのことを。」

 ルビは神妙しんみょうな気持ちでクレアの話を聞きながらも、最後さいごの言葉でパアと気持ちが明るくなった。

 今度は、ルビが話し始めた。

「ママ、おばあちゃん、今日あった友達のフミヤはね、『もっと堂々としろ』と言ってくれたんだ。そして『一人でも自分は大丈夫だ』と開き直れともいわれたんだ。」

「初めは違和感いわかんあったけれど、今思うと『確かにそうなんだな。』って思うようになったんだ。」

「また明日から、学校が始まるけれど、意地悪いじわるでからかうやつらは無視むししようと思うんだ。」

「たぶん心がけそうになって苦しいと思う。」

「でも、勇気ゆうきを出してともだちになってくれたフミヤのこと見習みならって、『一人でも立っていられるんだよ』って頑張がんばりたい!」

 その言葉を聞いたクレアはひとみをちょっとうるませて

「ルビ!えらいわ、頑張がんばって!!」

 と、ルビを抱きしめた。

 大好きなママの胸の中に顔をうずめて、とても幸せな気分だった。

 同時どうじにパトラもルビの頭をなでて、

「よく言ったね、ルビや、きっとお前は一人前になれるよ。」

 と言ってくれた。

 ルビは今とても幸せな気分で一杯いっぱいだった。


                ※


 その日の夜、夕食後の一段落いちだんらくの時、クレアは自分の“たまはこび”の仕事の時に使う“かま”を持ってきた。

 ルビはどうするんだろうと不思議ふしぎに思った。

 クレアは、自分のかまをルビの身長に合うようにナタで切り落とした。

「!!」

 ルビはびっくりして声も出なかった。

 パトラおばあちゃんの方を見ると、同じような表情をしていて、お互い目を合わせた。

 パトラはクレアに言った。

「なにやってるの、クレア!」

 クレアは表情を変えずに答えた。

「なにってルビ用のかまを作ってるのよ。」

 パトラはせきを切ったように話した。

「あんた、こんな事したら自分の仕事ができないよ。わかってるの?」

「わかってるわよ。」

 クレアはナタで切り落としたを今度はナイフできれいに形を整えていた。

「今はね、ルビが一番大切な時期じきなの。」

「だから今一番大事なこと、優先ゆうせん順位じゅんいを考えれば私の仕事より、ルビのことの方が大切なのよ。」

 パトラは心配そうに、

「だからといってお前・・・・・。」

 と答えていた。

「心配しないでおばあ様。」

「何か仕事が入ったら、ちょっと風邪ひいて寝込んでますって言って、お仕事を休むから。」

かま自体は、ルビが一段落いちだんらくしたら、になる魔法樹まほうじゅあらためてパパと一緒いっしょに探してくるわ。」

 パトラはあきれ顔で

「全く、クレアは小さい時からこれと思ったら曲げない子だったわね。」

 と右手で顔を半分かくすようなしぐさをして目をつぶっていた。

 そんな会話をルビはドキドキしながら聞いていた。

 ルビはクレアにいた。

「ママ、どうして僕用のかまが必要なの?」

 そう聞くとクレアは、

「ルビはまだ全然魔法まほうを習ってないでしょ。」

「うん」

「だから、これから一人で不自由なく会えるように準備じゅんびしておくのよ。」

「え、一人で今度から行くの?」

「当たり前でしょ。」

「ルビの友達ともだちであって、ママの友達ともだちではないわ。」

 さすがのパトラも

「ちょっと、おまえ・・・・・・・。」

 と言いかけた時クレアはパトラに向かいウィンクした。

 パトラはそのあとはだまったままだった。

 でももう今のルビは臆病風おくびょうかぜかしてはいなかった。

 逆にワクワクしている自分を不思議ふしぎに感じていた。

「じゃママ、具体的ぐたいてきに使い方教えて。」

 クレアはゆっくりと話す。」

「使い方は簡単よ。」

「ルビがお友達と会って遊ぶのに必要ひつよう最低限さいていげん魔法まほうだけを念じて入れておきます。」

「一つは通過つうか魔法まほう、そしてお友達と会って話せる実在化じつざいか魔法まほう、あとはあまり無茶むちゃしてほしくないんだけど思ったことを人間界のみで発動はつどうできる具体化ぐたいか魔法まほう。」

「それら魔法まほうをかけたいところにかまを向けてねんじるだけで魔法まほう発動はつどうしてくれるわ。」

「それだけあれば十分よね、ルビ。」

「うん、大丈夫だと思う。」

 クレアは最後さいごに紙やすりでをきれいにいで、ささくれ一本ない状態にした。

 そして、両手で出来上がったかまを持ち上げると、クレアはよく読み取れない言葉で呪文じゅもんをかけていた。

 そうするとかまはオレンジ色や青色、緑色などに発光はっこうした。

 クレアの呪文が終わると同時に発光はっこうが収まり、いつものかまに戻った。

 そして、魔法力まほうりょくそなわったかまをルビに手渡てわたした。

「ルビ、あなたがフミヤ君と友達ともだちでいる間だけわたします。あなたを信じてるからこそわたします。もしお友達ともだちじゃなくなったり、いたずら目的で使った場合は返してもらいます。」

「いいわね、ルビ。」

 とても真剣しんけん眼差まなざしでルビを見据みすえてクレアは話し、かまをさしだした。

「ありがとう、ママ、フミヤもかまも大事にします。」

 ルビはクレアからかまをしっかりつかんで自分の胸に当て目を閉じじっと抱き続けた。

「僕とフミヤをつなげる大切なかま・・・・。」

 ルビにとってとても感慨深かんがいぶかいものだった。

 そんなルビを見るクレアとパトラのひとみも、とてもあたたかくやさしかった。

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