第3章 友達ができた!

 ルビはあわてふためいている少年に声をかけた。

「ねえ、人間さん、ちょっと落ち着いて。」

「ぼく、何もしないし・・・。」

 少年は改めて、

しゃべってる・・・。」

 と、顔を引きつらせておどろいていた。

 ルビは、

「何、今更いまさらしゃべってるって・・・、今までさんざんしゃべってるでしょ!」

 と少年にみつくように話した。

 そして、

「ねえ、人間さん、人間さんは今いくつなの?」

 と質問しつもんした。

 少年は、ガラッと不機嫌ふきげんな表情に変わり、

もうわけないんだけど、その『人間さん』ってやめてくれるかな。」

「僕にはちゃんと『フミヤ』っていう名前があるんだからさ。」

 ルビは素直すなおあやまった。

「ごめん、フミヤクン。」

 フミヤは、

「いいよ、フミヤで。」

「ちなみに俺は12さいだよ。」

 ルビはひとみをウルウルとかがやかせながら、

「同い年じゃ~ん!!」

 と喜んだ。

 両手を首元の前に組んで、こしを左右にクネクネさせた。

 それを見たフミヤは、

「いわゆるよろこびのダンス?」

 と、まるで不思議ふしぎちゃんを見ているようだった。

「それじゃ、ルビも12さいなの?」

 ルビは当たり前のごとく

「そうだよ。」

 と、答えた。

「死神にも年齢ねんれいがあるんだ。」

 フミヤはぼそっとつぶやき、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

 「でも、ずいぶんとちっこいね。150センチある?」

 そうフミヤが言い出すと、ルビはここでも言われるのかと思い、

「それは言わないで!!」

 とちょっと強めに反論はんろんした。

 ルビはちょっとむくれながらも、すたすたとフミヤに近づき、説明をつづけた。

「きちんと13さい卒業そつぎょう儀式ぎしきを終わらせ、お師匠ししょうさんの元につき、修行しゅぎょうを続ければちゃんと“たまはこび”のお仕事ができるようになるんだよ。」

「身長は関係ないの!!」

 ルビは、ふふん!と言わんばかりの自慢じまんがおで説明した。

「なんかそうなるとほんとに死神っぽいね。」

 フミヤがそう答えると

「ぽいねじゃないの、死神なの!」

 とあらためてルビはちょっとおこったように言葉を返した。

「あはははは、ごめんごめん。」

 フミヤは笑いながらルビにあやまった。

 そして、引き続き質問しつもんをつづけた。

「でもなんで僕のところに来たの?」

 今度はルビが、ちょっともじもじしながら話し始めた。

「・・・・それは。」

「笑わない?」

 フミヤは、どんとこいと言わんばかりの表情で言った。

「ああ、笑わない。」

 ルビは改めていた。

「ほんとに?」

 フミヤはかっこつけたように、

「ルビ、俺も男、男に二言はないぜ!」

 と少しあごを上げ任せろという感じでルビに向かって力強くこたえた

「それじゃ言うね。」

 ルビは話し始めた。

「実はね、今学校でいじめられっ子なんだ。名前や身長のことで。」

「それを見かねたママが、人間界に行き、フミヤに会って強くなりなさいって言われて・・・それで来たの。」

 ベットの上で上半身を起こしていたフミヤは両手でお腹を押さえて大笑いした。

「あはははははははは!!」

 ルビは真っ赤になって

「ひどい!笑った!」

 笑い終わったフミヤは答えた。

「いやいや、ごめんごめん!!」

 ルビはちょっとすねた様子で答えた。

「フミヤもそう思ってるんだ!」

 フミヤはちょっと考えている素振そぶりを見せた後、話をつづけた。

「すねるなよ、ルビ!」

「君たちの言うここの世界、人間界って言ったけ。」

「ここにもそんなことはたくさんあるし、まだルビへのいじめ方、かわいい方だよ。」

「そうなの?」

 ルビは首をかしげながらいた。

「ああ、そうさ。」

「人はさ、見かけや成績せいせきとか、お金を持ってるかどうかで、『強い、弱い』『良い、悪い』なんかを決めたがるもんなんだよ。」

「そして、人がいっぱいいる中の一人と思うと安心できるし、一人だけでいると不安で自身がなくなるんだよ。」

 ルビは真剣しんけん眼差まなざしでフミヤの話に聞き入っていた。

「僕ら死神界の小学校と同じだね。」

 フミヤは落ち着いた顔で答える。

「そうかい。」

「でもさ、そんなの今だけの話なんだよルビ、わかるかい。」

 フミヤの口調がだんだんと強くなっていく。

「ここで、しっかりルビが強くなって、一人でも大丈夫って開き直れたら状況はきっと変わるよ。」

 ルビはびっくりして聞き直した。

「ほんと!?」

「ほんとにそうなの。」

 かえし聞くルビにフミヤは答えた。

「そうさ、現に僕がそうだった。」

 ルビはびっくりした様子で、

「うそ!!」

 と、大声を出した。

「うそじゃないよ、僕も4年生の時はいじめられっ子だった。」

「だから、くやしかった。」

「でもね、そんなにしたしくない友達ともだちとさ、相手がどう思っているか気にしながら、付き合って安心あんしんするのはおかしいと思ったんだ。」

「そんなの関係ないって、それぐらいなら一人でいたほうが気楽だって、開き直ったら自然と状況じょうきょうは変わったよ。」

「今までちょっかい出してきたやつらは俺が反応しないから、面白くなくなっていじめるのをやめたんだ。」

「そうしたらどうなったと思う? ルビ。」

「どうなったの?」

 ルビは前のめりの恰好かっこうになって聞いていた。

「今まで話したことのなかった奴らがさ、話しかけてくるようになったんだよね。」

「それで新しい本当の友達ともだちができたんだ。」

「ルビ、ホントに些細ささいなことなんだ。」

 調子が悪そうな顔色は変わっていなかったが、少し興奮こうふんしたようにルビに話かけ続けた。

「まだ、会ったばかりだけど、ルビ。」

おれはお前のこといいやつだと感じたよ。」

「きっとそう思ってるやつはいっぱいいると思う。」

「ただ、一部のやつらがいじめてるから、もしかしたら、友達ともだち候補こうほになれるようなやつが話しかけれずにいるだけかもよ?」

 そう聞くとルビはすっごくにやけた顔をした。

「そうなんだあ、こんな僕に話したがってる人いるんだあ、うれしいなあ!!」

 と、声をはずませた。

「あ、いや、絶対ぜったいいるとは言ってないからね。」

 あわててフミヤは忠告ちゅうこくした。

 そして少し考えた後、ルビに引き続き話し始めた。

「もしかしたら相手はからかってるだけで、別にいじめてるとは思っていないかもよ。」

「一度話してみたら、そのからかっている子たちと?」

 いきなりルビはオドオドして、

「無理だよ・・・・・・怖いよ・・・・・・。」

 と、答えた。

 ルビは、ちょっと足をカクカクさせていた。

 フミヤは、

「う~ん・・・・・・。」

 と、考え込んだ。


 そうすると外からコンコンとノックの音がした。

「あ、ママからだ。」

「もう帰らなきゃいけない、フミヤ。」

 と、あわててフミヤに話す。

「そっか、死神がいなくなるのは、基本いいことだよね。」

 ルビはふくれっ面になって

「そんな意地悪いじわるなこと言わないでよ。」

「あははははは」

 と、カラカラとフミヤは笑う。

 ルビは勇気を出して今の自分の気持ちを素直すなおに言った。

「ねえ、フミヤ、僕とともだちになってほしい。」

「そしてもっとフミヤのこと、知りたいし、もっと話したり、遊んだりしたい!」

 不思議ふしぎとフミヤは微笑ほほえんで、

「死神なのに変な奴。」

 というと、

「いいよ、俺、いつも一人で正直つまんなかったんだ。」

「これから友達ともだちだ、ルビ。」

 そう言うとフミヤは右手を出した。

「なにそれ。」

 ルビは頭の上に?マークがつくような表情をした。

 フミヤは、

「ルビも右手を出して、握手あくしゅするんだよ。」

「死神界にはないの? 握手あくしゅ。」

 フミヤは少しあきれたような感じだった。

「あ、うん!」

 ルビはとてもうれしかった。

友達ともだち握手あくしゅっていつぶりだろう?」

 と考えてしまった。

 そして、ルビとフミヤは強く握手あくしゅわした。

「フミヤ、また近いうち必ず来るからね。」

 ルビがそう話と、フミヤは急にさびしさと期待きたいの入りじったような表情をした。

「うそじゃないよな、ルビ・・・・・・。」

 今まであつかたっていたフミヤとは全然ちがったさびしそうな声だった。

「もちろんだよ、もう友達ともだちだろ!!」

 ルビはルビなりの気持ちをめて力強く言った。

「わかった、待ってるよ。」

 フミヤの表情が少し明るくなったように見えた。

 ルビから切り出す。


「じゃ、またね!」


「ああ、またな!」


 ルビはドアをすりけてっていった。


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