第2章 初対面

 ルビはクレアの後をついていった。

 病棟びょうとうの東側に個室が並ぶ。

 クレアは、とある一室のドアの前で立ち止まった。

 クレアはひざを折り、ルビのひとみを見て、

「ルビ、ここに一人の同い年の男の子がいるわ。」

「その子と会ってきなさい。」

 そういうと、ドアの中央から下にかけて空間のねじれを作った。

「ママ、ちょ・・・ちょっと待って。」

 ルビはあわててクレアの方を向いてひとみを真ん丸にして話しだした。

「僕、できないよ。」

「こんなの、いきなりだし、相手、人間さんだよ!人間さん!!」

 ルビは必至ひっしだった。

「ママ、まさか『一人で行って来い』なんて言わないよね?」

 ルビはもう涙目なみだめだった。

 クレアは、

「もちろん、そのまさかよ。」

 とニコニコと話した。

「ルビ、まずは人間界の人と、死神の仕事以外でみんなよりも早く会って話すこと。」

「それはとても貴重きちょう経験けいけんよ。」

「きっと一回りも二回りも大きくなれるから。」

 とここまでやさしくさとすように言っていたクレアの表情が急に変わり、

「いってきなさい!」

 最後の言葉はドスが聞いていてルビは背筋せすじこおる思いだった。

「わかったよ。」

「行きますよ~だ!!」

 ルビは半分キレ気味でドアの前に立った。


 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ルビは立ったまま動けなかった。

 クレアは

「ルビ!!」

 と怒鳴どなると

「ルビ、いきまぁ~す・・・・・・。」

 と、か細く掛け声をかけるルビだった。


               ※


 ルビは、そっとドアのもやっとした部分の所に頭から入っていった。

 そしてドアをすり抜けると、程よい広さの個室の中に入った。

 真正面には窓があり、右側奥に本棚、その手前からベット、冷蔵庫、その上にテレビと置いてあった。

 壁には特にカレンダー以外はっていなかった。

 ルビから見てもなんか殺風景さっぷうけい景色けしきだった。


 窓が左右半分ずつあけてあり、心地よい風が入ってきている。

 ベットは少し高くしてあり、上半身の部分がほんの少し前に傾いていた。

 少年は心地ここちよく寝ていた。

 左手に細い管が通っていて、横に立っている棒にぶら下がっている袋とつながっていた


 ルビはゆっくりと少年のもとに近づいた。

 そして、そっと首をかしげながら、少年の顔をのぞきこんだ。

 少年の顔は色白で意外とまつ毛が長かった。

 ほのかに唇が赤いが、正直に言うと顔色が悪く見えた。

「大丈夫かな?」

 と思った瞬間しゅんかん、ルビの鼻がむずかゆくなってきた。

「やっばい!」

 ルビは心の中でそう思うと、首をかしげてのぞんでいるギコチナイ姿のまま、つま先立ちをして、ちょこちょこと後ろに下がり始めた。

 はたから見たらルビは、かなり滑稽こっけいな姿だった。

 しかし、5歩程歩いたところで願いかなわす、

「ハ・・・・・・ハ・・・ハクション!!」

 と大きく、くしゃみをした。

 少年はびっくりしたように目をまし、

「誰!!」

 とさけぶ。

 ルビは病室のベットとドアの中央あたりに立ち、左手でとんがり帽子ぼうしを目の下までり下げ顔をかくし、右手でそっと手をげた。


 少年は、真っ黒なチビちゃんがぶるぶるふるえながらそっと右手をげる姿に思わずしてしまった。

「あははは。」

 そのまま少年はルビに問いかけた。

「きみ、誰?」

 ルビは帽子をゆっくりと元に戻し、少年に答えた。

「僕はルビっていいます。」

 まだ、ほかに何を言っていいのかわからなかった。

「へー、『ルビ』っていうんだ、かわいい名前だね、女の子?」

「本名は?」

 ルビはその質問にむっとして、

「僕は男の子だし、『ルビ』も本名です!」

 と強い口調で話した。

 少年はびっくりして、

「ごめんごめん。」

「でも、あまりにもかわいい名前と姿だったから。」

「でも、大部屋の人? この病院の新人さん? まだハロウィンには程遠ほどとおいし、いきなり部屋に入ってきちゃだめだと思うな。」

 少年の言葉づかいは丁寧ていねいだったが、多少怒っている雰囲気ふんいきも感じた。

 ルビは、素直すなおに頭を下げて

勝手かってに入ってきちゃったのはごめんなさい。」

「でも僕はここの世界の人間さんじゃないんだ。」

「人間さん?」

 聞きなれない言い回しに困惑こんわくする少年だった。

 もうルビは、全部ほんとのことを言って理解してもらおうと思った。

「僕は、死神界から来た『ルビ』っていうんだ。ちゃんとした男の子だよ。」

「今日は君と友達になるためにやってきたんだ。」


「へ・・・・・・?」

 少年はルビが突拍子とっぴょうしもないことをいうのでちょっとほうけてしまった。

 しかしすぐ理性を取り戻し、ルビにもう一度質問した。

「ルビ、って言っていいかな?」

「いいよ!」

 ルビはニコニコと即答した、だんだんこの状況にれてきた感じだった。

「もう一度聞きたいんだけど、どこから来たの?」

「・・・・・・死神界・・・・・・」

 少年は大きな声でルビにいた。

「俺もう死ぬの!?」

 ルビは即答そくとうした。

「違う違う。」

「僕みたいな見習い以下にはそんな大それたことはできないって。」

「ただ今日は、人間界の友達を作りにママと一緒いっしょに来たの。」

「ふう、そうなんだ・・・・ってなんでいるの、こんなとこ?」

「なんで死神見れるの?」

「なんで死神の友達が俺なの?」

 ルビは正直、

「当たり前だよね、こんなに動揺どうようするの・・・・・・。」

「まったくママはこういう状況になるのわかってないのかな?」

 と、ルビにしては以外にも冷静れいせいに、少年の様子を見ながら。

「どうやってこの人間くんを落ち着かせよう?」

 と考えていた。


                ※


 クレアはドアの外で透視魔法でルビと少年の一部始終を見ている最中だった。

 それはもう、面白くて面白くて、たまらなかった。

 大笑いしそうで声がが出そうなのを右手で押さえてこらえていた。

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