そのに

 オグロプレーリードッグから、船づくりのお願いを聞いたアメリカビーバーは、こころよく頷いてくれました。

 ちょうど、アメリカビーバーも、どう恩返ししようか、悩んでいたところだったので、船だけに、渡りに船、というやつだった訳です。

 ヨダカの持ち運んだ、船の、沈んでいたのを眺めて、うんうんと頷き、何やらごそごそと、手元を動かしています。


「ふむふむ……なるほど。この、船っていうの、ほんとは、なくなってる先も、残ってる側とおんなじ形をしてたと思うんっスよ。多分、こういう感じで」


「ふあぁ、ほんとに、見ただけで形がわかるんだぁ。葉っぱをそんな風にしちゃうなんて、すごく器用だよぅ」


 アメリカビーバーの作った、葉っぱのお船を見て、ミナミコアリクイたちは、感心の声をあげました。

 ちゃんと水にも浮くので、大したものですが、アメリカビーバーは、難しそうな顔をしています。


「でも、葉っぱだから簡単に折れたっスけど、これを、木でやるとなると、かなり大変っスね……木は折れないっスから、組み合わせるしかないっスけど、そうなると、ぴったり合わせないと、水が入って、すぐに沈んじゃうっス。とりあえず、こんな感じで……」


「なるほどであります! よーし、早速、やってみるであります! うおおお!」


「す、すごい気迫ですね……」


「プレーリーさんは、すごいんっスよ。失敗することを全然怖がらずに、どんどんいろんなことに挑戦出来るんっス。尊敬っス……」


「ふへへ。プレーリーも、ビーバーのこと、すごいって言ってたよぅ。仲良しだね」


「同意。2人とも、すごい」


「手伝うなんて言った手前ですけど、僕たちの出番なんて、ないかもですね、これは」


 ビーバーが模型を組み立てれば、すぐにプレーリーが作業にかかります。

 その手並みがあんまり鮮やかなもので、ミナミコアリクイたちは、ただただ舌を巻くばかり。

 そんな様子を見ていたビーバーが、何か思いついた風に、三人へ、一つ、お願いごとをします。


「皆さんには、何本か、これの大きいのを作ってみてほしいっス。きっと、船に乗った後に、必要になるっス」


「これの、大きいもの。了解、材料を選定する」


「頑張るよぅっ! あたし、こう見えて爪の力、強いんだよぅ!」


「……優しいんですね、ビーバーさん」


「優しいのは、皆さんの方っスよ。ボスにも、お世話になってるっスから」


「そうですね……よし! 僕も手伝います、ヨダカさん、ミナミコアリクイさん!」


 リカオンはこっそり、ビーバーと微笑み合いながら、仕事を貰って、張り切って材木のほうに向かっていくヨダカとミナミコアリクイの後姿を追いました。

 さて、そうこうしているうちに、ビーバーの作った模型を、そのまま大きくしたような、立派な木の船が、出来上がります。


「出来たであります!」


「もう出来たんですか!? 流石ですね……」


「ふあぁ、すごぅい……こんなでっかいのが、ほんとに水に浮いちゃうなんて! ねぇねぇっ、早速、浮かべてみよぅよぅ!」


「了解。運搬する」


 みんなは、完成した船を、力持ちのヨダカを中心に、うんしょ、うんしょ、と、力を合わせて持ち上げて、あのさんばしのところまで、運びました。

 そうして、そっと水面に下ろしてやると、本当に、水が入ってきて、沈んでしまうこともなく、ぷかぷかと、その場に浮き上がったのです。


「やったぁ! ちゃんと浮いてるよぅ!」


「ほっ……よかったっスぅ」


「大成功でありますな! いい汗かいたであります!」


「船、できましたよ。どうですか、ボス……ボス?」


『ビ、ビビビ……ッ』


 足元のボスに、リカオンが話しかけますが、なんだか、ちょっと様子が変です。

 普段とは違う鳴き声を出してるのを、心配げに、みんなが見守っていると、少しして、ボートへ向かって、歩き出しました。


『ビビ……。ヤッタ、ヤッタ』


「喜んでる。良かった」


「もぅ、びっくりしたよぅ。お昼寝してたのかなぁ」


 ボスの後に続いて、みんなも船に乗り込みます。結構揺れて、不思議な感じですが、しっかりとしていて、沈む様子はありません。


「ふへへ、ジャガーのいかだに乗ったの、思い出すね」


「うん。楽しい」


 じゃんぐるちほーの事を思い出して、ミナミコアリクイとヨダカは、頷いて、微笑みあいました。

 その横で、船の一番先端のところに飛び乗ったボスが、湖の奥の方を見つめて、喋ります。


『コッチ、コッチダヨ』


「向こうに行きたいんですね? わかりました! ミナミコアリクイさん、ヨダカさん、あれを」


「あれ? なんのことでありますか?」


「ふへへ……じゃーん」


 一人だけ、不思議そうにしてるプレーリーの前に、ボスを見て頷きあうミナミコアリクイたちは、長い、木の棒を何本か、取り出しました。

 片一方の端っこが、平たく削られた、不思議な形をしています。


「おぉ! なんでありますか、それ!? なんだか、ビーバー殿の尻尾に似た形でありますな!」


「はい、まさにその通り、オレっちの尻尾をモデルにしてみたんっス。これを使えば、みんなで船を動かせると思うんっスよ」


「ミナミコアリクイさんと、ヨダカさんが作ってくれたんですよ。二人ともすごく器用で、驚きました」


「ふへへ、いかだ作りや、マーゲイのお手伝いをさせてもらったおかげで、上手になったんだよぅ」


「ん。経験が活きた」


「おぉ……みんな、すごいでありますな! 吾輩も負けてられないであります、精一杯、漕ぐでありますよ!」


「はい、それじゃ、早速、出発しましょう!」


 リカオンの声を合図に、おのおのに、木のオールを持って、完成した船は、ゆっくりと湖の奥へ向け、漕ぎ出します。

 最初のうちはぎこちないですが、少ししたら、みんな慣れてきて、落ち着いた進み方になりました。


「うん、しょ、うん、しょ……なんだか、楽しいね」


「みんなで、一つの生き物になったみたいっスね、不思議っス」


「群れで行動してる感じがしますよね。こういうの、僕、好きです」


「それ、わかるであります! 吾輩も、元々、群れで行動する動物でありますから!」


『コッチ、コッチ……ココヲ、マッスグ、ダヨ』


「わかりました、ボス……って、ちょ、ちょっと待って下さい!? この先、滝ですよ!」


 ボスの案内通りに進んでいたのですが、なんと、ここで、船の真ん前に見えてきたのは、とうとうと、目の前の崖から流れ落ちる、滝だったのです。

 行き止まりに突き当たって、みんなが困っていると、ヨダカが、ふと、何かに気づいたようでした。


「……空気の流れを感知。滝の裏に、空間があると予測」


「え、それって、あの後ろに、穴があるってことぅ?」


「ん。おそらく」


「きっと、ボスはそこに僕たちを案内しようとしてるんだ……」


「よーし、そうと決まれば、突撃でありますーっ!」


 みんなは、ボスの案内と、ヨダカの予測を信じて、そのまま真っ直ぐに、滝の中へと船を進ませます。

 水の壁を突き抜けた、その先には、たしかに、薄暗くて、船がちょうど引っかからずに抜けられそうな大きさの、洞窟が続いていました。


「ふぁー……本当に穴があったっス。こはんにこんなところがあるなんて、知らなかったっス」


「吾輩も始めて知ったであります。こういう穴も、面白いでありますなー」


「……あれ、なんだろう」


「どぅしたの、リカオン?」


「いえ……なんだか、胸騒ぎがして。こんな道、来たことないはずなのに、見たことが、あるような」


『……』


 不思議な感覚に襲われて、首をかしげるリカオン。

 そんな横顔を、片耳のボスは、ただ、じぃっと見つめていました。


「前方に光を確認。出口と推測」


「ほんとであります! 明かりが見えるでありますよ、もうじきゴールでありますな!」


「どこに続いてるのかな……ちょっとこわいけど、わくわくするよぅ」


「出たら眩しくなるから、目がくらむのに気をつけるっスよ」


 そうして、ついに船の到着した、洞窟の出口。

 みんなの目が明かりに慣れた先には、周りを崖に囲まれた、小ぢんまりとしたお花畑が、広がっていたのです。


「ふあぁ……たくさんお花が咲いてるよぅ」


「綺麗な場所っスね……それに、静かで、落ち着くっス」


「ですね、なんだか。あそこにあるのは、一体……あ、あれ。あれ?」


 花畑の真ん中に、意味ありげに立っていた、黒いひらひらのつけられた棒が、目に入った時、急に、リカオンが、目頭を抑えました。

 見れば、その端から、頰を伝って、雫がこぼれ落ちています。


「ど、どうしたのぅ? 泣いてるよぅ」


「わ、わからないです。光が、目に沁みたのかな……」


「おーい、みんな! こっち、こっちに来てみるでありますよ!」


「行ってみましょう。僕は、大丈夫ですから」


「……了解」


「う、うん」


 リカオンのことを心配しつながらも、何かをみつけたプレーリーの所へ、向かいます。

 そこにあったのは、小ぢんまりとした、あの、アルパカのカフェを、もっと小さくしたような、小屋でした。


「家っス! こんなところに、だれかが住んでたんっスね……小さいけど、すごくしっかりした作りっス」


「これも、『ヒト』が、昔に作ったのかな?」


『ビガッ……ツツ、ツイテ、キテ』


「あっ、ボス、待ってよぅ」


 ためらうようなこともなく、ポヨポヨと進んでいくボスを追って、みんな、小屋の中へ。

 薄暗く、ほこりっぽくて、ずぅっと前から、誰も住んでいないのが、わかります。

 そこには、カフェの中にもあったような、机や椅子がいくつかに、なんのために使うのか、何がなんだか、よくわからないものも。


 ボスは、そんな部屋の隅っこの、細い、銀色の棒が組み合わさって、四角い形に囲われた、不思議な場所の前まで進んで、立ち止まると、びぃいん、と、その目を、緑色に光らせたのです。


『ビビ……ッ、ザザッ、ザー……「……ッキーさん

 、ありがとうございます。その子も、大分落ち着いたみたい」


「うわ! オバケ、オバケっス!? その四角いのの中に!」


「このー! ビーバー殿を脅かすなんて! 生き埋めにしてやるであります!」


「ストップ。 これは、多分、映像……実体じゃ、ない」


「え、ど、どういうことでありますか? ヨダカ殿」


「えっと、平たくない、絵、みたいなもの、って、ことっスか?」


「ん。ボスが、見せてくれてる」


「そ、そうだったのでありますか……早とちりして、ごめんであります」


 一瞬、息をまいたプレーリーでしたが、ヨダカから説明をされて、落ち着きました。

 その横で、リカオンは、まるで、心を奪われてしまったかのように、ただ、ボスの出す緑色の光に、見入っています。


「この、声……」


『元の群れから離されて、こんなところに独り……仕方ないとはいえ、辛いですね。でも、きっと良くなりますよ。パークの中は、サンドスターのおかげで、外よりずっと、怪我や病気が治りやすいって話ですから……まぁ、その検証が、目的でもあるんですが』


 ボスの目から出る緑色の光は、四角いのの中に、うずくまって丸まっている、小さな影を映し出していました。

 身体が上下に少し動いていて、息をしているのがわかります。

 声は、どうやら、このけものを見ている誰かのもののようです……なんだか、リカオンに似ているけど、どこか落ち着きのある声です。


「一緒に頑張りましょう、この任務(オーダー)。私の仲間……この子を完治させて、野生に戻すんです」『マカセテ。頑張ロウ』


「あ、消えちゃった……なんだか、不思議な感じだよぅ」


「あれは……僕だ」


 不思議な映像を見て、みんな、ぽかんとしていますが、そんな中でも、リカオンが、心を奪われたように、そう、呟きを漏らしました。

 それに、ヨダカが反応します。


「リカオン?」


「あ、すみません。正確には、僕と同じ、リカオン……動物の時の姿の、リカオンなんです」


「動物の、時の。なるほど。あれが、あなた」


「僕かどうか、は、わかりかねますけど……いや、でも……確かに、もしかしたらっ、そう、だとしたら……っ、すみません! ボスを、お借りします!」


『ビビッ、ビビビ……ッ』


「え、急にどうしたんっスか? リカオンさんっ」


「こんな狭い場所で走ると、危ないでありますよー!」


「……追跡する」


「よ、ヨダカ!?」


 突然に、リカオンが、ボスを小脇に抱えて、小屋の外へと、飛び出していったので、みんな、驚きました。

 ヨダカも、真面目な顔のままで、すぐに後を追いかけるので、みんな、それに続きます。

 リカオンは、あんまり遠くまでは行っておらず、さっきの、花畑の中に、立っていました。


「な、なんなのぅ、二人とも、急にぃ……」


「もう。時間がない」


「時間? 時間ってぇ……」


 追いついたミナミコアリクイは、そこで、問いかけるのをやめました。

 リカオンと、ヨダカが、一心に見つめる先……あの、棒のあたりに、ボスが、また、緑の光を、投げかけていたからです。


 そこには、仲良く戯れる、小さな影と小さな影……さっき、小屋の中でうずくまっていたけものと、そして、大きなまぁるいお耳の可愛らしい、みんなにもよく、見覚えのあるフレンズ、そう、リカオンの姿が、映し出されていたのです。


「えっ、ええ……っ!? リカオン殿が、二人……っ!」


「でも……なんだかちょっと、雰囲気が違うっス」


『ザリッ、ザザーッ……「あはははっ、このーっ! 捕まえたっ! 元気になったのはいいけど、こんなにやんちゃになるなんてっ」


 小さなけものを抱いて笑っているリカオン、その声は、さっき、小屋の中で聞いたそれと、同じでした。

 どうやら、今、みんなと一緒にいるリカオンとは、別の子みたいです。

 ひとしきり、楽しげに戯れた後、少し寂しげに、そのリカオンは呟きます。


「これで、もう、安心ですね。私たちの任務も、終わる……この子は、野生に慣らす為に、別の施設に。私は、何時も通りの日常に。そして、ラッキーさんは、工場でボロボロのボディを新調して貰って、テスト仕様から、正式仕様に。齧られちゃった耳も、元どおりですよ、よかったですね……代わりに、フレンズの私とは、余程のことがない限り、お話出来なくなっちゃいますけど」


 少なくとも、まだお話できる、というのに、話しかけている相手は、じっと黙っていて、返事はありません。

 すると、安心して、と、そのリカオンは、優しく笑いかけるのです。


「大丈夫ですよ。カコ博士は、約束してくれました。メンテが終わり次第、あなたのことは、優先的に私の住んでるチホーの管轄になれるよう、便宜してくれるって。あなたの記憶も、ほんとは消す規則だけど、残しておいてくれるって。だから、離れるのは、今だけ……約束です。再開したら、また一緒に、ここに来ましょう。この、リボンを取りに」


 腕の、小さなけものを優しく撫でながら、そのリカオンは、器用に片手だけで首のリボンを外して、広場に立っていた棒に、結びつけました。

 それは、今、まさにこの広場に立っているそれと、綺麗に重なりあって、そよ風に吹かれながら、たなびいています。


 その光景に、ついに、確信がいったと、気持ちの高ぶりを抑えきれない様子のリカオン。

 ミナミコアリクイも、何かに気づいて、リカオンを見やりました。


「やっぱり……そうだ。 そうなんだ……っ!」


「あっ……ねぇっ、リカオン、きみって、もしかしてっ!」


「はい……! 僕は……っ、ここを、知っているんです! 思い出せないけどっ、確かに……誰かの腕に抱かれていた暖かさを、隣でいつも誰かが見守っていてくれた安らぎを……! 僕は、確かに、ここにいたんだ! ボスと、この方と、一緒に!」


「えぇっ? それじゃ、あの小さなけものが、サンドスターに当たって、リカオンさんになったってことっスか!?」


「はいっ、僕には、フレンズ化前の記憶はないですけど、きっと、そうなんだと思います。そう、思いたい……!」


「だからボス殿は、ここにリカオン殿と、一緒に来たかったんでありますなぁ、いい話であります……あれ、ボス殿?」


『ザザッ、ザ……ビ、ビガッ……』


 不意に、映し出されていた映像が、かき乱され、消えてしまいました。

 異変に気付いたみんなが、ボスに注目すると、その胸のところにある、『の』のマークが、消えたり、付いたり、と、凄く不安定な感じになっていて、調子も、悪そうです。


「ね、ねぇ、ボス、どうしちゃったのぅ? お腹壊しちゃったのかな……?」


「……ノー。時間切れ」


「それ、って……」


 ミナミコアリクイに対して、ヨダカが、顔を伏せながら、首を横に振ったのを見て、みんなは、なんとなく、わかってしまいました。

 その言葉が、何を示しているのか。


「そんなっ、もう、お別れなんでありますか!? せっかく、またリカオン殿と一緒になれたのに! 諦めちゃダメでありますよ!」


「オレっち達に、どうにかする事は出来ないんっスか? 必要な物なら、なんでも作るっスから……」


「……ボス、凄く、喜んでる。感謝、してる。みんなに」


「ボスぅ……ううぅ」


 プレーリーや、ビーバーの言葉に、ヨダカは、敢えて、答えることはしませんでした。

 ただ、気持ちだけを伝えられて、言葉に詰まってしまいます。

 ミナミコアリクイが、泣きじゃくり始める横で、そっと、小刻みに震えているボスの身体を、リカオンが抱きしめて、抱え上げます。


 ちょうど、ボスの思い出の中のリカオンが、あの小さなけものに対して、そうしていたように。


「ありがとう……ボス。僕を、ここに連れてきてくれて。僕のこと、見守っていてくれて。僕、まだまだですけど、強くなったんですよ……今は、みんなを、僕が見守ってるんです。僕を育ててくれた、あの方みたいに……だから、心配しないで……僕は、元気ですから……」


『ビッ、ビ……タタ、楽シ、カッ、タヨ……リ、カオ……ヴゥン』


「うん、うん……っ、僕も……っ、ずっと、ずっと……大好きですから……うぅ、ううぅっ」


 静かに、ボスの胸から、『の』の文字が、消えました。

 ボスは、もう、動きません。


 その、傷だらけの身体を、ぎゅっ、と、強く、強く抱きしめながら、リカオンは、泣きました。

 みんなも、しばらくの間、ただ、じっと、泣きました。

 ミナミコアリクイはもちろん、アメリカビーバーも、オグロプレーリードッグの目にも……光るものが、浮かんでいましす。


 ただ、一人だけ。

 ヨダカだけは、しんみりとした顔をして、それでも、リカオンへと伝えました。


「きっと……また、会える」


「……ありがとう、ございます。ヨダカさん。また、会えますよね、きっと」


 リカオンは、涙を拭って、少しだけ、笑いました。


 やがて、みんなは、また、船に乗り込んで、秘密の花園を、後にします。

 動かなくなったボスの身体と一緒に、また、こはんの岸辺へと戻ってきたみんなを、意外な光景が待っていました。

 それは、さんばしにずらりと並んだ、空色の群れです。


「陸が、見えてきたっスね……あれは、ボスっスか? すごい、あんなにたくさん」


「ほんとであります……きっと、このボスを、迎えに来たんでありますな……」


「……これで、よし、と」


「んぅ、何してるの、リカオン?」


「あ、はい……ボスに、リボンを、つけてあげたんです。約束、でしたから」


 見れば、ボスの、欠けている耳の方に、あの、花畑の真ん中ではためいていた、黒のリボンが、巻きつけられています。


「これで……また、一緒です」


「……うん」


 ミナミコアリクイと、それにみんなも、静かに頷いて、穏やかに微笑みました。

 そして、みんなは陸に上がり、片耳のボスの

 その身体を、迎えに来ていた、たくさんのボス達に、預けたのです。

 ボス達は、何も言わず……ただ、そのボディを、優しく、厳かに、運んで行きました。


「……さようなら、大好きなボス。僕の、初めての友達」


 リカオンが、そっと呟いて、手を振ります。

 みんなも、それにならって、静かに手を振って、何処かへと去っていくボス達を、見送りました。


 それから、ミナミコアリクイとヨダカ、リカオンは、プレーリーとビーバーの家に泊まって、身体を休めました。

 そこにヒグマとキンシコウがやってきたのは、次の日の昼頃のことです。


「本当にありがとぅね、プレーリー、ビーバー。船もそうだし、おうちにまで入れてくれて」


「いえいえ、お安い御用っスよ。またいつでも歓迎っス」


「また何か欲しくなったら、すぐ教えてほしいであります!なんでも作るでありますよ!」


「私からも、感謝。二人に会えて、良かった。リカオンも」


「はい。僕も、同じ気持ちです」


 こはんの家の前で、ミナミコアリクイ、ヨダカ、リカオンは、頷き合います。

 短い間でしたが、この、こはんでの冒険は、確かに深く、みんなの心に刻まれていました。


「それじゃ、あたし達は、行くね。ビーバーとプレーリー、また遊びに来るよぅ。ハンターさん達、お仕事頑張ってねぇ」


「リカオンさんの事、ありがとうございました。ヨダカさんがなんの動物か、わかるといいですね」


「セルリアンには、十分気をつけろよ」


「了解。それじゃ、またね」


 こうして、喋るボスと、リカオンの、不思議な巡り会いに立ち会った二人は、今度はへいげんへと向けて、歩き始めます。


「……行ったか」


「ですね……行きましょうか。私達も。私達の、仕事をしに」


「……はい。張り切っていきましょう!」


「どうした? 少し、頼もしくなったじゃないか」


「ふふ、ですね」


「そ、そうでしょうか……」


 二人を見送って、ハンター達三人も、元の日々へと戻ってゆきます。

 あの冒険を経て、少し成長したリカオンの横顔を見て、キンシコウとヒグマは、少し嬉しげに笑ったのでした。

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