第五話 友達の唄

そのいち

波乱のさばくちほーを抜け、ボスの案内を受けるヨダカ、ミナミコアリクイ、そしてリカオンの三人は、こはんまでやってきていました。

昼は暑くて夜は寒かった、大変な気候だったのとはうってかわって、こちらはのどかで、涼しげな空模様。

そんなこはんの、名物となっているのが、名前の通りの大きな湖と、そのほとりに立っている、木でできた、立派な家です。


「ふあぁ、見るのは初めてだけど、ほんとにおっきいよぅ。すごいなぁ……」


「建造物……アルパカの、カフェに類似。でも、新しい……これも、昔から、あった?」


「いえ。かばんさんとサーバルさんのアドバイスを受けて、アメリカビーバーさんと、オグロプレーリードッグさんが建てたそうですよ。確かに、一目じゃほかのパークの建物と、見分けがつきませんよね」


『アメリカビーバーハ、巣ヲ、作ルノガ、トッテモ得意、ナンダ。水ヲ塞キトメテ、地形ヲ、変エテシマウ、事モ、アルヨ。オグロプレーリードッグハ、トッテモ、大キナ、巣穴ヲ、掘ッテ、ソノ中デ、暮ラス、ンダ。ドチラモ、本来ハ、群レデ、生活スル、動物、ダネ』


「ボス、良く知ってるね! お話で聞いてたけどぅ、喋るとほんとに物知りなんだぁ」


「はい! ボスとこうやってお喋りできるなんて、夢みたいですよ! 嬉しいなぁ、僕の夢だったんです」


「リカオン、嬉しそう。わたしも、嬉しい。ボスも」


ヨダカは微笑みながら、欠け耳のボスの方を見つめます。

ミナミコアリクイと会ったばかりの頃の自分のように、ちぃっとも、笑ったり泣いたりとかしないボスですが、なんとなく、とても張り切って、楽しそうにしているのが、伝わってきました。


「ほんとですか? ヨダカさん。 ボスの気持ちが、わかるなんて」


「ん……多分、そう思ってる。きっと」


「ふへへっ、どんどんあやふやになってるよぅ」


その理由ははっきりしないのに、自信はある様子なヨダカがおかしくって、ミナミコアリクイは、思わず笑いました。

みんなも、つられて笑顔に。


すると、ボスがまた、湖のほとりの家の方を見つめて、喋り出します。

ぱたん、と、家の蓋が開いて、中から、こげ茶っぽい毛並みのフレンズが、出てくるのに、反応したみたいでした。


『チョウド、アメリカビーバーガ、巣穴カラ、出テキタネ』


「あ、ほんとですね。おーい! お久しぶりです、アメリカビーバーさーん!」


「あ、リカオンさん! どうもっス、御無沙汰してるっス……あれ、今日はヒグマさんとキンシコウさんはいらっしゃらないんっスね。そちらのお二人は……もしかして、新しいハンターさんっスか?」


「いえ……実は、謹慎処分を受けてしまいまして。その時会ったこちらのお二人と、それにボスと、一緒に行動させて貰ってるんです」


「あたし、ミナミコアリクイだよぅ、よろしくね。こんな家、建てちゃうなんて凄いねぇ、尊敬しちゃうよぅ」


「わたしは、ヨダカ。ミナミコアリクイに、同意。すごい」


「そ、そんなに褒められると、照れるっス。それに、オレっち一人じゃ作れなかったっスから……かばんさんやサーバルさん、プレーリーさんのおかげっスよ」


みんなから褒めそやされたアメリカビーバーですが、控えめな声で、謙遜してみせます。

なんだか、ぱんきっしゅ、って感じの見た目をしていて、一人称も強気な感じなのですが、性格は裏腹に、大人しげなフレンズなようです。

そこで、ふと、リカオンが、ビーバーといつも一緒にいるフレンズが現れないことに、気づきました。


「そういえば、ビーバーさんこそ、今はお一人なんですね。プレーリーさんはお家の中ですか?」


「あ、いや、実はっスね。今日の朝、また何か、一緒に作ってみたいな、って、二人でおしゃべりしてたら、『材料を取ってくるであります!』って、張り切って飛び出していっちゃって。中々、帰ってこないので、ちょっと不安になって、様子を見に行こうかと思ったんっスけど、でも、家をあんまり、留守にするのも不安で……」


「そうだったんだぁ。どっちに行ったとか、わかるぅ? 良かったら、探しに行って来るよぅ」


「ほんとっスか!? で、でも、初対面の方にそんなお願い、申し訳ないような……」


「平気。みんなで探せば、すぐ」


「僕は遠慮なく、手伝わせて貰えますね。もう、友達ですし」


「み、みなさん……かたじけないっスぅ。このお礼は、必ず。多分、プレーリーさんは、木材を探しに、あっちの林の方にいったと思うっス」


「うん! ありがとぅ、あたし達に任せてよぅ。ボス、ちょっと寄り道するね」


みんなの案内をしてくれているボスに、一声をかけて、ミナミコアリクイ達は、オグロプレーリードッグのことを、探しに行きました。

早速、ヨダカは、飛んで、空から探すのを提案しようと思っていましたが、その前に、リカオンが、おもむろに、あたりの匂いを嗅ぎ始めます。


「くんくん。プレーリーさんの言ったとおり、こっちの方に向かわれてるみたいですね。かなり張り切ってたみたいです」


「ふえぇ、ちょこっと匂いを嗅いだだけで、そこまでわかっちゃうんだぁ! すごいなぁ」


「えへへ……特技ですから。一度嗅いだ匂いは、忘れません。フレンズさんみんな、一人一人で、ちょこっとずつ、違う匂いなんですよ」


「ほんとぅ? それじゃ、あたしとか、ヨダカは、どんな匂いかな?」


「ミナミコアリクイさんは、木と

土の匂いがしますね。優しくて柔らかい、じゃんぐるちほーの木陰の匂いに似てます。ヨダカさんは……ずっと、気になっていたんですけど、なんだか、不思議な匂いなんです。こうざんのろおぷうぇいや、さばくちほーにある、遺跡に近いような……そうだ、ボス! ボスの匂いに、すごく似てます!」


謎が解けた、と、いった風に、リカオンは、興奮しながら、足元にいたボスを抱き上げます。

それが、あんまりにも嬉しそうで、ミナミコアリクイとヨダカは、思わず微笑んでしまいました。


「ふへへ。リカオンって、本当にボスのこと、大好きだよねぇ」


「はい! なんだかボスの匂いを嗅ぐと、懐かしい気持ちになって、とっても安らぐんですよー……って、あわわ、ごめんなさいっ、突然はしゃいだりして、お恥ずかしい所を! ヒグマさんたちには、どうか、この事は……!」


「了解。正確に伝達する」


「よ、ヨダカさーんっ!?」


真顔のヨダカにからかわれて、顔を真っ赤にするリカオン。

そんな二人を見て、ミナミコアリクイは楽しげに笑いますが、その耳が、ふと、風に乗って流れてくる声を、拾い上げました。


「ー!……ーっ!」


「あれ……ねぇ、二人とも。前の方から、何か聞こえてくるよぅ」


「え? あ、ほんとですね。この声、聞き覚えが……プレーリーさんだ! 助けを求めてるみたいです!」


「ほ、ほんとぅ!? セルリアンに襲われてるのかも、早く助けに行かなきゃ!」


「了解。二人とも、捕まって」


すぐにヨダカは、二人を片腕ずつで抱えて、その翼からけものプラズムを出しながら、飛び立ちました。

それはもう、とんでもない速さで、あっというまに、プレーリーの声のしたという、林に続く、湖に添うように伸びた道の、途中のところに、到着します。

するとそこには、うず高く積み上がった丸太と、その下敷きになって呻いている、1人のフレンズの姿があったのです。


「うぅ、木が、木がーっ! 抜け出せないでありますーっ!」


「ぷ、プレーリーさん!? どうして、こんなことに!」


「わっ、大変だよぅ! 助けたげなくちゃっ」


「了解。丸太の撤去、任務遂行する」


力持ちのヨダカが、飛んで、上から丸太を持ち上げて、その間に、リカオンとミナミコアリクイが、腕を片方ずつ持って、プレーリーを隙間から引っ張り出します。


「せぇーのっ……うんしょっ!」


「よし、抜けたっ!」


「おぉ……軽くなったであります! ありがとうであります、リカオン殿に、そちらのお二方も! 吾輩、オグロプレーリードッグであります!」


晴れて自由の身となった、オグロプレーリードッグ。

アメリカビーバーとは反対に、割合とおとなしめな見た目ながら、とってもはきはきとして、元気そうなフレンズです。


「あ、はじめましてだよぅ。あたしは、ミナミコアリクイ。こっちの子は、ヨダカ」


「オグロプレーリードッグ、覚えた。よろしく」


「よろしくであります! それでは早速、お近づきの証を」


「ん……むぅっ、むむむ!?」


「ふ、ふあぁ……っ!?」


「プ、プレーリーさんっ!?」


プレーリーは、ヨダカに近づいたと思うと、その肩をがしっと掴み、いきなりその唇に、自分の唇を合わせました。

ズキュゥゥン! と、まるで石のつぶてに当たってしまったみたいに、ミナミコアリクイとリカオンが、顔を真っ赤にして凍りつきます。


「ぷはっ。ご挨拶であります!」


「……ご挨拶。なるほど。覚えた」


「な、なんだか、それはちょっと違う気がするよぅ……!」


「お次は、ミナミコアリクイ殿の番であります!」


「あ、あたし!? あたしはその、そこまでしてもらわなくてもぅ……むぅぐくっ!?」


「……リカオン。わたし達も、する?」


「え、ええーっ!? け、結構です、前に、もうされてますし……!」


プレーリーの、なかなか衝撃的なご挨拶を受けて、急にみんなは、どったんばったん大騒ぎ。

そんな中、何かに気づいたようで、アワワと一緒になって慌てていたボスが、ポヨポヨと、道を歩きはじめます。


「み、みんな、とりあえず一旦落ち着きましょう……あれ、ボス? 何か見つけたんですか?」


『コノ先ニ、船ガ、アルンダ。ソレデ、湖ガ、渡レルヨ』


「船? なんのことでありますか?」


「昔、『ヒト』がパークに来たり、出ていったりするのに使っていた、乗り物のことですね。ちょっと前までは、この島の港にも、あったんですけど」


「とりあえず、ついていってみようよぅ」


ミナミコアリクイに、みんな頷いて、ボスの後を進んでいきます。

すると、湖の方に出ました。

そして、なんだか、岸辺から、木の組み合わさった、不思議な、まっすぐなのが、湖の真ん中のほうに向かって、伸びているのが、見えてきたのです。


「あ! これ、コツメカワウソの滑り台とか、ジャガーのいかだとかに似てるよぅ」


「『さんばし』、という奴ですね。これも、『ヒト』の作ったものだそうですよ。みずべちほーにも、たくさんあります」


「注意。『さんばし』側面に、何かある」


「おや、ほんとであります! 水の中から、何か飛び出してるでありますな」


ヨダカの指差したとおり、さんばしの横の水面から、何か、さんばしとはまた違った、よくわからないものの組み合わさった、固まりみたいなものが、顔を出しています。

ボスは、ぴょんぴょんと、その近くまで跳ねて行きましたが、手前まで来たところで、ピタっと止まって、ピロピロピロ……と、不思議な鳴き声を、上げはじめてしまいました。


「アワワ……『船』ガ、沈ンデルヨ。サルベージ、ケンサクチュウ、ケンサクチュウ……」


「ふあぁ! 『ふね』さん、溺れちゃってるのぅ!?」


「了解。サルベージ、開始する」


ヨダカは、早速飛んで、『船』というのの先っぽを掴んで、ぐーっと引き上げます。

なかなか、重くて苦戦しましたが、やがて、持ち上がってきて、想像よりずっと大きな、クルミの殻を半分にして、それを更に半分にしたみたいのが、出てきました。


「す、すごぃ、大きい……」


「たしかに、僕の知ってる『船』に良く似てます! ……でも、半分しかないような」


『『船』ガ、故障。修理、不能……方法、ケンサクチュウ、ケンサクチュウ』


「ボス……悲しそう」


俯いて、ピロピロピロ……と、鳴き声を上げているボスの横顔は、ヨダカの言ったとおり、心なしか、とても、残念がっているようで。

みんなも、思わず辛い気持ちになってしまいます。


「あたし、なんとか、してあげたいよぅ……」


「僕もです。でも……どうすれば」


「うーん……そうだ! ビーバー殿に相談してみるでありますよ!」


いい案が思いついた、と、ぱっと顔を上げたのはプレーリーです。

さっきまで悩んでいたのとは一転、握り拳をつくって、目の奥にはやる気の炎が灯っています。


「アメリカ、ビーバーに?」


「そうであります! ビーバー殿なら、きっと作り方がわかるでありますよ! 見たところ、木でできているようでありますから、吾輩のちょうど集めていた木材を使えば!」


「なるほど! 絵を見ただけでものの作り方がわかるというプレーリーさんなら、『船』の作り方も、わかるかもしれませんね!」


「で、でも、いいのぅ? 集めてた木材で、ビーバーと一緒に、何か作るつもりだったんじゃ」


「必要になったら、またその時用意するから、大丈夫であります! みんなに、恩返しをさせて欲しいのでありますよ!」


「ありがとう、感謝。わたしも、協力する」


「僕も、是非! ボスを、行きたい場所に、行かせてあげたいです!」


「うんうん、あたしもやるよぅ! ……できることがあるか、わからないけどぅ」


こうして、プレーリーと合流したみんなは、ボスに『船』をプレゼントしてあげるために、丸太を運びながら、アメリカビーバーのところに、向かうことにしたのでした。


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