そのよん

それからは、ライブの準備は順調にいって、ついにその時がやってまいりました。

マーゲイ考案の、観客席を含めた仮設ステージ全体の見下ろせる特別席に、ミナミコアリクイ、ヨダカ、タスマニアデビル、オーストラリアデビルの四人は座っています。

嬉しそうに売り子さんをやっているアルパカが、みんなのところへも、ショウジョウトキに抱えられて、紅茶やじゃぱりまんを配りに来ました。


「はぁい、おまたせぇ〜! じゃぱりまんと、紅茶だよぉ、冷めても美味しいやつにしたから、ライブってゆうの、観ながら飲んでねぇ」


「アルパカ、ありがとぅ! はい、ヨダカも」


「ん。ありがとう」


「アルパカ、こっちにも頼むぞ、二人分っ!」


ミナミコアリクイたちにお茶を注いでいるところへ、せっかちにもタスマニアデビルが注文をしてきます。

隣には、オーストラリアデビルが座っていますが、前までの、ぎくしゃくした感じは何処へやらといった感じで、アルパカへ向けて、少し申し訳なさげにしていながらも、とても楽しそうです。


「はいはい、今行くよぉ〜。まだまだた〜くさんあるから、慌てなくっていいからねぇ」


「あ、ありがとうございます、アルパカさん。すみません、一応スタッフなのに、私たちだけ……」


「んぅ? あぁ、いいのいいの、気にしないでぇオーストラリアデビル!あたし、こうやってみんなに紅茶配るの大好きだからぁ。さっきも、パンダとか、コアラとか、あと、名前わかんないけどぉ、オレンジ色の毛皮の子とかに、いっぱい喜んで貰えたよぅ! 嬉しいなぁ、嬉しいなぁ」


「アルパカ、みんなにお茶飲んでもらうの、大好きなんだねぇ。あたしも嬉しいよぅ」


「ちょっと、私も少しは気にかけて欲しいんですけどっ!」


「は、はいっ、ショウジョウトキさんも、ありがとうございます」


「ふっふ〜、これくらい、どうってことないんですけど!」


「心配してほしいんじゃなかったのかよっ」


「あはははっ」


慌ててお礼を言うオーストラリアデビルに向けて、どやっ、という感じで胸を張ってみせるショウジョウトキへ、すかさずタスマニアデビルがつっこみを入れます。

そのやりとりがおかしくって、みんなは、声を上げて笑うのでした。


『……さて! 皆さん、おまたせしました! もうすぐ、お待ちかねの「PPPちほー巡礼ライブinこうざん〜withトキ〜」が開演致します!』


「……ん、マーゲイの、声」


「ほんとだ! すごいねぇ、聞いてた通り、会場のいろんなとこから重なって聞こえるし、とっても大きくて、はっきり聞こえるよぅ」


会場全体に響き渡る、マーゲイのアナウンスを聞いて、ミナミコアリクイ達は、ステージの方へ自然と注目します。

なんだか軽やかな音楽が鳴り、照明も動き出して、とっても賑やかな感じになってきたところで、遂に、5つのフレンズの影が、舞台袖から現れて、会場の全体が、すごい歓声に包まれます。


『みんな、待たせたわね! ロイヤルペンギンの、プリンセス!』


『イワトビペンギンの、イワビーだーっ! ロックだぜ!』


『ジェンツーペンギンの、ジェーンです! 頑張ります!』


『フルル〜。フンボルトペンギン〜。お腹すいた〜』


『コウテイペンギン、コウテイだ! 落ち着いていこう』


『五人揃って!』


『『『『『ペパプ!』』』』』


『う、あははぁ〜っ、あはぁ〜っ!』


「マーゲイ……一番嬉しそうだねぇ」


五人の名乗りで、会場に歓声が響き渡りましたが、その中に、マイクを通した一際大きな声が混じっていて、思わず、みんなは苦笑いしてしまいました。

そんな、だらしのないマネージャーに向けて、プリンセスが口を尖らせます。


『ちょっと! マーゲイったら!』


『あ、ご、ごめんなさいぃ、つい……! マイクの電源切り忘れてましたぁ……!』


『まぁまぁ。ライブにはアクシデントが付き物だ。おかげで、みんないい感じに緊張が抜けたんじゃないか?』


『あはは、マーゲイ、面白ーい』


『お前はいつも気を抜きすぎなんだよ〜』


『マーゲイさんも、頑張ってくれましたもんね。私たちが、ちゃんと期待に応えないと!』


『そうね! それじゃ、早速一曲目行くわよ! ワタシたちのデビュー曲、『大空ドリーマー』ッ!!』


そうして、流れ出したのは、弾むようなリズムで、こっちまで元気がみなぎってくるような、ステキなメロディーです。

それに合わせて歌い、踊るPPPの五人も、とっても可愛くって、力強くって、かっこよくって、気づけば、曲の終わりまで、夢中になって、聞き惚れていました。


「ほぁあ、すごい、すごいね、PPP……なんだか、あたしまで踊りたくなってくるよぅ」


「同意。アイドル……PPPは、すごい。再認識」


「うんうん。おれ、生PPP、初めて見たけど、観に来てよかったよ!」


「タスマニアデビルも、わかってくれるのねっ、きゃあぁ、PPP最高……っ!」


「わっ!? お、オーストラリアデビル、急に抱きつくなよぉ!」


高ぶりが抑えきれなかったのか、オーストラリアデビルは、突然隣のタスマニアデビルをぎゅうっと抱きしめて、喜びを全身で表現しています。

普段の大人しい様子からは、想像もできません。

びっくりしたのはタスマニアデビルで、目を白黒させてもがいていましたが、そこで一曲目が終わって、自然とオーストラリアデビルの腕の力が緩まったので、なんとか助かりました。


『みんな、一曲目、楽しんでくれたかしら? それじゃ、次、二曲目……の前に! ここでお待ちかね、ゲストの方の紹介よ! トキ、どうぞ!』


『むふふ……皆、こんにちは。ワタシ、トキ。今日はワタシの歌を聴きに、こんなに集まってくれて、みんなありがとう。ワタシ、精一杯歌うわ』


「見て、見て! トキだよぅ! ステージの上だと、綺麗な羽が、とっても目立つねぇ」


歓声に包まれながら、ステージの真ん中に立ったトキの姿は、ミナミコアリクイの言う通り、とっても綺麗で、ライブの華やかさに合っています。

その表情も、スポットライトを浴びて、心なしか、普段より楽しそうで、ステキな感じがします。

しかし、トキへと、みんなの注目が一点に注がれている裏で、何やら舞台袖に向けてごそごそとやっているフレンズがいました。

フルルです。


『そして、この子が〜』


『え? フルルさん、ゲストの方ってトキさんだけじゃ……』


『お前、そいつ! 連れてきちゃったのかよ〜っ!』


会場のみんなのみならず、ジェーンを始めとする、PPPのみんなさえ戸惑っているところへ現れた、『その子』を見て、イワビーが思わず、頭を抱えて叫びました。

フルルの足元へ向けて、よちよち歩いてくるのは、ミナミコアリクイたちが、フルルを見つけた時に連れていた、あのフンボルトペンギンだったのです。


『えへへ〜』


『笑い事じゃないわよ〜っ、どうするのよ、ライブにまで連れて来ちゃって〜っ!』


『フルル、練習中も、暇があればその子の面倒を見ていたもんな』


『コウテイ、アナタも冷静に分析してる場合〜!?』


『うふふ。いいじゃないの、プリンセス。みんなでやりましょ? 仲間が増えるって、とってもステキなことよ』


『トキさん……そうですね! その子も……そうだ! PPPのマスコットということで、一緒に踊りましょうよ!』


『ちょっと、ジェーンっ!』


『あははっ、すっちゃかめっちゃかだな! でも、なんだか燃えてきたぜー! プリンセス、次の曲行こうぜ!』


『イワビーまで……あぁ、もう! 仕方ないわね! こうなったらみんな、行くわよ! 二曲目は、ある意味今のワタシたちにピッタリな新曲!『フレ!フレ!ベストフレンズ』ッ! さ、トキも一緒に!』


『えぇ、よろしくね』


「きゃああーっ!? PPPの新曲ーっ!!」


「く、苦し、離してオーストラリアデビルぅ」


「わぁっ、なんだか応援されてるみたいな、元気の出る曲だよぅ……」


「楽しい……これが、音楽の力」


思わぬアクシデントも、前向きな力に変えて、PPPとトキは、歌って踊って、みんなにステキな気持ちを届けます。

知らず知らずのうちに、そこにいる誰もが笑顔になっていて、気づいたら、あっという間に、終わりの時が近づいてしまっていました。


『なかまと、うたぁう〜♪ なかまと、おどぉる〜♪』


『おどる〜♪』


『……トキ、ありがとう! さて、早いもので、もうみんなとのお別れの時間が、やってきてしまいました』


「う、嘘っ、もうそんな時間……? はっ、きゃっ、タスマニアデビル、ごめんねっ!?」


「うぅ、やっと気付いてくれた、苦しかったぞ〜……」


プリンセスの進行を聞いて、やっとこさ我に返ったといった様子のオーストラリアデビル。

今まで見れなかった、お茶目な一面でしたが、タスマニアデビルは、それどころではなく、ようやくほっと息をついたのでした。


「……視線。PPP、こちらを見ている」


「えっ? 確かに、みんなこっち向いてるけど……そうなのぅ?」


ヨダカが急にそんな事を言い始めたので、ミナミコアリクイはPPPの方を見ましたが、言った通りに、まるで特等席の方へ向けて、話しかけているようです。

わちゃわちゃしていたデビルコンビも気付いて、そっちを見やります。


『今日、最後にワタシたちが歌うのは、このジャパリパークに住む、ワタシたちフレンズ。その、ステキな繋がりを歌った曲です。出逢って、友達になって。別れることになっても。忘れて、しまったとしても……いつか、また出逢って。また、友達になれる。そんな奇跡が、過去から未来へ向けて、永遠に紡がれるように。そんな願いの篭った曲です』


「……出逢って、友達になって」


「別れることになっても、忘れてしまったとしても」


「いつか、また出逢って、友達になれる……」


「願いの、歌」


口々に、ミナミコアリクイ、タスマニアデビル、オーストラリアデビル、ヨダカの四人は、プリンセスの言葉を繰り返して、そしてお互いに、顔を見合わせます。

そんな、驚いたような反応を、知ってか知らずか、ウィンクを一回飛ばして、プリンセスは、静かに、でも良く通る声で、曲名を言うのです。


『それでは、聞いてください。『けものパレード』』


……そして、ライブは大盛況のまま、終わりを迎えることと、なったのでした。


次の日。

会場の掃除も、ある程度が片付いて、空もすっかり明るくなったところで、ミナミコアリクイとヨダカの二人は、ろおぷうぇいに乗り込み、こうざんを降りようとしていました。

ヨダカが飛べるにも関わらず、この籠をわざわざ使っているのは、ミナミコアリクイが、そのように誘ったからです。


「行くんだな。ミナミコアリクイ、ヨダカ」


「うん。タスマニアデビルとは、ここでお別れだね」


見送りに来てくれたフレンズたちの側に、タスマニアデビルは、オーストラリアデビルと、並んで立っています。

オーストラリアデビルと一緒に、スタッフの一員として、PPPを支えて行くことを、決めたからです。


「寂しく、なる」


「ほんとにそう思ってるのか〜? ヨダカ、お前いっつもそんな顔だからわかりづらいんだよ! ほれほれ、もっと笑った方が楽しいぞ〜!」


「ほ、ほひょく、ふふ……」


「た、タスマニアデビル、お友達のほっぺで遊んじゃダメだよ」


「ちぇっ、オーストラリアデビルは、真面目なんだから」


気持ちよくむにむにとやっていたところを止められて、タスマニアデビルは、軽い調子で文句を言います。

気づけば、二人はすっかり、もっと昔からの友達だったみたいに、仲良しになっていました。

マーゲイもまた、ミナミコアリクイとヨダカへ向けて、感謝の言葉を伝えます。


「お二人とも、ライブを手伝ってくれて本当にありがとうございました! おかげ様で、大成功でした……でもたった一つ、私もあの、特等席からライブを観たかったぁ……! くぅっ」


「マーゲイ、泣く程悔しかったのかよ……別にいっつも観てるだろ、練習とか」


「それとこれとは違う、という事なんだろう、イワビー。実のところ、私も自分自身のライブを、観てみたくはある」


「コウテイ、凄いですね……私は逆に観たくないですよ、動き、変になってないか、怖くって」


「変、といえばっ。フルル、アナタ、今回は本当にびっくりしたわよ! なんとか上手く流れに乗せられたからよかったけど」


「だって、この子がそうしたそうだったから〜」


「もう、ほんとにフルルったら……」


優しく、あのペンギンを抱き抱えているフルルに、プリンセスはため息を落とします。

フルルの突飛な行動は、今に始まったことではありませんので、割合、諦めているフシもありました。

そんな、突然にマスコット候補が現れても、いつも通りといったPPPの雰囲気に、トキが微笑みます。


「うふふ。もしかしたら、その子も、記憶を辿って、アナタたちに逢いに来たのかもしれないわね。タスマニアデビルと、オーストラリアデビルみたいに」


「おれたちみたいに、か? フレンズ化してない動物に、そんな事あるのかなぁ」


「でも、それ、ステキな考え方だね……私は、そう思いたいな」


「別れても。また、出逢う」


自然と、ライブの最後を締めくくった、あの曲が、ヨダカの頭の中に蘇ります。

もし自分がなにもかも忘れてしまっても、フレンズでさえ、なくなってしまっても、また、友達になってくれるのか……そんな考えが、ふっと浮かんで、ミナミコアリクイを見つめたら、きっと、そんな内心は少しも伝わっていないだろうけれど、笑顔を返してくれるのでした。


「そうだよぉ! 近くに来たら、また寄ってってねぇ! 一度きりなんて寂しいよぉ、また紅茶飲みにおいでぇ!」


「どうしても、というなら、私もずっと、ここで待っててあげても、いいんですけど!」


「うん、うん。みんな、ありがとうっ。ヨダカ、また一緒に来ようね! 約束だよぅ」


「うん。約束」


「それじゃみんな、またね!」


「またね」


籠に乗り込んで、ミナミコアリクイがペダルを漕ぎ始めれば、ゆっくりと籠は動き出して、二人をふもとへと連れて行きます。

遠ざかるこうざんのてっぺんから、いつまでも、タスマニアデビルとオーストラリアデビル、マーゲイ、トキ、ショウジョウトキ、アルパカ、PPPのみんな……そして、あの、紫色の輪っかをつけたペンギンが、二人を見送っていたのでした。

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