そのさん
PPPのみんなと、ミナミコアリクイたちは、手分けをして、フルルを探し始めました。
しかし、まるで、何事もなかったように、空元気を出しているタスマニアデビルの事を、ミナミコアリクイは、とても放ってはおけません。
「……ねぇ、タスマニアデビル」
「うーん、こっちには、手がかりはなさそうだぞ。そっちはどうだ?」
「うぅん、見つからないけどぅ……」
「そっか、なら場所を変えてみようぜ。もっと向こうの方かも」
「その、それも、大切だけどぅ。オーストラリアデビルに、会いに行かなくて、いいのぅ?」
「平気だよ……おれは」
「タスマニアデビル、平気そうに見えない」
「……ヨダカ」
あんまり、フレンズの気持ちを考えるのはちょっと苦手なヨダカにだって、わかってしまうくらい、落ち込んでるのが、顔に出てしまっていました。
それを見て、やっとタスマニアデビルも、素直になり、語り出します。
「ほんと言うとさ、辛いよ……」
「オーストラリアデビル、タスマニアデビルの事、覚えてなかったんだね……」
「うん……実は、ちょっと気づいてたんだ、おれの覚えてるあいつと、仕草とか、違ったし……でも、そう思いたく、なくって。けど、あいつの方が、ずっと辛かっただろうから、そんなこと、言えないよ」
「オーストラリアデビルのほうが、辛かった?」
「だってそうだろ、いきなり知らない奴に、何が好きだとか、決めつけられたら、おれだったらむっとするもん」
首をかしげるヨダカに、タスマニアデビルは答えます。
「おれ、勝手に勘違いして、あいつの気持ちを見ないふりして、あいつに嫌な思いさせちゃった……きっと、会いたくもないって思ってるよ」
「会いたくも……ない」
「どうかしら。そんな事、ないかもしれないわよ」
うなだれる、タスマニアデビルたちの所へ、投げかけられる声がありました。
そこには、手分けをしてフルルを探しに行った筈の、プリンセスが立っています。
「プリンセス、どうして……」
「ごめんなさい、どうしてもアナタの事、気になっちゃって、様子見に来ちゃった。なんだか、昔のワタシみたいで、ほっとけなくて。少し、お話しても、いいかしら」
「う、うん。昔……?」
「えぇ。ちょうど、ワタシたちPPPが、初めてのライブに挑もうとした時の話よ」
「あ、それって、もしかして……!」
はっと気づいた様子のミナミコアリクイに、プリンセスはウィンクを返してみせました。
そう、これから語られようとしているのは、ミナミコアリクイが、タイリクオオカミから聞いた中の、PPPにまつわるお話であったのです。
「元々、PPPが再結成されることになったのは、ワタシがみんなに声をかけたからなの。先代のPPPに憧れて、ワタシもアイドルになって、パークに笑顔を届けたくって。それで、コウテイ、イワビー、ジェーン、フルルを集めて、博士にいろんなサポートをしてもらって、沢山練習を積んで……そして、その日がやってきた」
「うん、おれも聞いてるよ。プリンセスが観客席から登場するサプライズをやって、初ライブは大成功だったって」
「実を言うと、ね。その演出、演出じゃなかったの」
「えっ、どういうこと……?」
そんなこと考えても見なかった、といった様子で、呆気にとられるタスマニアデビル。
その横に並んで、こうざんの天辺のところを、プリンセスは見上げました。
「逃げたのよ、私。ライブの直前になって、怖くなって」
「え、プリンセスが……? 信じられないぞ」
「本当よ。私ね、ずっと、コウテイ、ジェーン、イワビー、フルル……他のPPPの仲間に、嘘をついて、騙していたの。本当は、先代までのPPPにロイヤルペンギンなんて、居なかったのに、最初から、PPPは五人組だった、ずっと昔、出会う前から私たちは、仲間だったんだ、って」
「そうだったんだ……もしかして、それが、ばれちゃったのか?」
「そう、誰よりも……そう、きっと、ワタシたちよりも、アイドルの、PPPのことが大好きで、ずっと追いかけていた子がいてね」
プリンセスと、このお話を聞いたことのあるミナミコアリクイは知っています。
その、誰よりもPPPが好きな子というのが、今、こうざんでPPPの為に頑張っていてくれている、マーゲイの事だというのを。
ちょっと気持ちが高ぶりすぎて空回りする事もあるけれど、マネージャーとして精一杯自分たちを支えてくれている大切な仲間に思いを馳せながら、プリンセスはお話を続けます。
「だから、ワタシは逃げた。本当は、昔、仲間じゃなかった事がばれて。自分がアイドルになりたくて、みんなを無理に巻き込んだ癖に、酷いことまで言っちゃって。もう、合わせる顔がなかった」
「そ、そんなことないぞ! おれ、あんまりよく知らないけど、プリンセスはPPPの中でも、一番、練習頑張ってて、歌も踊りも上手い、センターポジションなんだって、聞いてるもん! PPPのみんなだって、大切な仲間だって、思ってるよ!」
「ふふっ、ありがとう。その時もね、丁度いたゲストさんに連れ戻して貰って、みんなの思っていた事を、ちゃんと聞いたの。『プリンセスが居なくちゃ始まらない』って。そう言って貰えた。みんな、ワタシを受け入れてくれてた。昔のPPPに居なかったワタシを、嘘をついて、酷いことまで言ってしまったワタシを……だからねっ」
「あっ、わわわっ、あわ」
そこで、急にプリンセスが自分の前に来て、両手を握ってきたものですから、タスマニアデビルは、少しどぎまぎとしてしまいました。
ジャパリパーク中にその名を轟かすアイドルの顔が目の前にあるのですから、そうなるのも当然といえますが、こちらを見つめる瞳の真剣さに、はっとさせられます。
「ちゃんと、聞いてあげて。オーストラリアデビルの……アナタの、友達のお話。そして、ちゃんと、伝えてあげて。アナタの、本当の想いを。アナタたちの本当の笑顔は、きっとその先にある……そう思うから」
「そうだよぅ! オーストラリアデビル、タスマニアデビルのこと、一度だって、嫌だなんて、言ったりしてなかったもん! ちゃんと仲直り、できるよぅ!」
「ミナミコアリクイ……! ありがとう、プリンセスさん、おれ、行かなくちゃ! ヨダカ、頼む、おれをあいつの所まで運んで!」
「了解」
「あたしも行くよぅ! ……ヨダカが大丈夫なら」
「無問題。しっかり掴まっていて」
「頑張ってね……! 笑顔のライブが待ってるから!」
こうして、一度は落ち込みきったタスマニアデビルでしたが、プリンセスのお話しと、ミナミコアリクイの励ましに背中を押されて、ヨダカの力を借りて、大切なフレンズに言葉を伝えるために、飛び立ったのです。
さて。一方で、その探し相手の、オーストラリアデビルはといえば。
「……どうしよう」
偶然たどり着いた池の辺りに座り込んで、すっかり肩を落としてしまっていました。
うっそうと茂る森の中をがむしゃらに走ってきて、どこがどこだかわからなくなってしまったのです。
「どうしよう。これじゃ帰れないよ、でも……」
「でも、どうしたの?」
「うひゃあっ!? あ、あなたはトキさん、なんでここに……」
「心配だったから、飛んで付いてきたの。途中で見失いかけたけど、わかりやすいところにいてくれて、助かったわ」
「そう、だったんですか……ごめんなさい、心配かけてしまって」
「気にしないで。仲間の事を思いやるのは、当然のことよ」
「仲間……ですか」
オーストラリアデビルは、トキの方を見上げました。
出会ってから、まだほんの少しの間しか一緒に過ごしてはいないのに、その顔は、ほん少しも不真面目さなんてまじっていない、心からの微笑みが浮かんでいます。
でも、そんな優しげなトキの様子を見て、もっとオーストラリアデビルは落ち込んでしまうのでした。
「トキさん……私には、仲間なんて言われる資格、ないんです。だって、あの子に酷いことをしてしまった、あの子を騙してしまったから。あの子の事、少しも覚えてないのに、思い出せないのに……言い出せなかったから……このまま、あの子の大切な友達のふりをしてしまえば、って、ほんのすこしでも、思ってしまったから……」
「そう……ねぇ。一曲、聴いてくれないかしら」
「えっ……ひっ、ひえぇ」
突然に、トキが、すうっ、と息を吸い込んで、歌う準備を始めたので、慌てて、オーストラリアデビルは身構えました。
さっき、アルパカのカフェでは大変な目に遭ったので、無理からぬ反応でしょう。
しかし、その想像とは裏腹に、トキの喉から発せられたのは、抑えめな代わりに、ちゃんと聴いていられる、良い歌声だったのです。
「あぁ、なかぁまぁ……♪ ふぅ、どうだったかしら」
「わぁ……すごい、さっきと全然違いました。紅茶、飲んだんですか?」
「たくさん練習して、抑えれば、上手く歌えるようになったのよ。すこし前に会った、ステキな友達からアドバイスを貰ってね」
「ステキな友達……羨ましいです」
「大丈夫。ここにもいるわ、アナタのステキな友達が。あの子もきっと、そう思ってる」
「そう……なんでしょうか。私、ちゃんとあの子と友達になれるでしょうか」
「えぇ、アナタならなれるわ。最初から上手くできなくても、ゆっくりでも。想いがあれば、きっと叶うわ。そう信じて、ワタシもいつか、ワタシとおなじ、赤白の羽根のトキの仲間に出逢うために、歌い続けるから。かけがえのない、アナタに似たあの子のこと、大切にしてあげて」
「……はいっ、はい!」
トキが、オーストラリアデビルの手を取ると、二人の、ハイライトのない瞳同士が向き合い、その中にお互いの姿を映し出します。
自分を立ち直らせてくれた、ステキな友達へ向けて、瞳の中の、落ち込むのをやめた自分へ向けて、オーストラリアデビルは、二回、強く頷いたのでした。
「いた、あそこ! ヨダカ、降りて!」
「了解」
「この声……!」
「ふふ、ちょうど、来たみたいね。頑張って」
空をあおげば、ミナミコアリクイとオーストラリアデビルを抱えた、ヨダカの姿がそこにありました。
相変わらずに、翼をすこしも羽ばたかせない不思議な飛び方で、地面にゆっくりと降りてきます。
そして、足がつくか、つかないかという所で、ばっとタスマニアデビルが飛び出して、オーストラリアデビルに向き合うのでした。
「お、オーストラリアデビル! その、おれ!」
「タスマニアデビル……」
「おれ、実は、お前が昔のこととか、覚えてないんじゃないか、って、気づいてたんだ。なのに、怖くて、それに気づかないふりして、お前に嫌な思いさせちゃった! だから、ごめんなさい……!」
「……私こそ。あなたにほんとのことを言えなかった。そうしてしまったら、あなたはもう、私の友達になってくれないんじゃないか、って……だから、ごめんなさい!」
「ち、違うぞ! オーストラリアデビルが謝ることなんてないぞ! 悪いのはおれだけだぞ!」
「いいえ、私が悪いの……全部」
「いやいや……」
「いやいや……」
「……ふへへっ」
まるで、譲り合うように、お互いに自分を悪いと言って聞かない二人の様子に、ついつい、ミナミコアリクイは噴き出してしまいました。
なんだか、一気に緊張していた空気が、どこかに行ってしまいます。
「何がおかしいんだよっ。おれは真剣なんだぞ!」
「ご、ごめんよぅ。でも、なんだかおかしくって。二人が、あんまりそっくりなんだもん。ね、ヨダカ?」
「解答。外見、現在の行動、両面において、非常に酷似している」
「ウフフ。やっぱりみんな、そう思うのね」
「と、トキさんまで……」
「もー、真剣にやってたのにっ! とにかくオーストラリアデビル、良かったらおれとちゃんと、友達になってくれよ、新しい仲間として、一からさ!」
「は、はいっ。こちらこそ、私で良ければ……っ!」
和やかになった所で、改めて、二人は仲直りして、お互いの手を握りあいます。
その様子に、今度はみんな、嬉しさで顔をほころばせるのでした。
「ふへへ。お互いに仲良くしたかったんだねぇ。良かったね、二人とも」
「良かった。わたしも、嬉しい」
「おめでとう。歌いたくなるわね」
「わ〜、おめでとう〜」
「あ、ありがとうございます……って、あなたは、フルルさんっ!?」
あんまりにも、自然に取り囲む中に紛れ込んでいる、なんだかふわふわした感じのするペンギンのフレンズを見て、オーストラリアデビルが、びっくり声をあげました。
それで周りも、すぐそこに、自分たちが探していた、フンボルトペンギンのフルルがいることに気づきます。
「あれ、どうしたの? 何かあった〜?」
「何かも何も、あたしたち、きみを探してたんだよぅ! 急に居なくなって、PPPのみんな、心配してたよぅ」
「アナタこそ、何かあったの? こんな所まで、結構こうざんから遠くよ」
「そうだったんだ〜。あ! ねぇねぇ、この子連れて行っていい?」
「こっちの話まるっきり無視かよ! って、その、抱えてるのは……なんだ?」
タスマニアデビルが目線をやった先の、フルルの腕の中には、一羽の、白黒の毛皮に、小さめの翼を持つ、なんだかフルルによく似た鳥が、抱えられています。
「鳥の子、ですよね……それに、なんだか、フルルさんに似てる、ような」
「もしかして、フレンズ化する前のフンボルトペンギンかしら。珍しいわね、この辺りでは、初めて見たわ」
「うん。なんだか、呼ばれた気がして、行ってみたら、この子がいたの。きっと、わたし達のライブを観に来てくれたんじゃないかな〜」
「ほ、ほんとか〜? フレンズでもない動物が、観たがるのかなぁ」
タスマニアデビルの疑いの視線にも気を
とめることなく、その子は、自分を抱えるフルルの腕の中に、大人しく収まっています。
左の翼の付け根のところに、紫色のバンドを付けているのが、なんだかオシャレです。
と、そんな所に、森の中の方から、活発な声が、みんなの方へ向けて響いてくるのでした。
「おーい! ミナミコアリクイたち、こんな所まで来てたのか。フルル、見つかったか?」
「あ、イワビー! こっちにいたよぅ、オーストラリアデビルも一緒だよぅ」
「お、ほんとだ! おいフルル、何処行ってたんだよもう、心配したぜ〜。さっ、みんな早く戻ろうぜ!」
「うん〜。わたしを探しに来てくれたんだね、みんな、ありがと〜」
「あ、うん。あたし達も戻ろぅ、みんな、一緒にね!」
「了解」
「うんっ。行こうぜ、オーストラリアデビル!」
「……はいっ!」
イワビーに頷きながら、タスマニアデビルが差し伸べた手を、オーストラリアデビルが取って、二人は歩き始めます。
それを見て、みんなが見守るように微笑んで、ヨダカも、少しだけ、口元を笑顔の形に変えたのでした。
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