そのに

ステージの設営はひとまず置いておいて、急きょ、『タスマニアデビルとオーストラリアデビル会えて良かったねパーティ』が、開かれる運びとなりました。

アルパカのカフェで、タスマニアデビルとオーストラリアデビルが隣り合っているところに、みんながテーブルを囲んで座ります。


「あ、あの、えぇと……」


「はいどぉぞ、どぉぞぉ! じゃぱりまんに、紅茶だよぉ。紅茶はあたしが淹れたんだよぉ、どんどんおかわりしてねぇ」


「へへっ、ありがとな、アルパカ!」


「いいのいいのぉ、あたしも、喜んでくれて嬉しいよぉ〜」


「ど、どうも……」


「タスマニアデビルさんたちも、オーストラリアデビルさんも、PPPのライブの為にここまで来られたというのですから、ある意味、PPPが皆さんを引き合わせたという事ですね……! こんな奇跡まで起こすなんて、アイドル最高ー!」


感極まった風に、マーゲイが、拳を震わせて言います。

元々、大のアイドル好きで、それが高じて、今やマネージャーの道を歩むこととなったマーゲイにとっては、これもまた、PPPの生み出した伝説の一つだと、思えるのでしょう。


「へぇぇ、やっぱり、オーストラリアデビルも、PPPのライブを観に来てたんだぁ」


「うん、その、好きで……何か手伝えないかな、って思って、マーゲイさんに、無理にお願いしたの……あんまり、役に立てて、ないけど」


「そんなわけないだろ、謙遜するなよ〜。オーストラリアデビルが、役に立ってないなんて、そんなわけないって。な、マーゲイ!」


「えぇ! オーストラリアデビルさんが設営をやってくれているおかげで、私が運搬に専念できてるわけですから! とても助かってます!」


「あうぅ……」


ほうぼうから褒められて、オーストラリアデビルは、俯いてもじもじと指を絡ませます。

どこか、気まずい風にも見えるようでしたが、照れていると思ったのか、タスマニアデビルは、じゃぱりまんと、アルパカの淹れてくれたお茶を、オーストラリアデビルにさしむけます。


「ほらほら、遠慮せず食べろって! 好きだろ、茶色のじゃぱりまん」


「う、ぅん……その、えぇと」


「燃料補給は、大事。はむ、はむ」


「ヨダカったら、大事だからって、主役顔負けに食べてるのはどうかと思うんですけど……」


「まぁ、いいじゃないの、ショウジョウトキ。探していた仲間に会えるなんて、とっても素敵な事よ。私まで嬉しくなっちゃう……一曲、歌いたくなるわね」


「トキ、歌が上手になったんだって聞いたよぅ。あたしも、聴いてみたいなぁ」


「お、いいですね! マイクをどうぞ!」


「ありがとう、マーゲイ……それじゃ、失礼して」


お誕生日席のタスマニアデビルとオーストラリアデビル、そんな二人に構わずせっせとじゃぱりまんを頰張るヨダカ、それに困り顔なショウジョウトキ、みんなの様子を見ているだけでにこにこと嬉しげな、ミナミコアリクイとアルパカ。

そんな、賑やかなみんなの前で、マーゲイからマイクを受け取ったトキは、すうっ、と息を吸い込んで、大きな声で歌い始めます。


「わぁ〜たぁ〜しはぁ〜トォ〜キ〜ィ〜! なかま〜をぉ〜さがしてぇ〜るぅ〜っ!」


「み、耳がぁ、耳がぁーっ!?」


「エラー、エラー……ッ」


「うわぁぁ、ストップ、ストーップ! トキ!」


「あら……? ごめんなさい。おかしいわね、喉の調子が」


トキの喉から出た歌声は、上手くなった、という話からは中々想像できない、すごいもので、ヨダカと、特に耳のいいマーゲイの二人は、中でもテーブルに倒れ伏してしまうくらいでした。

トキも、普段と違うのを感じ取ったみたいで、喉を抑えて小首を傾げていると、アルパカがちょこっと申し訳なさそうな様子です。


「あらら、ごめんねぇ。実は、喉に効くお茶の茶葉、切らしちゃっててぇ。別ので淹れてみてたんだけどぉ、駄目だったみたいだねぇ」


「そ、そんなぁ……ライブ、大丈夫なのぅ?」


「大丈夫大丈夫ぅ、PPPのみんなに、こっちくる時、一緒に紅茶も持ってきてもらうように、お願いしてあるからぁ」


「うぅ……PPPの皆さんなら、予定通りなら、そろそろみずべちほーを出発して、カフェに到着する頃だと思うんですが。ちょっと遅れてますね……道に迷ってるのかも」


「PPPかぁ……そうだ!」


アルパカと、なんとか立ち直ったマーゲイの話を聞いて、良いことを思いついた、と、タスマニアデビルが声をあげます。


「ならさ、迎えに行こうぜ! せっかくだしさ。オーストラリアデビル、行くぞ!」


「え……えぇっ」


「憧れのアイドルに、直接会うチャンスだぞ! ほら、早く早く!」


「あの、うぇえっ!?」


「行っちゃった。タスマニアデビル、張り切ってるなぁ」


タスマニアデビルは、思い立ったが、といった調子で、ぐいぐいとオーストラリアデビルの腕を引っ張って、カフェを飛び出していってしまいました。

ミナミコアリクイのつぶやきの通りに、かなりはしゃいでいる様子で、ほほえましいはほほえましいのですが、ちょっと危なっかしいです。


「なんだか心配ね。ワタシ、様子を見てくるわ」


「トキ、あたしたちも行くよぅ。ヨダカ、運んでもらっていぃい?」


「了解、無問題」


「晩御飯までには帰って来てねぇ、お茶とじゃぱりまん、たっくさん用意しとくからねぇ」


こうして、アルパカに見送られて、トキと、ヨダカ、ミナミコアリクイの三人で、デビルこんびを見守ることにしたのです。


「……発進する。しっかり捕まっていて、ミナミコアリクイ」


「うん、空飛ぶのなんて初めてだから、どきどきするよぅ……ふわぁっ」


かばんとトキが、旅の中でやっていたみたいに、縄で身体を結んで、ミナミコアリクイを抱えたヨダカが飛び立ちます。

慣れない感覚に、最初のうちはミナミコアリクイはあわあわとしていましたが、そのうちに慣れてきて、歓声をあげたのでした。


「わぁ、すごぉい! 空を飛ぶってこんな感じなんだぁ! ろおぷうぇいと、全然違うよぅ!」


「ミナミコアリクイ、楽しそうね。せっかくだから、二人でちょっとあたりを飛んできたらどうかしら。タスマニアデビルたちは、見ているから」


「いいのぅ? そ、それじゃ、お願いしちゃおうかな……」


「了解。スピードを上げる、気をつけて」


トキにありがたく甘えて、二人はちょこっとだけ、空の旅を楽しむ事にしました。

しっかとミナミコアリクイの腰を抱えて、ぐん、とヨダカが加速をかけます。


「わあぁ、すごいスピードだよぅ! ヨダカって、こんなに速く飛べるんだ、あたしが今まで会った、どんな鳥の子より速いかも」


「まだ、スピードは上げられる」


「ほんとぉ!? すごい、信じられないや……さ、流石にこれ以上はちょっと怖いかなぁ」


ミナミコアリクイは、はしゃぐかたわらで、けっこうびびりな態度になっていましたが、すでに、ごうごうと凄い勢いの風を感じるし、足元の山や森も、大分遠くになっていましたので、それも、無理からぬ事と言えました。


そのまま少しの間、じゃんぐるちほーの空を飛んで、こぢんまりとした池を目印にして、引き返した二人ですが、こうざんのふもとの、ろおぷうぇいの辺りに、トキにタスマニアデビル、オーストラリアデビル、そして、ヨダカの見慣れない、白黒の羽根の鳥のフレンズたちが、集まっているのが見えました。


「おぉい、トキ、タスマニアデビル、オーストラリアデビルーっ」


「ミナミコアリクイ、ヨダカ。おかえりなさい、楽しかった?」


「返答、肯定。ありがとう、トキ」


「なんだ、お前たちも付いて来てたのか。心配いらないよ、オーストラリアデビルも居るんだから。この通り、ちゃんとPPPにも会えたんだぞ〜」


「……あぅう」


タスマニアデビルは、心配なんていらない、といった感じで、旨を張ってみせます。

ですが、そのたびに、オーストラリアデビルは尚更、俯いて、困っているようでした。


タスマニアデビルに示されたフレンズたちのうち、ツインテールの、なんだかキラキラした感じのフレンズが、ヨダカたちのほうへ進み出ます。


「始めまして! ワタシはロイヤルペンギンのプリンセス、PPPのメンバーよ。聞いたわよ、アナタ達、マーゲイと一緒にライブ会場の設置を手伝ってくれてるって。ありがとう! とっても助かるわ」


「ふぁ、ど、どうも……あたしはミナミコアリクイ、こっちはヨダカっていうんだよぅ……す、すごい、生PPPと話しちゃってるよぅ」


「ふふ、嬉しいけど、そんなに緊張しなくていいよ。私たちも君たちとおんなじ、フレンズなんだから。私はコウテイペンギンのコウテイ、よろしく」


「オレはイワトビペンギンのイワビーだ! ロックだぜ」


「ジェーンです、ジェンツーペンギンです。よろしくお願いします」


プリンセスを皮切りに、PPPのコウテイ、イワビー、ジェーンが続けて挨拶をしてきます。

あまり気にしないで、とは、言われたものの、PPPといえばもう、ミナミコアリクイにとっては、雲の上のような存在なので、興奮と緊張が隠せません。


しかし、それはそれとしても、ファンの一人として、ミナミコアリクイには、気になる事がありました。


「あれ、あの、四人だけ……なのぅ?」


「そうなんだよ、フルルの奴、急にどっか行っちまってさー。オレ達みんなで探してたんだけど、まだ見つかんねぇんだ」


「もしかしたら、先に来ているのかもと思ったんですけど、そうじゃないみたいですね……」


イワビーとジェーンが、口々に答えます。

どうやら、5人いるPPPメンバーのもう一人、フンボルトペンギンのフルルが、みんなとはぐれてしまったようなのです。


「大丈夫大丈夫! すぐ見つかるって、おれ達も手伝うからさ! な、オーストラリアデビル!」


「え、あ、うん……」


「心配なのか? 平気だろ、最近はセルリアンも少ないし」


「いや、それもそうだけど、そうじゃなくて……」


「なら、どうしたんだよ? なんだか、ずっと、あんまり楽しそうじゃないぞ……?」


タスマニアデビルは、いよいよオーストラリアデビルの顔色を、心配げに覗いてみます。

一人足りないとはいえ、本物のPPPに会っているというのに、すでに仲の良いトキや、そもそもPPPのことをよく知らなかったヨダカはともかく、PPPが好きで、お手伝いを始めたというのに、ちっとも嬉しそうに見えないのです。

それがどうにも、気になってしまって、仕方ありません。


「その、ずっと、言わなきゃいけないって思ってたんだけど、その……茶色のじゃぱりまん食べたの、今日が初めてで……そのっ! フルルさん、探してきますっ!」


「え、あっ、おい、オーストラリアデビルっ!?」


やっとの思いで、といった様子で、それだけ伝えて、オーストラリアデビルは、明後日のほうへと走っていってしまいました。

唐突なことに、特にPPPのプリンセスはびっくりして、心配げな様子です。


「どうしたの、喧嘩しちゃった?」


「……んーん、そうゆう訳じゃ、ない、と思うけどぅ……タスマニアデビル、大丈夫?」


「おれは……うん、おれは、平気。さ、おれ達も早く、フルルを探そうぜ!」


「……了解」


タスマニアデビルは、自分に言い聞かせるように、そう呟いて、やけに明るく声を張り上げて、歩き始めます。

そんな後ろ姿を、みんなは心配げに、見つめていました。

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