そのさん

さて、素材集めまでは、順調にいったいかだ作りでしたが、やっぱり、組み立てとなると、中々一筋縄とはいかない現実が、みんなを待っていました。


「かじかじかじ……うがーっ! 駄目だ、この平たいののはじっこの木、ちょっと太すぎて、顎で削って切ると、綺麗に切れないぞぉ」


「えっとぉ、この平たいのは、こうやってくっついてたよね。だから、またそのとおりに組めば……あ、あれれ。しっかり組みあがらないよぅ」


「失敗……蔓が絡まり、身動きが取れない。救援求む」


「わーっ、ヨダカ、ぐるぐる巻きでおっもしろいぞー! 私もやるやるーっ!」


「遊ぶなよーっ! おい、ミナミコアリクイ、こんなんでほんとに、大丈夫なのか?」


「うぅ……お話しで聞いた時は、もっと簡単そうだったんだけどぉ」


にっちもさっちもいかなくなってきて、ミナミコアリクイの顔も曇りました。

かばんとサーバルのお話の中では、すいすいといろんなものを作り上げていたものですが、思っていたよりも、何倍も難しくって、心が折れてしまいそうです。

すると、そこへコツメカワウソが、歩いてきたのでした。


「貸して貸して! ここはねー、ここを、こうして、こーするんだよーっ、ほら!」


「うぉ、すごい! ほんとだ、こんなにあっさり。どうやったんだよ、コツメカワウソ」


「へっへーん。前、かばんちゃんがやるの見てて、覚えたんだ〜っ」


「あ! そういえば、コツメカワウソって、かばんさんと一緒に、橋を作ったんだよね!」


「うん、そーだよっ。あれは面白かったなーっ!」


「ねぇ、あたしたちにも、そういう、組み立て方とか、結び方とか、教えてよぅ! 」


「もちろんオッケーだよ〜っ!」


こうして、コツメカワウソにやり方を教わって、みんなはいかだ作りを進めていきます。

先程までより、かなりみんな上手くなって、特に、ヨダカは、とても上達して、驚くほどにすいすいと、いかだを組み上げるまで、こぎつけられたのでした。


「……できたーっ!」


「すげぇな……本当に、おれ達が作ったのか」


「うん、うん! みんなのおかげだよぅ!」


「わーいっ! かっこいいぞーっ!」


みんなが作り上げたいかだは、前にジャガーさんが使っていたものより、丈夫そうで、立派なものとなりました。

それだけで、みんなはわりと満足しかけていましたが、ここで、ヨダカが言います。


「指摘。まだ、未完成。各種テストの実施を提案」


「そ、そうだね。まだ、浮かせてみたりしてないもんね」


「テストなんて、よくないか? めんどくさいぞ」


「だめだよぅ。もし渡してすぐ壊れちゃったら、かなしいもん」


「それじゃ、早速浮かせてみよーっ!私引っ張るのやるやるーっ!」


「うん。コツメカワウソ、お願いするよぅ、あたしとタスマニアデビルが乗るから。ヨダカは、上から様子を見ててね」


「了解」


「えぇっ、おれも乗るのか!? い、いや、怖くなんか、ないけどさっ」


「一人なら大丈夫でも、たくさん乗ったらだめかもしれないもん。それじゃぁ、やってみようよぅ」


そういうわけで、みんなはいかだを川まで引きずって、浮かべて、試しに乗ってみることにしました。


「よいしょ、うんしょっ、と!」


「わーいっ! 私一回やってみたかったんだー、運転手? 乗って乗って、早く早くー!」


「うんっ。よっしょ、と。ほら、タスマニアデビルも」


「う、うぅ……な、なんかおれ、急にお腹が……」


「……どーん」


ヨダカは、川に浮くいかだに乗るのをためらっていたタスマニアデビルの背中を、自分がされたように、押してあげました。

タスマニアデビルは、ちゃんと飛びうつれましたが、少し目に涙を浮かべながら、ヨダカのことを怒ります。


「わひっ!? な、なにすんだ、ヨダカぁ!」


「謝罪、ごめんなさい。でも、乗れたよ」


「余計なお世話だよぉ!」


「よーし、それじゃ、出発しんこーっ! わーいっ!」


「あっ、ちょ、ちょっと待てよぉ!」


タスマニアデビルが色々言い終わるのを待たずに、コツメカワウソが出発します。

重いのか、初めはゆっくりですが、流れに乗ってからは、そこそこの速さで動き出しました。


「おおー! 私、いかだをひいてるーっ!」


「だ、大丈夫だよな? 沈んだりしないよな?」


「うん、今のところは、平気そうだよぅ。結び目も、しっかりしてる。ヨダカ、上からはどう?」


「解答。いかだ、崩壊の様子なし。現段階では、充分な安全性があるものと判断。大丈夫」


「そ、そっか。ほんとだよな? 生きた心地がしないぞぉ……」


「まぁまぁ。タスマニアデビルも、一旦落ち着いて、ちょっと周りの景色、見てみてよぅ」


いかだの上で揺られて、不安げなタスマニアデビルも、ミナミコアリクイに促されて、足元から、辺りの景色の方を見るようにしてみました。

すると、自分が動いていなくても、勝手に、辺りの木々が後ろへ、後ろへと流れていって、なんだか、摩訶不思議な気持ちになってくるのです。


「ほぁー……すごいな、まるで、傾いてない坂を、滑り降りてるみたいだ」


「でしょでしょ? おっもしろいよねー! 私、自分で泳げるのに、この景色が好きで、ついジャガーちゃんのいかだに乗っちゃうんだよーっ」


「うん……って、コツメカワウソ、前見て前!」


「わ、おぉっと!?」


二人の方へ振り向いていたコツメカワウソちゃんは、コツメカワウソの呼びかけで、前にいつのまにか、大きな木の枝が浮いていることに気づきました。

なんとか、いかだを横に引っ張ろうとしますが、コツメカワウソ一人の力では、間に合いません。

あわやぶつかる、というその時、その木が、ふいに、ざぱぁ、と、空に浮き上がりました。


「んっ、しょっ……これで、平気?」


「おー! トンネルみたーい! かっこいーっ! あははっ!」


「ありがとぅ、ヨダカ。おかげで助かったよぅ」


「……大したことは、していない」


「お、なんだ、照れてるのか? 可愛いとこあるじゃんっ」


「……それより、注意。前方に橋を確認」


「お、あの橋、コツメカワウソたちが作ったって奴だっけ。あれ、あそこに誰か……もしかして、ジャガーじゃない?」


タスマニアデビルが、見えてきた、橋の上を渡っている影を、指差します。

その子は、たしかに、彼女のいうとおり、丸っこい輪っかが散らばった中に、点々がある模様の毛皮の、ちょっとずんぐりむっくりな感じのする、頑丈そうな体をしたフレンズの、ジャガーに違いありませんでした。


「ほんとだ! おーいっ、ジャガーちゃーん! こっちこっちー!」


「ん、あれ、コツメカワウソ? それに、ミナミコアリクイたち! そのいかだ、どうしたの?」


「うん、みんなで作ったんだよぅ、ジャガーへの、プレゼント」


「え、作った!? 私の為に? すごい、魔法みたーい……」


「わーい、びっくりした、びっくりした!? だいせいこーっ!!」


「頑張ったんだぞ〜っ、ほらほら乗って!」


「え、あぁ、うん……私が引っ張らなくて、いいの?」


「今日は、ジャガーちゃんがお客さんなんだよーっ」


「そ、そっか……」


なんだか、気の抜けたような顔になりながら、ジャガーは、いかだに乗り込みます。

三人乗り込んでも、いかだはなんともないようでしたが、ヨダカがやや心配げに、ジャガーへ話しかけました。


「ジャガー、大丈夫?」


「あ、うん、平気だよ。ただ、なんというか、その、ちょっと気持ちが追いついてなくって」


「提案。なら、景色を見て。さっき、タスマニアデビルも、そうしていた」


「景色を……うん、わかったよ」


「それじゃ、レッツゴーッ!」


ヨダカに言われて、ジャガーは、あたりの流れていく景色を見つめます。

すると、自分が動いていなくても、勝手に、辺りの木々が後ろへ、後ろへと流れていって、なんだか、摩訶不思議な気持ちになってくるのです。


「……なんだか、面白いね。なんにもしてなくっても、景色が動いていくんだ」


「そーそー! 私、それ大好きっ!」


「あたしも好きだよぅ。タスマニアデビルも、だよね?」


「ま、まーな! 嫌いじゃない、一応」


「そっか……ありがとう、みんな。嬉しいよ、本当に」


みんなの言葉を聞いて、ジャガーさんは、笑って、お礼を言いました。

それは、まるで、報われたような、とっても晴れやかで、安心したような、素敵な、心からの笑顔でした。


「ジャガーちゃん、後で交代だよっ! 私も乗りたい乗りたーいっ」


「はいはい。毎日、乗せてあげるから」


「ほんと? やったー! わーいっ!」


「ふへへ、よかったねぇ、コツメカワウソ」


「うんっ。よーし、張り切っちゃうよ〜!」


「お、おいっ、あんまり揺らさないでくれよ〜っ」


こうして、いつもはみんなを運んでいる方のジャガーさんは、今は、お客さんとして、ミナミコアリクイたちと一緒に、いかだに揺られるのを、楽しんだのでした。

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