そのに
ヨダカが川から助け出された後、みんなは、ジャガーさんのねぐらまで、やってきていました。
河の近くで、水のせせらぎが聞こえてきて、沢山の木や、草に囲まれていて、暗くて、なんだか落ち着く、素敵な場所です。
「はぐはぐっ、はぐっ……」
「良い食べっぷりだね。よしよし、満足するまで好きなだけ食べな」
「わー、もう10個目だーっ!すごいすごーいっ!」
「いったい、あの身体のどこにあんなに収まってるのか、不思議だぞ……」
「ほんとに、お腹減ってたんだねぇ。よかったよぅ」
がつがつと、一心不乱にじゃぱりまんを平らげる、ヨダカの様子を見て、なんだかみんなは、ほっこりとしてしまいました。
ついさっきまで溺れかけていたのが嘘のように元気で、ミナミコアリクイも、安心、安心です。
「けぷ。更なる補給を要求」
「まだ食べるのか! ごめんな、私の蓄えも、これが最後だよ」
「結局、一人でみーんな食べちゃったよ。山みたいにあったのにな」
「ほんとに、ありがとうね、ジャガーさん。じゃぱりまん、分けてくれて……あっ」
くぅ、と、その時、ミナミコアリクイのお腹の虫が鳴きました。
ずっと、我慢していましたが、ミナミコアリクイも、さばんなちほーでヨダカと会う前から、何も食べていなかったのです。
「こ、これは違うんだよぅ! なんでもないから、気にしないでいいよぅ!」
「……。……っ」
顔を真っ赤にして首を振るミナミコアリクイですが、それに気づいたヨダカは、何度も、何度も、じゃぱりまんと、ミナミコアリクイの顔を見比べた後……ぐぐぐ、と、ゆっくり、身体から引き離すように、じゃぱりまんを持つ右手を、ミナミコアリクイの方へ差し出そうとしました。
「すごく……すっごく、躊躇ってるな。ヨダカ」
「あははっ!パンサーカメレオンちゃんに押さえつけられてるみたーいっ!おっもしろーい!」
「そ、そこまでして気にしなくって、いいから! 食べて良いよぅ!」
「……でも」
自分が食べたいという気持ちと、ミナミコアリクイに食べてほしいという気持ちに挟まれて、いまいち決めきれないでいるヨダカ。
そんな様子を見て、ジャガーさんは、微笑みながら言いました。
「ならさ、半分こしたらいいんじゃない?」
「はんぶん、こ。とは?」
「うん。ごめんね、ちょっと借りるよ……はい」
ヨダカからじゃぱりまんを受け取り、ジャガーさんは、それを両手でちぎって二つにしました。
ちぎれた面から、中身のあんが見えていて、これはこれで、美味しそうに見えます。
そして、その半分ずつを、ジャガーさんはそれぞれ、ヨダカと、ミナミコアリクイに渡したのです。
「これで、半分こ。ちょっと、物足りないかもしれないけどね」
「あ、ありがとう、ジャガーさん……えっと、ヨダカ。じゃあ、半分だけ、貰うよぅ」
「……うん。半分こ」
二人は頷きあって、並んでじゃぱりまんを齧りました。
甘くって柔らかい、優しい味が、口の中に、いっぱいに広がります。
「んむんむ。美味しいね」
「うん……なんだか、さっきより、美味しいような。不思議」
「知らないのー? ごはんって、一人より、みんなで食べる方が、美味しーんだよっ!」
「いやいや、気のせいだと思うぞ、おれは」
「ほんとだよー。 タビーちゃんったらー」
「こらーっ!そのあだ名で呼ぶなーっ!」
「暴れない、暴れない。食べてる子がいるんだから」
「……記憶。ご飯は、みんなで食べると、おいしい」
わいのわいのと騒がしい中で、ヨダカはミナミコアリクイと一緒に、じゃぱりまんを、ゆっくりと一口ずつ、味わって食べたのでした。
「……ご馳走様」
「んむんむ……おいしかったぁ。ジャガー、本当にありがとう。助けてくれて、じゃぱりまんまでご馳走になっちゃって」
「いいよいいよ。私、誰かの役に立って感謝されるの、好きだからさ」
「いいやつなんだなぁ、なんか思ってたイメージと違うぞ……べ、別に怖がってた訳じゃないけど! でも、ほんとに良かったのか?あれ……」
タスマニアデビルは、見栄を張って見せながらも、少し躊躇いがちに、ねぐらの端の方に、目をやりました。
そこには、木が割れて、駄目になってしまった、ジャガーさんのいかだが置かれています。
ヨダカを乗せて岸辺まで運ぼうとした時に、壊れてしまったのです。
「謝罪。ジャガー、ごめんなさい。私のせいで」
「あぁ……うん。いいんだよ、気にしないで。もう、結構長く使ってたから、きっと寿命だよ。今は橋もあるから、フレンズのみんなが困ることもないし。それに、きみを助けられたんだから、最後の仕事としては、最高だったよ」
「ジャガーさん……」
目を細めて、いかだの方をみやるジャガーの心の中では、いろんな感情が、せめぎあっているようで。
ミナミコアリクイは、なんだか寂しそうな、その横顔に、何か言ってあげたくて、でも、うまく形にならなくって、黙ってしまいました。
話題を変えるように、改めて、ジャガーはきり出します。
「そういえば、ミナミコアリクイたちは旅してるんだっけ。どこ行くの?」
「としょかんだよぅ。ヨダカがなんの動物か、教えてもらいに行くんだ」
「へぇ、そうなんだ。それなら、今日は泊まっていきなよ。としょかんまでは結構あるし、しっかり休んで」
「うん、ありがとう。そうさせて貰うよぅ」
「わーいやったー! 今日はジャガーちゃんちにお泊まりだーっ!」
「コツメカワウソまで、泊まっていいって言ったつもりはなかったんだけどなぁ」
「あははははっ」
誰よりもはしゃいでいるコツメカワウソと、困ったように頭を描くジャガーの様子に、思わずみんなの間から笑いが漏れます。
こうして、ミナミコアリクイたちと、コツメカワウソは、ジャガーのねぐらで一日を過ごしたのでした。
そして、あっという間に次の日がやってきました。
「よし、と。じゃあ、あたしたちは、そろそろ行くね」
「川を渡るなら、橋は向こうの方にあるよ! ヨダカ、もう溺れないようにね」
「回答。大丈夫、飛んで渡るから」
「え、ヨダカって飛べたの? 飛べない鳥のフレンズかと思ってたよ……」
「ふっふっふ! ヨダカの飛ぶところはな、凄いんだぞ〜。音も立てずに、凄い速さで飛ぶんだぞ! どうだ、怖いだろ〜」
「なんでタスマニアデビルが自慢げなのかは分からないけど、本当に凄いんだよ、全然羽ばたかないんだよぅ」
「へー、面白いね! 今度、見せてよ」
「了解。必ずや」
「そ、そこまで意気込まなくても、いいんだけどぉ……」
「あはははっ、ヨダカっておっもしろーい!」
そうして、ミナミコアリクイたちは、ジャガーとまた会う約束をして、じゃんぐるちほーの道無き道を、また歩いてゆきます。
蔓みたいな植物が、うんと沢山生えているところを進んでいくうちに、今までのけもの道とは違う感じの、所々崩れているものの、長さの同じにされた木が並べられたり、手すりがあったりして、歩きやすそうな道に辿り着きました。
「不思議な、道……」
「そうなんだよぅ。この道はね、実は、『ヒト』が作ったんだって! この地図とか、あの時の平たいのも、そうだったんだよぅ」
「『ヒト』? なんだ、それ? 動物か? なんか弱そうだな〜」
「そんなことないよぅ! 確かに、あんまり走ったり、泳いだり、戦ったりするのは、得意じゃないけど、素敵なこと思いついて、いろんなすっごいもの作れるんだよぅ! かばんさんだって、すごかったんだから!」
「『ヒト』……作る……」
ミナミコアリクイの話に、ヨダカが反応しました。
ぼんやりと、その場に立ち尽くして、じっと、ヒトの作ったという、朽ちかけでボロボロの道を、見つめています。
「どうしたのぅ? ヨダカ」
「……不明。不明なノイズ……何か、エンジンが、ざわめく」
「エン……何だって? 胸騒ぎがする、って事か?」
「肯定……『ヒト』に、作られた……」
「……そっか!もしかしたら、きっと、ヨダカって、『ヒト』とすごい仲の良くって、一緒に棲んだりしてるくらいの動物だったんだよぅ! だから、もしかしたら、ヒトの作ったいろんなもの見れば、色々思い出せるかも!」
ヨダカの呟くのを聞いて、ミナミコアリクイはぴんと思い付き、興奮して、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねながら、言いました。
かばんとサーバルの旅をそっくり真似してるみたいになっている上に、ヨダカが、憧れの『ヒト』と関わりが深そうだぞ、と、いうことがわかって、ますます、夢を見てるみたいで、じっとしていられなかったのです。
「ねぇねぇ!この先にある橋も、かばんさんが作ったんだよぅ! 見たらもしかしたら何かわかるかも! 早く行こうよぅ!」
「んっ、了解」
「あ、おいっ! 置いてくなよーっ!」
ヨダカの手を引いて駆け出したミナミコアリクイを、慌ててタスマニアデビルが追います。
そうして、三人は昨日ぶりに、じゃんぐるちほーを流れる、大きな河と向き合いました。
途切れた道の先には、ジャガーやミナミコアリクイが話していた通りの、木のつると、板を使って作られた橋が渡されて、こちらとむこうの岸を繋いでいます。
「これが。作られた、橋」
「うん。すごいでしょ! かばんさんとサーバルさんが作ったんだよぅ!」
「ミナミコアリクイも、好きだなぁ。またその、かばんさんっていうのの話か。いったい、どんな奴なんだよ」
「かばんさんはね、『ヒト』なんだよぅ! 行く先々で、フレンズのみんなと協力して、いろんな素敵なことをしたり、作ったりしたんだよぅ。この橋だって、サーバルさんに、コツメカワウソやジャガーと……そうだ!」
そこで、はっと、何かを思いついたらしく、ミナミコアリクイは、顔を勢いよく上げて、二人へと向き直ってみせます。
「な、なんだよいきなり」
「ねぇねぇ! あたしたちも、やってみようよぅ、作るの! いかだを作って、ジャガーさんにプレゼントしてあげるんだよぅ!」
「え、えぇ〜!? そんなの無理だろー。落ち着きなって。確かに、お返しはしてあげたいけどさぁ」
「やってみないとわからないよぅ! それに、もしかしたら、何か作ったりしてみれば、ヨダカも何か思い出せるかもだよぅ。どう? 挑戦してみようよぅ、いかだ作り」
タスマニアデビルは尻込みしていますが、ミナミコアリクイはやる気に満ち溢れた瞳で、ヨダカを見つめました。
少し考えた後、こくり、と、その顔に向けて、ヨダカは頷き返します。
「賛同。私も、お礼がしたい。ちゃんと」
「そっか! よかった、一緒に頑張ろうよぅ!」
「な、なんだよ……し、仕方ないな、お前ら二人だけじゃ不安だから、おれも手伝ってやるよ! 失敗しても、知らないからな!」
乗り気な二人の様子に、気がすすまないながらも、タスマニアデビルも、しぶしぶと、協力することにしたのでした。
「それで……どうしたらいいんだよ? 作る、って言っても、何が何だかだぞ」
「えっとね。あの橋の作り方を、参考にしようと思うんだよぅ。お話だと、水に浮く木の板と、木の蔓を使ってたから、まずはそれを集めないと」
「蔦なら、さっきの場所に沢山生えてたな。よし、切るのはおれに任せとけ」
「ふへへ、珍しく自信満々だね」
「珍しくもなんともない! おれはいつでも、自信満々なんだぞっ」
「珍しい……」
「ヨダカ、お前もかぁ! くそ〜、今に見てろよ〜っ!」
さんざんな言われように、少し涙目になるタスマニアデビルでしたが、蔦の生い茂る場所まで戻ると、本当に大活躍が待っていました。
その鋭い歯で、丈夫な蔦をあっさりと噛みちぎっては、運びやすい長さにしていったのです。
「かじかじかじ……どうだ! もうこんなに噛み切ったぞ! 噛む力なら、誰にも負けてないんだぞ〜!」
「すごいよぅ! タスマニアデビル、こんな特技があったんだ。見直したよぅ」
「記憶。タスマニアデビル、噛む力が自慢」
「わっはっは! もっと褒めていいんだぞ〜!かじかじかじかじ」
二人から褒められて、調子に乗って、タスマニアデビルはとても張り切り、山ほどの蔓を切ってしまったのでした。
「く、口の中が青臭いぞ……」
「あんまりたくさん切るからだよぅ。ヨダカが力持ちでよかったよぅ」
「この程度なら、問題ない」
山のようになった蔓のロープの塊を、ヨダカは一人で悠々と運んでいます。
タスマニアデビルとミナミコアリクイだけでは、何度も川辺まで往復して運ばなければいけなかったでしょう。
「そうだ。ヨダカがこれだけ力持ちなら、あそこにあった、木のひらたいのを、持ってこれるかも」
「あそこ? って、何処だよ」
「うん、昨日の、コツメカワウソが滑り台をしてた辺りだよぅ。周りにけっこう、そうゆうのが浮いてたから、ヨダカに、飛んで引っ張ってきて貰えないかな、って」
「なるほどなぁ。よく思いついたなぁ、なんだかミナミコアリクイ、ちょっと賢くなったんじゃないか?」
「ふへへ……かばんさんの真似してみたんだよぅ。ヨダカ、お願いできる?」
「了解、やってみる」
タスマニアデビルに褒められて、照れながら、ミナミコアリクイは、ヨダカにおねがいをしました。
ヨダカは素直に頷いて、三人でまた、昨日の、コツメカワウソの滑り台のところに向かいます。
「おい、あれなんてどうだ? けっこう、ジャガーの引いてたやつに、似た形だぞ」
「ほんとだ。ヨダカ、お願い」
「了解……んーっ!」
タスマニアデビルの見つけた木のひらたいのに向かって、ヨダカは飛んで近づいて、掴んで引っ張ってみますが、うんともすんともいきません。
けっこう、ヨダカは力のあるフレンズなのですが、それでも駄目なようです。
「びくとも、しない……っ」
「駄目かぁ……うーん、どうしてなんだろう」
「仕方ない、別のを探そうぜ。こだわっても仕方ないし」
「あ、ミナミコアリクイたち! やっほー、何してるのっ、新しい遊び? おっもしろそーっ!」
「コツメカワウソ! 今日も来てたんだ。えっとね、実はジャガーさんのために、いかだを作ろうと思って」
「そうなんだ、すごーい! 私、早速知らせてくるね、きっとジャガーちゃん喜ぶよ!」
「え、えっとその、ちゃんと出来てからプレゼントして、驚かせたいから、秘密にしたいんだけど……」
「おっ、いいねそれ! ジャガーちゃん、びっくりさせたい! 私もやるやる〜!」
「うん! それじゃ、ヨダカのこと、手伝ってあげてよぅ。使えそうな、木のひらたいのを探してもらってるんだよぅ」
「オッケー! ヨダカ、私にもやらせてよーっ」
「了解」
新しく、一緒にいかだ作りをする仲間にくわわったコツメカワウソが、苦戦中のヨダカのところへ向かいます。
コツメカワウソは、水の中に潜って様子を確認して、みんなに報告をしました。
「なんかねなんかね、水の中で、ほかの木とかに、引っかかってるみたい! おっもしろーい!」
「なら、そういう邪魔なのをどかしたら、ヨダカが持ち上げられるようになるかもだな 」
「そうだね。 コツメカワウソ、ヨダカ、やってみて、お願い」
「了解」
「オッケー!」
ヨダカとコツメカワウソは、協力して、ひらたいのを持ち上げる邪魔になっていた、いろんなものをどかして、ついに、木の平たいのを引っ張りあげます。
それは、水の中に結構な部分が沈んでいたみたいで、思っていたより、かなりの大きさでした。
「エンジン、出力上昇……はぁっ」
「やったー、引き抜けたーっ! わーい! でっかいぞー!」
「うわぁ、すごい! こんなにおっきかったんだね。川の上からは、ちょっとしか見えなかったよぅ」
「こんだけ大きいと、逆にいかだに使いづらそうだなぁ」
「でも、これだけあれば、ちょっとくらい失敗しても、へっちゃらだよぅ。早速、いかだ作りに行ってみようよぅ!」
「おーっ!」
こうして、材料を集めたみんなは、いよいよ、本格的にいかだ作りに入るのでした。
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