第二話 やってみよー!!!

そのいち

じゃんぐるちほーという所は、木の少なくて、カラッとしているさばんなちほーとは全然違って、じめじめっとしていて、沢山の木が、辺り一面に茂っております。

身を隠す場所も沢山あるし、大きな川もあって、飲み水にも困らないので、パークの中でも、フレンズはもちろん、いろんな動物が沢山棲んでいる場所なのです。

さばんなちほーと反対に、お日様が登っていても、たくさんの背の高い木に遮られて、ちょっと薄暗い道を、三人は並んで歩いてゆきます。


「何を隠そう! おれやミナミコアリクイだって、ここに棲んでるんだぞっ」


「フレンズの子もみんな優しいし、いいとこだよぅ。ヨダカもなんの動物かわかったら、この辺に棲むといいよぅ」


「棲む……とは? わからない」


「えぇっ!? 動物のときどんな生き方してたんだよお前っ。覚えてないって言ってもさ、フツーじゃないぞ」


「……フツーじゃない。疑問、フツーとは」


「またそれかぁ〜!」


「えっとねぇ、あたしたちはみんな、安心して、食べたり、飲んだり、休んだりできる住処を決めて、その辺りで暮らすんだよぅ。でもたまに、そうゆうとこを持たずに、旅して暮らす子もいるんだよぅ、ヨダカはそうゆう子だったのかも」


大げさなくらいにびっくりしてみせるタスマニアデビルとは反対に、ミナミコアリクイは、ていねいに、ヨダカの分からないと言ったことを教えてあげました。

もう、なんとなくヨダカとの付き合い方が、わかって来ていたのもありますし、最初に上手く答えられなかったのが、少し悔しくって、『これからは、分からないことは、ちゃんと教えてあげたい』と、思うようになったからです。

そんな、ミナミコアリクイの話を聞いて、ヨダカは少し考え込んでから、つぶやくように答えます。


「把握……うん。旅はしていなかった、と思う。狭くて、暗い所……に、ずっといた。ような」


「おっ! 思い出したのかっ。狭くて暗い、っていうと、おれみたいに、巣穴で寝起きしてる動物なのかもな」


「巣穴かぁ……そういえば、こはんには、とってもおっきくて立派なおうちがあるんだって。せっかくだから、近くまで行ったら見ていこうよぅ」


「了解……うん」


「あれ、どうしたの? なんか元気ないよぅ」


「そうかぁ? おれにはいつもとおんなじに見えるけどな……」


「んむんむ……はれ? ミナミコアリクイに、タビーじゃない。おはよー」


二人が、どうしたのかな、と、ヨダカの様子をうかがっていると、ちょうどそこへ一人のフレンズが通りがかってきました。

白と黒の毛皮をしていて、眠そうな目でじゃぱりまんをかじっています。

ちなみに、タビー、というのは、タスマニアデビルのあだ名ですが、響きがなんだか可愛くって、怖くないので、タスマニアデビルは、あまり気に入ってはいません。


「あっ、マレーバク! おはよぅ」


「おいっ、その呼び方やめろって行ってるだろっ」


「あれ? そーいえば二人とも、旅に出たんじゃ……うわっ! なにその子っ!? なんか、黒いし、でっかい羽根……」


ヨダカの姿に気付くのと一緒に、はっ、と、目が覚めたようで、マレーバクは、近くの木の後ろに引っ込み、そこからこちらを伺います。

身体はそこそこ大きいですが、とっても臆病なフレンズなのです。


「謝罪。驚かせてしまって、ごめんなさい。わたしは、ヨダカ」


「あ、ご丁寧にどうも……こちらこそごめんね、驚いちゃって。私、マレーバク。よろしくね」


「記憶。マレーバク、覚えた……」


「な、何かな……あんまりじっと見られるの、得意じゃないんだけど」


「あ! もしかして、お腹空いてるのぅ? ヨダカ」


「お腹……」


ぼんやりと、マレーバク……の、じゃぱりまんを見つめていたヨダカが、自分のお腹をさすると、くぅ、と、可愛らしくお腹の虫が鳴きました。

考えてみれば、ミナミコアリクイと出会ってからここまで、水しか口にしていません。

それに気付くと、ミナミコアリクイもまた、思い出したようにお腹が減ってくるのです。


「そぅいえば、あたしもヨダカも、ずっとご飯食べてなかったよぅ。マレーバク、よかったら、じゃぱりまん、分けてくれない?」


「まぁ、食べかけでいいなら……はい」


「……じゃぱり?」


手渡された、歯型のかたちに欠けているじゃぱりまんじゅうを、じぃっ、と、ヨダカは見つめます。

まるで、初めて見る、といった風で、どうしたらいいのか、わからないようでした。


「じゃぱりまんだ。危ないもんじゃないぞ? ほら、齧ってみろよ」


「齧る……こう? あむっ」


「そうそう! どぅ? 美味しい……?」


「……はぐ、はぐっ」


みんなに見守られながら、ヨダカは恐る恐るじゃぱりまんを一口齧って、目をまん丸にします。

そして、すぐに夢中になって、がつがつと、あっという間に残りを食べつくしてしまいました。

その後も、何もなくなった手のひらを、じっと見つめています。


「……これが。じゃぱり、まん」


「すごい勢いだったな! 気に入ったのか?」


「回答を保留。結論を出すために、より複数のサンプルの提示を要求」


「……よーするに、もっと食べたい、ってことだよな? それって気に入ってるってことだろっ!」


「回答を保留」


「だー! もーっ!」


タスマニアデビルの問いかけに、あくまでヨダカは頑なに、答えようとはしません。

それがおかしくって、ついミナミコアリクイは、吹き出してしまうのでした。


「ふへへっ。変なとこで素直じゃないんだね。ねぇマレーバク、まだじゃぱりまん、あるかな」


「いや、今持ってるのは、それだけだったの。これ以上は、巣穴まで取りに戻らないと……」


「そっかぁ。そこまでお世話になるのは悪いなぁ……ボスを探してみるよぅ。ありがとう、マレーバク」


「いーよいーよ。ボスなら、川の向こうで見たよ。それじゃ、またね。ヨダカちゃんも」


「またね。……質問、ボス、とは?」


「やっぱり知らないのか。ちっこくて、お前より無愛想だけど、じゃぱりまんをくれるいい奴だぞ〜」


マレーバクを見送ってすぐ、ヨダカが問いかけますと、タスマニアデビルが、ヨダカのほっぺたを指で持ち上げて、無理やりに笑顔を作って見せながら答えます。

むにむにと、ほっぺを弄ばれて、少しだけヨダカは眉をひそめました。


「……記憶。資材『じゃぱりまん』の確保のため、個体『ボス』の捜索を提案」


「だから、そうしようっ、て話してんじゃんか。マレーバクは、川の向こうで見たんだっけ? 早く行こうよ。ヨダカは見た事ないと思うけど、この先にでっかい橋があるんだぞ〜」


「あ! それならね、せっかくだから、ジャガーさんのいかだに乗っていこうと思うんだよぅ」


「えぇっ? で、でもミナミコアリクイ、『怖いから嫌』って、避けてたじゃん」


「ふへへ、実はこないだ、挑戦してたんだよぅ。だから、もうへっちゃらっ」


ジャガー、という名前が出てきて、へっぴり腰がごまかしきれていないタスマニアデビルへ向けて、ミナミコアリクイは、えっへん、と、胸を張りました。

動物の頃の事もあって、ミナミコアリクイはジャガーのことはとても苦手だったのですが、ちゃんと会ってお話しして、仲良くなっていたのです。


「ジャガー、に……いかだ、とは?」


「うん! ジャガーっていう、ネコ科のフレンズの子が、この先の川の、橋渡しをやってくれてるんだよぅ。おっきくて、ちょっとおっかなく見えるけど、とっても優しい子なんだよぅ」


「ほ、本気かよぉ、ミナミコアリクイ……お、おれは別にいいけどさ! やめといた方がいいと思うぞ、ヨダカ! 危ないって」


「わたしは、ミナミコアリクイに従う」


「お、おいぃ……!」


「それじゃ、決まりだね。ジャガーさんの通るの、こっちだよぅ」


「な、なんだよくそ〜! わ、わかったよ、おれもいかだ乗るぞっ、全然怖くなんてないしなっ!」


口とは裏腹に、腰の引けきったタスマニアデビル。

怖がっているのが見え見えなのですが、ミナミコアリクイは、ジャガーさんが本当は優しい子なのを知って欲しくて、わざと気づかないふりをして、川への道を歩くのでした。


そうして、少し行くと、視界がぱっとひらけて、みんなの目の前に大きな大きな河が、横たわります。


「つ、ついたな……」


「うん。多分、このへんで待ってれば、そのうち通りがかると思うんだけどぅ」


「大量の、水の、流れ……」


ミナミコアリクイとタスマニアデビルが話している横で、ヨダカは、岸辺に座り込んで、眺めをじっと見つめてみたり、指を突っ込んでみたりしています。

結構背の高い、お姉さんのような見た目とは裏腹に、興味津々といった風に、目の前に景色に心奪われている様子ですが、そこへ急に、ひょいっと横から声をかけるフレンズの姿がありました。


「ねーねーキミ、何やってるの? それってもしかして新しい遊び? わたしもやるやるーっ!」


「……遊びではない、と思う。わたしはヨダカ。質問、あなたは誰?」


「私? コツメカワウソだよーっ。あれ、よく見たらへんな羽根! あっははっ、おっもしろーい! ねぇねぇ、キミってなんのけもの? どこから来たの? それってどーなってるのっ?」


「アー……ウェー」


「コツメカワウソ、久しぶりぃ。きみもジャガーさんのいかだに乗りに来たのぅ?」


あんまりにもくるくると賑やかなコツメカワウソについていけなくなってしまって、ヨダカが困っていると、ミナミコアリクイが助け船を出してくれました。


「おっ、ミナミコアリクイ! タスマニアデビルも〜っ。そうだよー、それまで滑り台で遊んで待とうと思ってるんだ〜。みんなもやる?」


「滑り台……とは」


「あれだよっ! すごいでしょっ。見てて、こーやって遊ぶんだよーっ」


ヨダカが、コツメカワウソの走っていく方を見ますと、川の中から、ななめに突き刺さるように、大きくて、長くて、平らで、まっすぐな、木でできた、坂みたいなものが、伸びています。

コツメカワウソは、すいすいと泳いでその近くまで来ると、一番高いところにまで登って、そこで座り、川面に向けて平らな坂をすいーっと滑り降りて、水しぶきを立てました。


「わーい! たーのしーっ!」


「……あれが、滑り台。理解」


「なんだ? ヨダカも気になるのか? おれは全然気にならないけどなっ」


「それなら、せっかくだし、やってみたらいいよぅ」


「……了解」


「おっ! キミもチャレンジするんだね? 気持ちいーよーっ」


滑り台の上に立つコツメカワウソのところへ向かって、ヨダカは、すーっと羽ばたく事もなく飛んで、見ていた通りに、腰掛けてみます。

水で湿っているのと、苔が生えているおかげで、結構つるつるな触り心地で、あまり引っかかりするようなこともなく、滑れそうな感じです。


「しかし。推測より、急角度……」


「それーっ! どーんっ」


「ウェーーーーッ!?」


急に、コツメカワウソに背中を押されて、気持ちの準備のできていなかったヨダカは、思わず変な声を出しながら滑り台をひゅーっと滑り落ちていきます。

そして、だっぱーんっ! と、盛大に水しぶきを撒き散らしながら、川の中に沈んでいったのでした。


「わーいっ! 川がはじけたーっ! おっもしろーい!」


「こっちまで水が飛んできたぞ!すごい存在感だな、ヨダカ……どんだけ大きな動物だったんだ」


「ねぇ、ヨダカ、大丈夫ぅ? ヨダカー?」


どんな時でも楽しそうなコツメカワウソと、感心しているタスマニアデビルに対して、ミナミコアリクイはヨダカに向けて、少し心配げに呼びかけました。

しかし、川面はざわざわと波の立つばかりで、呼びかけに応える声はありません。


「ね、ねぇ! ヨダカ、全然浮いてこないよぅ! もしかして、溺れてるんじゃ」


「えー? 自分から滑り台やりたがってて、それはないだろ」


「私、見てくるねっ! レッツゴーッ!」


あいもかわらずに、楽しそうな笑顔で、コツメカワウソは滑り台を滑って勢いよく水の中へと飛び込んでゆきました。

そうして暫くしてから、ぼこぼこと水面が泡立って、ざぱぁと二人ぶんの頭が、顔を出します。


「おぼ、おぼぼぼっ……」


「わーいっ! ヨダカ、すっごく重いぞーっ! 全然持ち上がんない! 沈んで行くぞーっ! あははっ、おっもしろーいっ!」


「お、面白がってる場合じゃないよぅ、それって! ううっ、今、あたしも助けに行くからっ!」


「落ち着けって! お前やおれが行ったところで足手まといになるだけだぞ、ろくに泳げないんだから!」


「あ、あたしはちょっとは泳げるもんっ! タスマニアデビルとは違うよぅっ」


「な、なんだよ馬鹿にすんな! おれだって、その気にさえなればなぁっ……」


溺れかけのヨダカを抱えているコツメカワウソを前に、岸辺の二人は、それどころじゃないのに、口喧嘩を始めてしまいます。

もう、何がなんだかしっちゃかめっちゃか、といった様子になってきたところで、どんぶら、どんぶらと、川下のほうから、一人のフレンズが、いかだを牽いてやってきたのでした。


「おーい! なんだか騒がしいけど、何かあったの? コツメカワウソ」


「あっ、ジャガー! ちょうどよかった! ちょっと手伝って! ヨダカ、すっごく重たいんだよー」


「な、なんだかよくわからないけど……溺れてるのか? その子! わかった!」


こうして、運良く通りがかったジャガーに助けられて、なんとかヨダカは無事に、川から救い出されるのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る