世界は君の敵

sui

第1話

 私はよく、同じ夢を見る。寒空の下で息絶えそうな私を、名前も知らない老紳士に拾われる夢。彼は夢の中でいつも同じことを聞く。

「君の願いはなんだ。」

 それに応えようとする時、頭に激しい痛みが走り目が覚める。あの夢は一体なんなのか。私にはわからなかった。


「マーリー!!ぼけっとしてないで早く起きな!!いつまで寝てるつもりだ!」

 恰幅のよいブロンドヘアーの婦人は、小さな扉の前で怒鳴っていた。小さな扉の向こうで、「ごめんなさい、キャシー…。」と、か細い声が聞こえ、そしてすぐ扉は開き、四つん這いになった少女が出てきた。この、栗色の髪に翡翠色の目の色をした少女がマーリーというのだろう。

「毎日、毎日、何度同じことを言わせれば気がすむんだ!いい加減にしないとこの家から追い出すよ。さっさと支度して学校に行きな、あの子たちにとってあんたは害だからね。」

 マーリーは黙ったまま俯き、静かに支度をし家を出た。学校へ向かう道中に、マーリーはいつも寄り道をしていた。小さな切り株に腰をかけ、マーリーはおいでと右手を差し出した。その手にはキャシーにバレないようにこっそり持ち出したパンが握られていた。カサカサと音を立てて小さな黒色の猫がマーリーの手にすり寄った。

「遅くなってごめんね。今日のご飯だよ。」

 黒猫はパンを鼻でつついて、パンを小さくちぎり口へ含んだ後ニャァと鳴いた。

「ふふっ。君は本当に見てて癒されるなぁ。いいなぁ。私は君が羨ましい。君みたいに自由に過ごせたらいいのに。」

 マーリーの頰に涙が伝う、黒猫はマーリーの膝に乗って体に擦り寄る。それは黒猫がマーリーを慰めているように見えた。

「君は優しいね。分からないかもしれないけど聞いてくれる…?私ね、うんっと小さな時のこと覚えてないんだ。気づいたらキャシーのところでお世話になってたの。不思議でしょ?最初の方は何も思わなかったの。私は昔からキャシーにお世話になってるんだって思ってた。あ、キャシーっていうのはキャサリンって言って、少し怖いけど、いつも私の面倒を見てくれてる人なの。それでね、そのキャシーって人にお世話になってるんだけど、少ししてから同じ夢ばかり見るようになったの。その夢には自分にそっくりな女の子が出てきて、どうしてもその女の子が自分にしか思えないんだ。その頃から、私のお母さんとかお父さんとか。キャシーにお世話になる前のこととかが気になるようになって。キャシーに聞いて見ても、知らないの一点張りで、拾ってきたとしか教えてくれないの。…なんだか私って、なんなのかな…って。まぁ、君に聞いて見ても分からないものはわかないんだけどね。」

 黒猫は首を傾げた後また、ニャアと鳴いた。マーリーは黒猫を抱え、地面に下ろした。

「そろそろ行かなきゃ、何処かの国では黒猫は不幸を呼ぶって言うみたいだけど、私はそうは思えないわ。またね。行ってきます。」

 黒猫はニャァと鳴いて、マーリーを見送った。


学校に着いた。今日は少し猫さんと遊びすぎたかもしれない。私には二人の義理の兄弟がいる。(兄弟だなんて思ったことはないのだけれど…)その二人は私よりもずっと頭がいいって言われてるお金持ちの人が通う様な学校に通っていて、顔合わせると私に嫌味や不満をぶつけてくる。兄と姉なのだが、兄は暴言を吐いてくるだけなのだが、姉は陰湿で私の私物をどこかに隠したり、自分の失態を私に擦りつけてきたりする。その所為で私は意味もなくキャシーに怒られてしまう。もしかしたらキャシーは分かっていて怒っているのかもしれないけれど。とりあえず私の偽りの家族は私のことが気にくわないらしい。だから私はこうして朝早くに彼ら二人とは別の学校に向かい、猫さんと遊んで暇を潰してから学校に来ている。

「おはよう、今日も早いねマーリー。」

「おはようマイク。珍しいね、こんなに早く来るなんて。」

マイクはいつも時間ギリギリにやって来る。本人に尋ねて見ると、朝ごはんが美味しいからおかわりしちゃう。なんだそうだ。うん、確かにふくよかだ。

「ヘッヘッヘー、今日はうさぎさんたちにご飯をあげないといけないから早く来たんだ!」

私のクラスは毎日うさぎの餌を当番制にしている。正直私は毎日早いから私でもよかったのだけれど、みんなで話し合った結果日替わりでクラス全員でということに決まった。私はこのクラスのみんなで協力、助け合いの考え方が好きだ、だから私もみんなのお手伝いができたらなって思っている。

「あぁ!そういえばそうだったね。みんながいつもあげてる餌は職員室でブラウンが準備していると思うよ。」

「そうなんだ、ありがとう。どうしたらいいのか分かってなかったんだ!」

「ううん、大したことじゃないし。じゃあ私はお花の水換えして来るね」

そう言ってお互い教室を出てそれぞれのやるべきことしに行った。花の水を換えていると後ろから誰かに抱きつかれた。

「ヒェッ」

「おっはよう!今日も朝から水換え偉いねマーリー!!私マーリーのそういうところ好き。」

朝からハイテンションの彼女は私に抱きつくのが好きらしく。毎朝必ずこうして私を抱きしめてから教室に入る。

「おはよ…、レベッカ。いつも後ろからって…いない。」

彼女の悪いところは話を最後まで聞かないところだと思う。嫌いではないのだけれど。うん。正直話を聞けって思う。

色々しているうちにクラスメイトも揃い始め。担任のブラウンが出席をとっていた。当たり障りなく友人たちと過ごしていた昼休み、いつもマイクとレベッカともう一人オリヴィアと一緒に昼食を食べていた。

「ねぇねぇ、もし本当にサイバー戦争が起きたら私たち、どうしたらいいんだろうね。」

「…?サイバー戦争?」

「マーリーはテレビ見れないから仕方ないけど、マイクとレベッカは知ってたでしょ?」

「聞いてはいたけどそんな考えてなかったよ…、だって僕たちまだ子供なんだぜ?自分たちでどうにかできるなんて思えないよ」

「でも、避難とかになったら、私たちにもできることがあるかもしれないね」

三人はサイバー戦争の話で盛り上がっているがそれがなんなのか私にはわからなかった。

「待って、サイバー戦争が起きる予定でもあるの?」

「誰も信じてないけどね…。朝のニュースでやってたんだ。」

「まぁ、そんな難しい話より、クリスマス会どうするかだよ!クリスマス会のこと考えよーぜ!」

「…それもそうだね」

クリスマス会。クラスメイト各自でお菓子やプレゼントを持ち寄ってパーティを開く。これは毎年行なっている行事で1年の中で一番盛り上がっているんじゃないかと思う。クリスマス会の24日まであと一週間。今年は何をするのか考えるだけで私たちは心を躍らせていた。



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