オリヴィアと主様
「それで、オリヴィアちゃんの事で話って何かしら?」
杏莉はコーヒーをずずっと啜りながら、無表情のまま、目だけを僕の方に向けた。
ここは大学近くの喫茶店だ。杏莉にどこか話せるところに行こうと言うと、一番近いからという理由でこのお店を指定されたのだ。
「オリヴィアは杏莉の事を主と呼んでいたけど、本当に会った事は無かったのか? オリヴィアは見間違えるはずがないと言っているのだけど」
杏莉はコーヒーカップをソーサーに乗せると、目を瞑る。
「今からは話す事は妄想のようなもので、とても恥ずかしいから、他の人には言わないで欲しいのだけど」
そう前書きを言うと、杏莉は子供時代の話を語り始めた。杏莉は小さい頃から人と話すのが苦手な性格で、いつも一人で遊んでいたそうだ。いつからだろうか、心の中に友人を作って、寂しさを紛らわすようになっていたらしい。その時に描いた友達がオリヴィアだったのだ。太陽の煌きもオリヴィアに贈った物だそうだ。
「ネックレスもオリヴィアちゃんも、あの時、思い浮かべていたのとそっくりで初めて見た時は本当に驚いたのよ」
杏莉は深いため息を吐く。僕は昼食として頼んだ、ナポリタンスパゲティをフォークでくるくると回しながら話を聞いた。なるほど。あの世界は杏莉が子供の頃に作った世界で間違いないだろう。それが、何らかの形で実体化したのではないだろうか。
「オリヴィアは何らかの役目を果たす為に、杏莉の世界から飛び出してここにいるんじゃないかな。もし、役目が無いのなら、もう消えているはずだからと言っていた。先ほどの話を聞く限りだと、杏莉は友達が欲しくてオリヴィアを生み出したんだよね? 失礼な事を聞くけれど、杏莉、友達はいるの」
杏莉は目を逸らし、ため息をつく。
「私に友達がいると思うの? 残念ながら仲の良い子はいないわ。でも、もう大人よ。いなくても寂しいとかは思わないわよね」
そんなものかと、くるくると巻いたナポリタンを口に運ぶ。うん、喫茶店ならではの、ケチャップの効いた素朴な味が美味しい。僕はもぐもぐと租借しながらどうしたものかと考える。
「主様は嘘を吐いておる。どうしてそのような事を言うのです。私にはわかるのです、主様の本当の気持ちが」
家にいるはずのオリヴィアがテーブルに両手を叩きつけていた。その迫力に息を飲む。
「オリヴィアちゃん、どうして私の気持ちがわかるのかな? あなたはあの時と同じかもしれないけれど、私は成長しているの。もう、大人なの。あなたにはわからないかもしれないけれど、友達ごっこをする年齢ではないのよ」
杏莉は飲食店の店員のように綺麗な笑顔を浮かべていた。それは心の断絶を表していた。
オリヴィアの顔から血の気が引くのがわかる。顔が青くなり、あわあわと慌てた。杏莉はオリヴィアには目もくれず、いつものように何事にも関心の無いような表情を浮かべると、テーブルの上に五百円玉を置き、席を立った、
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