太陽の煌きと召喚の魔法
先ほど見た白昼夢と手に収まっている太陽の煌きについて考察したいところだったが、一限目の講義時間が刻々と迫っている事を思い出した。ポケットから携帯電話を取り出し時間を確認する。走ればまだ間に合う時間だった。太陽の煌きと携帯電話をポケットに押し込めると、急ぎ足で大学へと向かった。
大学はいつも通りで、何も変わった事は無かった。クラスメイト達と先ほどあった話を下。皆既日食は皆が見ていたようだが、赤く染まった裏側の世界を見た者は誰もおらず、面白い作り話だと笑い飛ばされた。
やはり、夢を見たのだろう。そう思う事に決めると、残りの講義を聞き流した。講義をすべて終え、帰路に着く。大学を出て坂を下っていると。前方に杏莉の姿を見かけた。僕は早歩きで彼女に追い付く。
「杏莉、お疲れ様。一緒に帰らないかい」
「いいわよ、断るような事でもないし」
杏莉は無表情のまま、視線だけを僕の方にちらりと向けた。そういえば、杏莉は皆既日食を見たのだろうか? あの時間だったら、勉強漬けの杏莉でも見ているのではないかと思った。
「杏莉は朝の皆既日食は見た?」
「通学時間だったから、少しは見たわよ。立ち止まってじっくりとは見て無いけれど」
僕は赤く染まった裏側の世界の話を杏莉にした。きっと取り合っては貰えないだろうけど、話のネタにはなると思ったのだ。最初は杏莉も相槌を打ってくれていたが、オリヴィアと出会った話をする頃には、目線を反対側に逸らされていた。作り話だと思い呆れているのだろう。
悔しくなった。何か信じて貰う方法はないだろうか? そうだ。杏莉になら太陽の煌きを見せても問題ないだろう。
「杏莉、少し見て欲しいものがあるのだけど」
そういって、ポケットから太陽の煌きを取り出す。杏莉は一瞬驚いた顔をしたが、本当に一瞬だけだった。直ぐに無表情に戻るとじとっとした目で僕を見る。
「坂口君、ネックレスを付ける趣味があったの? でも、ごめんなさいね。私はネックレスに興味無いわ」
慌てて、否定をしようと思ったが、これがあるからと言って、裏側の世界がある証明にはならない。僕はがっくりと肩を落とし、当たり障りのない会話をしながら、分かれ道まで一緒に帰った。
アパートに着き、玄関のドアを開ける。床に荷物を置き、デスクに座った。ポケットから太陽の煌きを取り出した。改めてまじまじと見る。ネックレスは金色のチェーンとその先端に付いている太陽の形をしたペンダントトップで構成されている。太陽の形をしたペンダントトップには中央に赤い宝石が嵌め込まれており、まるで裏側の世界で見た、太陽のようだった。オリヴィアは言っていた。会いたいと念じたら会える魔法が掛かっていると。太陽の煌きを両手で握りしめ。目を瞑る。心の中でオリヴィアを想い描き、懸命に祈りを捧げた。
期待をして目を開けたが、視界の中には何の変化無く、目を閉じる前と何も変わらない光景が広がっていた。んーっと、大きく伸びをし、大きくため息を吐く。
「やっぱり、夢だったのかな。魔法何てあるはずがないもんな」
独りごちると、背後からあるはずの無い返答があった。
「其方は魔法も信じられぬのか? 我を呼び出したというのに何とも頼りないのう」
後ろに振り返るとベッドの上には女の子がポツンと座って居た。光輝くブロンドの巻き髪、エメラルドのような瞳、白いフリルが沢山ついたピンク色のドレス。オリヴィアを思わせるその外見にドキッとした。だが、彼女の見た目は二十歳くらいだったはずだ。目の前の子はどう見ても小学校低学年だ。オリヴィアの妹だろうか?
「其方、失礼な事を考えておるな? 我はオリヴィア本人ぞ。其方の念が足りず、このような姿になったのじゃ。其方が魔法の存在を信じておらんかったせいじゃ」
オリヴィアは腰に手を当て、プンプンと怒っていた。
「申し訳ない、さっきまでは魔法の存在を信じられなかったんだ。でも、君の姿を見た今なら信じられるよ。もう一度、呼び直したらいいかな?」
オリヴィアは腕を組み、目を瞑る。
「無駄じゃな。我はここにおる。それは呼ぶ事しか出来ない魔法じゃ。一度、あちらの世界に帰らないと無理じゃ」
なるほど、オリヴィアのいう事は理解出来る。ならば、一度、送り返せばいいのではないだろうか? 僕はオリヴィアに提案してみた。
「それは無理じゃ。裏側の世界に帰る方法は一つ、世界の隙間からしか行けぬ」
「じゃあ、オリヴィアはどうやって帰るつもりだったの?」
「……考えておらんかった。まあ、何とかなるじゃろう。暫くここに厄介になるぞ」
こうして僕とオリヴィアの奇妙な共同生活が始まった。
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