2-8

◇◇◇


 長かった入学式も終わり、明日からの試験に備えるようにとそのまま下校を迎え、燐慟りんどうは帰路についた。

 夕陽が地上を照らしつけ、街全体を橙に染めている。

「──で、なんでお前がいるんだ」

 仏頂面の燐慟りんどうの隣には、神咲かんざき家の子息が何食わぬ顔で歩いていた。

「えー、べつにいいじゃん、一緒に帰っても。友達なんだから」

「……友達、ねェ……」

 燐慟りんどうは、入学式直前の教室で言われた言葉を思い出していた。


神咲かんざきには逆らえないんだろ? だったら俺に従えよ』


 初日から神咲かんざきとこれほど深く接触できるとは思っていなかった。こちらからのアプローチはしないつもりだったとはいえ、その逆の可能性は考慮していなかった。完全に誤算だった、と今さらながら後悔の念に駆られる。

「明日、楽しみにしてるよ」

「俺は楽しみじゃない」

 そう返せば、お得意の笑顔で笑いかけてきて、

「じゃ、また明日な、リンドウ」

 十字路を左に曲がっていった。燐慟りんどうはその背中を、ジッと見つめる。

──彼の実力はいかほどだろうか、と。


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