2-5

◆◆◆


 カンバスに絵の具を垂らしたような、晴れ晴れとした真っ青な空の下。地平線の彼方まで広がる草原が、時折吹く薫風くんぷうでそよそよと揺れる。

 少年が天を仰ぐ隣で、瑠璃るり色の髪の少女は腰を下ろして、まっすぐ前を見つめている。

「ねぇ、リンドウ。あたしのこと、好き?」

「…………」

「リンドウ、聞いてる?」

「ん?」

「もうっ。ちゃんと聞いてよね!」

 聞こえてるよ、と燐慟りんどうは内心ほくそ笑む。

 困ったときに時雨しぐれが浮かべる、その表情が燐慟は好きだった。頬を膨らませ、眉間にシワを寄せてそっぽを向く時雨。それでも彼女の名前を呼べば、向日葵のような笑顔で抱きついてきた。

「あたしたち、大人になったら結婚しようね」

 これは時雨の口癖で、俺たち二人の誓いのようなものだった。

 当時六歳だった俺は家柄のことはあまりわからなかったが、神咲かんざき家とさかき家は五指に入る名家で、俺たちが結婚すれば互いの家の繁栄にもつながることは、父から何度も聞かされてきた。だがそんなことは関係なしに、俺は時雨のことが大好きだった。何の困難もなく、その夢は叶うと思っていた。

 それなのに、大好きでたまらなかったのに、時雨は死んだ。いや、正確には──俺が殺したんだ。


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