2-4

 燐慟りんどうは思わず目を細め、

「そ、れは一体、どういう……」

 真意を探ろうとするも、蓮がそれを遮り、言う。

「そのままの意味だよ。君、いろいろと隠し事してるでしょ。猫被ってるの、バレバレなんだけど」

 スッと細められる2つの瞳。放たれる眼光は、触れたら怪我をしてしまいそうなほどに鋭い。

「例えば、そうだな……」

 顎に手をやり、考え込む仕草をしてみせ、にやりと笑った。

「──神咲を探ろうと何か企んでいたりして」

 いきなり核心を突いてきた蓮。だが、ここでボロを出すわけにもいかず、少しだけ反撃に出る。

「隠し事? 何かを企む? はっ、そんな必要がどこに──」

「いやいや、ありまくりでしょ。何せここは、神咲直轄かんざきちょっかつの超エリート学園。神咲かんざきの息のかかった者しかいないんだから」

 違う? とでも言いたげに首を傾げ、あいも変わらず人当たりの良さそうな笑顔で、蓮は吐き出す。

「言うなれば、君は敵陣にたった一人で迷い込んだ野良犬、ってところかな?」

 子供騙こどもだましの嘘などではない。彼は──神咲かんざき 蓮は確信している。これ以上何を言っても無駄だと判断した燐慟りんどうは、長く尾をく白いため息を吐き出すと、眉間にシワを寄せて窓の外に目をやった。

「猫被ってんのはどっちだよ」

 すると、途端に顔を輝かせる蓮。

「お、自分も猫被ってるって認めちゃうんだ」

 声を弾ませて、碧眼が燐慟りんどうを映す。やはり、ニコニコと楽しそうに笑っていた。

「うるせェ。俺はめんどくさいヤツ、大嫌いなんだよ」

「えー、めんどくさいヤツって、僕?」

「お前以外にいないだろ」

 燐慟りんどうのその言葉に、今度はくすくすと笑い声をらす蓮。

「それじゃ、猫被りがバレたってことで、明日からの実力試験では本気を見せてくれるのかな?」

 ヒトシキ学園に入学して、初めての行事。それが、実力試験。学年ごとにそれぞれ割り振られた組み合わせ通りにトーナメント方式で闘い、実力を図るというもの。審判が下した判定は覆ることはなく、相手をやむなく殺してしまった場合については、"減点措置"がなされる。つまり、殺人が黙認されるのである。

「ただ、時雨しぐれもいるからなぁ。本気でいかないと、死んじゃうかもよ?」

「──ッ!!?」


『時雨』


 その名前を聞いた瞬間、自分の身体が反応してしまったのがわかった。

「ははっ、なにそれ。隠そうとしてるつもり?」

「……ッ」

 鋭く目を光らせた蓮にこれ以上探りを入れられないように、何とか平静を装おうとする燐慟。

「気になる?

 黙り込んだ燐慟りんどうに、さらに蓮は言葉を重ねる。

「教えてあげてもいいよ、彼女のこと」

 横目で確認できた蓮の瞳に浮かぶのは、うさぎを狩る獣のそれ。

 ぞわり、と。背筋に悪寒が走る。何か、嫌な予感がする。

 そして、蓮の唇が開いた。

「──ただし、トーナメント戦で僕に勝てたら、の話だけど」

 普通の女子見たならば、頬を赤らめて顔を逸らすであろうその笑顔が。獲物を追い詰めた猛獣のようなその双眸そうぼうが。燐慟りんどうを捉えていた。

「無理に決まってるだろ。俺は"さかき"なんだから」

「ふぅん……」

 鋭利な刃物のように細められた碧眼が、燐慟りんどうを見る。

 ピリピリとした沈黙が、両者の間に腰を落ち着かせる。

「ま、いいけどね。それはそうと、時雨、入学式で新入生代表の挨拶をするらしいよ。なんでも、成績トップで合格したとか──」

 そんな蓮の言葉が燐慟りんどうの鼓膜を叩くも、すでにこの時には、彼の声は燐慟りんどうには届いていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る