第ニ晶 ヒトシキ学園へ
2-1
ほろほろと零れるような春の陽とともに、桜の花びらが頭上に降り注ぐ。そこここに散っている桜の花びらが点々と白を零し、枝々には白い渦のように咲きあふれる。
桜並木の続く通学路を、クラウドブルー色の学ランを着た
「おい、アイツ……」
「あの家紋……
「フン、身の程知らずの三流が」
と、同じ制服を身に纏った男子生徒たちが、
それを
──そうだ、ここは戦場だ
どんなに罵られようと、理不尽な扱いを受けようと、
ふと、頭にかすかな重みを感じて、前髪に腕を伸ばす。掴んだのは一枚の薄桃色の花びら。ふわりと鼻孔をくすぐる柔らかな桜の香りに、
何気なく見上げたその先。舞い落ちてくる桜吹雪が、おびただしい数の蝶の乱舞に見えた。
「────」
ちらと視界に入った、桜色ではない瑠璃色の"何か"。ほんの少し気が緩んでいたことで、コンマ数秒反応が遅れてしまう。
──あり得ない。何せ、彼女はもうこの世に存在し得ないのだから
だが、そんな考えとは裏腹に、胸の奥底で眠り込んでいたはずの本能が、在りもしない可能性に、希望に縋ろうとする。
腰まで伸びた瑠璃色の髪の少女。
すでに桜吹雪に覆い隠されてしまったその少女の背中を追おうとした刹那──
偶然か、はたまた神の悪戯か。少し強めの桜の香りを纏った春風が、
制服の裾がはためき、前髪が踊る。舞い上がった砂埃の侵入を防ぐために腕で顔を覆わざるを得なくなり、何とも歯がゆい思いに駆られる。
風が収まった時にはすでに人影一つ見当たらず、胸に違和感だけを残して、再び桜が散り始めていた。
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