序章

序章

 地面にあかい花が咲くことを、初めて知った。

 赤い、紅い花々が眼前に広がっている。それはとどまることを知らず、彼方に鎮座する地平線目指してなおも地面に咲き続けていく。鼻孔に突き刺さる鉄の臭いが、これは真実なのだと突きつけてくるようで、次第に視界が鮮明になっていく。

 ──花なんてどこにも咲いていなかった

 責めるように、生ぬるい風が頬を撫でる。

 俺の腕の中には、すでに息絶えた血まみれの少女。瑠璃るり色の輝きを放っていたはずの髪は乱れ、真紅に染まっている。

 頬に一筋の涙が伝う。止めどなく、溢れてくる。

 俺は慟哭どうこくした。

 少女の白い顔に雫が落ちる。

 雨。雨。雨。

 ぽつり、ぽつりと少女の顔に零れ落ちる。悲しみを洗い流すかのように、雨はさらに強さを増す。

 ともに反発しながら、赤を含んだ水が下へ下へと滴り落ちる。

 希望も虚しさも、戦う気力も生きる意志さえも薄れてゆく。

 俺は突然の眩い光に、身体を包み込まれた。

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