月夜の願い(短編)
YUUKA
■
一種の都市伝説だろうか。
満月の夜に願った思いは、恋に有効だって聞いた。
「浜崎くん、全然変わらないよねー」
女性の黄色い声が室内に響く。
今日は久しぶりに懐かしいメンバーで会おうと、同窓会が開かれている。
私は、ずっと遠慮していたんだけど、数少ない仲良しの女の子が出るというから……仕方なく参加する事にした。
浜崎くんは高校時代、サッカー部の部長をやっていた超人気者。
30代になったというのに、その魅力は衰えるどころか、増々磨きがかかったように思える。
他のメンバーは社会に出た疲れのようなものが少しずつ見えるのに、彼にはそれが全くと言っていいほど見られない。
(私の事、クラスメイトだったって覚えてるかなぁ)
こう思うぐらい、高校時代、彼とは接点が無かった。
でも……一度だけ。
学校帰りに、暗い道は危ないからって一緒に帰ってくれた事があった。
それ以来私は卒業までこっそり彼に片思いしていた。
願いが叶うなら……あの日、言えなかったお礼をもう一度言いたい。
覚えてなんかいないだろうけど、私はあの時、嬉しすぎて声が出せなかったんだって。
今なら言える気がする。
もう子供じゃない。
数回のつらい失恋もして、それなりに大人になった。
そんな今だからこそ……あの頃得られなかったほんの少しの勇気が出せる気がする。
ギュッと握った自分の手が汗ばんでいる。
入れ替わり立ち代わり浜崎くんを取り囲むメンバーが変わるのを遠くで見つめながら、私は自分の気持ちを奮い立たせようとしていた。
「ふぅ……」
お手洗いに立ち、呼吸を整える。
(やっぱり声をかけるなんて無理かなぁ)
座敷に戻る途中、窓から見える夜景を見た。
「あ……今日って満月だったんだ」
ビル群の上には綺麗に円を描く月が出ていて、まるでそこだけパネルに入れ込んだ写真みたいだった。
思わず……あの都市伝説を思い出す。
(願った思いは、満月の日に有効)
冗談めかして会社の人たちと笑い話にしていたけど、今……私は少しだけ魔法が欲しい時。
目を閉じて、スッと息を吸う。
そして、幼かった高校時代の気持ちを素直に月に向かって告白した。
「あ、こんなとこにいた」
「え?」
驚いて目を開けると、そこには浜崎くんの姿が。
「今日話してないの、佐藤だけだから」
「う、うん」
名前を憶えていてくれた。
それだけで鼓動が早くなる。
「ちょっと外に出ない?」
浜崎くんの甘い声に、私の心が勝手に期待をしてしまう。
そんなに多くは願っていない。
それでも……彼と少しでも近づけるなら――――。
満月は……本当に私に力を分けてくれたんだろうか。
それを確かめようともう一度窓の外を見る。
青白く夜空を照らす月は当然何も語らない。
END
月夜の願い(短編) YUUKA @nyao_i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます