夜の帰宅

「帰ろうか」

 うつむいたまま夜が言った。三海は口元を噛み締めたまま、詩音は目をうるませたまま頷く。

 空はまだ暗く、星が僅かに光っている。暗い夜道を歩く三人は無言だった。

 やがてそれぞれの家までたどり着き、三人は言葉を発することなく別れる。夜は三海と詩音と別れて、家の扉を開けた。

「どこにっ、行ってたの!!!」

 玄関には母親が立っていた。その顔は悲壮で、今にも崩れ落ちそうだ。思わず反論しそうな夜だったが、三海の言葉を思い出してつばを飲み込む。

「……」

「言えないようなこと、してたの」

「して、ない」

「じゃあ!!」

 夜はまっすぐに母親と向き合う。なんだかとても小さく見えた。母は、こんなにも華奢だっただろうか。こんなにもやせ細っていただろうか。

「母さん、ただいま。勝手に出ていって、ごめんなさい」

「よ、る?」

「ちゃんと、話をしよう」

 そう言う夜を母親はぽかんとした顔で眺める。反抗ばかりでろくに話を聞かなかった息子の口から"話をする"という言葉が出てきたのだ。驚くより他になかった。

 拍子抜けしたような母親の後ろには父親もいた。父親は母親を支えてリビングへと促す。

「夜、とりあえずシャワーを浴びてきなさい。砂だらけじゃないか」

「はい」

 こんな状況でも落ち着いた父親に、夜は安心して家に上がった。

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