第10話 恋から始まる勉強法
恋する乙女】
私は、中学2年の夢見る乙女。
乙女とか自分で言ってかなり恥ずかしい。
分かっているけど、かなりイタい。
中学2年という今しかないこの年頃の恋は大事な時期。
クラスでなんとなく話す仲の良い男友達がいないわけじゃない。
恋というモノに憧れて、何となくでも彼氏と呼べる人が出来たから付き合ってみた。
でも、なんだろう?
何かが違う気がする。
結局そんなに長続きしないで、別れてしまった。
なんだろう。
周りにいる男子が、子供っぽく見える。
そこまで気にしたことなかったけど、最近は先輩とかもなんか違う気がする。
恋に恋する乙女としては、もっと大人な恋人が欲しいの。
そして今、私には、とっても好きな人がいる。
ずっと年上で、きっと片思い。
今年から担任になった、若い先生。
先生から見れば、中学生なんてきっと子供。
自分でも分かってる。
この年の差は絶対に埋まらない。
そもそも、この年の差で何かあったら犯罪扱い確定。
そのくらい分かってるつもり。
片思いくらいなら法律も許してくれるでしょ。
彼の担当は数学。
そこに一番の問題がある。
私は数学が、とっても嫌い。
でも、彼に褒められるためなら、何だって頑張れる。
だって、ほめられたいから。
でも、結局ダメ。
小テストですら良い点数がとれない。
自分でも落ち込むくらい悪い。
そんな私に、気まぐれな神様のありがたいチャンスが来たのです!
先生と二人きり、居残り勉強。
あくまでも勉強だけど、これはこれでアリかな。
放課後に、誰もいない教室で教えてくれる彼は、予想に反して意外と厳しい。
まぁ、先生ですし、成績の悪い生徒には厳しくなるよね、普通。
う~ん・・・でも、なんか違う。
居残りの最後は確認の小テスト。
悩んで頭を抱えている私の後ろから、先生が覗いてきた。
近いちかいチカイchikaiちかーーーい!
振り返った私の顔が、先生の目の前にあった。
あまりにも近くすぎて、恥ずかしすぎる。
私は急いで真っ赤になった顔を隠すために、テストに目線を戻した。
まだドキドキする。
集中集中集中しゅ・・・!
先生?どうしちゃったの?!
先生が突然、後ろから抱きついてきた。
驚く私を無視して、突然真顔で愛の告白!
と、思ったところで目が覚めた。
そうです。
これは夢です。
私の理想です。
乙女の妄想です。
あんな夢を見たせいで、朝からため息が止まらない。
気力をなくし重たくなった足を引きずりながら、やっとの思いで学校へ向かう。
今日は、現実世界でやった数学の小テストが返ってくる。
夢の中のような事は絶対に起こらない。
子供じゃないんだから、そのくらい私だって分かってる。
先生は、学校入り口にいた。
交わした言葉は、よくある何気ないお決まりのモノ。
日常的に簡単な挨拶を交わしただけ。
私は、それだけで嬉しかった。
チョロいな、私って。
さてさて、数学の小テストが私のところへ返ってきた。
予想通り、絶望的に悪い点数。
でも、なんだか赤い字が多い。
よく見れば、チェックと解説がびっしりたくさん書いてあった。
最後には、先生から励ましの言葉が書いてあったのには予想外。
つい顔がニヤけた。
でも、結局のところ、数学の点数は悪い。
先生の期待に応えたい!
もっと勉強して、先生にほめてもらうのが私の目標。
もしも、目標が達成したら、次の目標があるんです。
私、先生のもっとそばにいてもいいですか?
中学の男性教師】
夢だった教師になって、気づけば3年がたった。
あっという間の3年間。
4年目の春、中学校に赴任してやっと担任を任された。
2年生からの担当は、急遽で偶然。
去年まで副担任をしていたクラスの担任が、突然の異動で自分が持ち上がり。
成り行きで、担任を持つことになった。
それでも、初の担任だから、今までとは違う。
自分のクラスという、責任感が違う。
担任としての立場はもちろんだが、自分の担当科目は数学。
数学は、生徒によって大きく成績が変わる。
そのせいか、生徒を見る目も少し変わってしまう。
最近、担任になって、改めて気になる生徒。
実際は前から少し気にはなっていたのだが、極端に成績の悪い女の子がいる。
授業態度はとても良いのに、何故かテストの点が悪い。
自分の教え方が悪いのだろうか。
色々と考えてしまう。
性格的にも頑張り屋で良い子なんだけど。
そんなギャップも含め、色々と気になっている。
ある夜、いかがわしい夢を見た。
自分がその子に、愛を語りかける的な夢だった。
朝目が覚めると、ふいに感じる罪悪感。
さすがに、中学生相手は犯罪だ。
自分には彼女がいないし、あの子の事を気にしていたせいだろう。
気を取り直して、仕事をしよう。
今日はテストの採点をする。
定期的に行っている小テスト。
やはり、あの子の点数はある意味予想通りに悪かった。
解答を見る限り、頑張ってはいるようだった。
結果がついてこないだけか。
あまり個人的にひいきするのは良くないとは思うが、彼女のがんばりに対する一押しは、教師として必要だろう。
そんな事を思いながら、彼女の答案に赤ペンでたくさんのヒントを書きこんだ。
励ましの言葉も添えて。
なんか、赤だらけだな。
翌日、生徒皆に答案を返した。
彼女は、受け取った答案じっくり読んでいる。
顔色が変わって面白い子だ。
これで、少しでも理解してくれれば良いのだが・・・
そんな次のテストでは、少し良くなった。
とは言え、平均点のまだ下だが、成長はしている。
それから、彼女の成績は少しずつ上がっていき、3年の後半には見違えるほどだった。
教師としては、うれしい限りだ。
中学3年の冬、成長した彼女は、卒業する。
なんとか2年、担任を全うした。
彼女のおかげで、やりきった2年間。
今までとは違う、新しいスタートが出来た。
そんな教師生活だった。
はじめて自分の生徒達が卒業する姿を見ていると、目頭が熱くなってくる。
自分の生徒達を見送るというのは、やはり寂しいモノだ。
卒業式終了後、書類整理も一段落。
4月からは新学期。
次の年も、良い生徒に出会えますように。
身支度を終え、学校を後にする。
まぶしいくらいの夕日に照らされた校門の前に一人、誰かが立っている。
どうしたのかと駆け寄ると、あの子が立っていた。
何か忘れ物でもしたのだろうか。
彼女に声をかけた。
唐突に投げかけられた言葉に、ただただ驚いた。
彼女から、告白された。
自分としても、立場や様々な状況もあって、もちろん断った。
それが大人の対応だ。
ただ、自分は卑怯かもしれない。
きっと、自分の中に、彼女に対して想うところがあったのだ。
彼女はまだ若い。
これからたくさんの人間と出会い、僕なんかよりも、もっと立派な男性と恋に落ちるだろう。
何を言っても彼女は諦めなかった。
それが若さだと、思う。
まっすぐ僕を見る彼女に、中途半端な応えはきっとダメだ。
それでも、YESの返事をするわけにはいかない。
彼女のまっすぐな気持ちに出した条件は一つ。
高校を卒業しても、自分のことを忘れられなかったら、もう一度会いにくればいい。
そのときに、改めて君の気持ちを聞かせてもらおう。
きっと3年もたてば、環境や状況で気持ちが変わる。
そう思っていた・・・
大人の3年という月日は、あっという間に過ぎてしまうものだ。
今年も、卒業生を見送る。
そして、彼女が卒業してちょうど3年。
卒業する生徒達を見るたびに、彼女を思い出す。
きっと僕の事なんて、忘れてしまっただろう。
そんな事を考えながら、学校を後にすると、夕日のまぶしい校門に、誰か立っている。
僕は、それが誰なのかすぐに分かった。
成長した彼女が、3年前と同じように校門前で立っていたのだ。
3年前と同じように校門の前にいた彼女は、3年前と変わらない笑顔で、僕を待っていた。
そんな彼女に、僕は笑顔でゆっくりと近づいていった。
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