第7話 全ては事故
女性】
あれは、私が原因だった。
彼を裏切らなければよかっただけの話。
ちょっとした、軽い気持ちだった。
軽い気持ちが、あんな事になるなんて・・・
あの時は思いもしなかった。
私は、大好きな彼がいるのに、浮気をしてしまった。
相手は妻子持ちで、不倫だった。
お互いに相手がいることは分かっていたから、あの1回きりだった。
そのたった1回の後には、お互いそういう関係になることは無かった。
けど、彼への不満を相談して、気づいたら、また同じ事をしてしまった。
後悔したけど、彼への怒りもあったから、罪悪感はそんなに無かった。
この2回目がきっかけで、彼が浮気相手に話をつけると言って出て行った。
色々不安になった。
急いで後をつけてた。
遅かった・・・
目の前にある惨劇。
真っ赤に染まった彼が立っていた。
彼は、ただただ怒りをあらわにした表情を浮かべ、呆然と立っていた。
足下には、見覚えのある顔が横たわっていた。
相手には、まだ意識があるようだ。
私の言葉は、彼には聞こえていない。
結局、私が一番悪い。
一時の迷いで、軽い気持ちで、あんな事をしてしまったのだから。
彼を止める手に、力が入らない。
私は、自分への罪悪感で彼を止めきれなかった。
相手が完全に動かなくなってから、私の存在に彼が気づいた。
真っ赤に染まった彼は、そのまま私を強く抱きしめた。
痛かった。
心も、体も・・・
彼は、私を思いっきり抱きしめて、愛の言葉を叫んだ。
もう、どうしようもなかった。
正論は言いたくない。
でも、彼の気持ちを受け入れる事は出来なかった。
数秒か数分が経過し、私は体に力が入らなくなっていた。
その後のことは何もわからない。
私は何もわからない。
私は、いったい誰を愛していたのだろう。
彼】
今はもう怒りも、何も考える事が出来なくなっていた。
自慢の彼女だった。
たまに喧嘩はするが、性格も肉体的にも相性がいいと思っていた。
でも、思っていたのは俺だけだった。
自慢の彼女が、浮気した。
自分にはこいつしかいないと思っていたのに、なんでこんな事になってしまったのだろう。
浮気をされた事に腹は立った。
でも、自分に落ち度があるのかもしれないと思った。
だから浮気には気づかないフリをして、自分を戒めた。
これからは、今まで以上に彼女を愛していこうと決意した。
この罪は、自分にも責任があると想った。
彼女には、この罪を背負わせる事はさせたくなかった。
1度きりの過ち。
そのくらいだったらよかったのに・・・
また喧嘩して、彼女を泣かせ、困らせた。
後から知った。
彼女は、同じ過ちを繰り返した。
またあいつが、俺の大事な彼女に手を出したと思った。
腹が立った。
どうしようもなく、相手の奴に腹が立った。
そして、自分にも腹が立った。
その後のことは覚えていない。
気づくと、あいつは俺の前で横になり、動かなくなっていた。
俺は、全身真っ赤に染まり、鉄くさい異臭に囲まれていた。
まだだ。
こいつには意識がある。
後悔させてやりたい気持ちでいっぱいになった。
次に気づいた時には、完全に動かなっていた。
そいつが完全に動かなくなった姿を見た時、妙な高揚感があった。
振り返ると彼女がいた。
泣き崩れ、俺にしがみつく彼女がいた。
俺は彼女を取り戻したという気持ちでうれしくなった。
高揚感に身を任せ、彼女を力一杯抱きしめた。
この気持ちを、彼女に伝えなくてはいけない。
俺は精一杯の愛情を叫んだ。
気づくと、俺の体が動かなくなっていた。
俺は何を間違えたのだろう。
全部を理解出来なかった。
唯一うっすらと目に入った彼女は、泣いていたように見えた。
遠のく意識の中、うっすらと彼女の声が聞こえた。
あれはどういう意味だったのだろうか。
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