第2話 近すぎて遠い距離

女の子】


この薄い壁1枚が、彼と私との距離。

近すぎるから、遠く感じる彼と私の距離。

彼と私の関係は、一応兄妹。

再婚同士の連れ子という関係だから、一応なのです。

だから、もともとは赤の他人。

小学校6年生という微妙な年頃なのに、少し歳が離れているとはいえ、知らない男性と一緒に暮らすなんて、最初は本当に嫌だった。

でも、お兄ちゃんは突き放した態度でいる私に、いつも優しくしてくれる。

暗くなって帰りが遅くなった時は私を迎えに来てくれた。

無茶な買い物にも、なんだかんだ言って付き合ってくれる。

たまにふざけすぎて少しだけ怒られる事はあるけど、それでもいつも優しく私のわがままを聞いてくれる。

こんなこと思うのはおかしいかもしれないけど、怒った時のお兄ちゃんは、少しかっこよかった。

今まで一人っ子でいたせいか、もともとお兄ちゃんという存在に憧れていた。

そんなお兄ちゃんを、恥ずかしくて“お兄ちゃん”と、まだ呼んだ事がない。

家族だし当たり前の事だけど、お兄ちゃんを名前で呼んでしまうと、なんだか恋人みたいな気分になって恥ずかしくなる。

恋人なんて絶対なれないけど、もしそうなったらとか考えると、恥ずかしくて頭が爆発しそうになる。

そんな時、きっと顔も真っ赤になってるんだろうな、私。

そんな、もどかしい関係がうれしくて、でも悲しくて、まだ“お兄ちゃん”なんて呼んべない。

でも、兄妹だから、苗字で呼び合うことは出来ない。

しょうがないから、いつも、“ねぇ”とか“あのさ”とかでごまかしてる。

そんなお兄ちゃんを好きになったのは、いつからだろう。

気づいたら、気になっていた。

好きになっていた。

周りのみんなが彼氏?って聞いてくる度に、違うよ兄だよともちろん答えてる。

お兄ちゃんだけど、お兄ちゃんが私の知らない女の人と歩いているところを見ると、胸が切なくなる。

この切ない気持ちを伝えたら、どうなってしまうんだろう。

兄妹だから、やっぱり結婚できないのかな?

結婚・・・そんな妄想して、私って・・・

あーーーーアホだ、私。

お兄ちゃん誰にでも優しいし、かっこいいし・・・

この壁の向こう、隣の部屋には愛しい彼がいると思うだけで、胸がどきどきする。

お兄ちゃんの部屋に入った事はないけど、いつも何をしているんだろう。

すぐそばにいるのに、お兄ちゃんの事なにも知らない。

家族だからいろいろ知ってもいいと思うけど、知りすぎるもこわい。

今日から連休。

暇だし、またお兄ちゃんを連れ回してデートしようかな。

実は、明日から両親がいないのです。

もう少し、大胆になっちゃだめ、かな?

お兄ちゃんと、2人きり・・・

あーーーーーーーーーーーーーーーどうしよう!!

考えただけで恥ずかしくなる。

何でもない!

何でもないはずよ、私!



兄】


俺には少し離れた妹がいる。

妹といっても、昔からではなく最近できた妹だ。

何故か、超を付けていいくらい、かわいい妹。

好みはかたよるが、けっこう強気な性格の妹。

いわゆる美少女とは、こんな娘の事を言うのだろう。

とは言え、俺からすると、今はただの妹だ。

昔から兄弟、特に弟というモノに憧れはあった。

そんな兄弟への憧れを、全力で違うカタチで実現するとは想像出来なかった。

異性の下というのは、予想外だ。

年頃の妹が突然できるなんて、想像をはるかに越えている。

いろいろ気になってしまうのは、男としてどうしようもないといえばそれまでだが・・・

もちろん至って健全な家族生活を送っているし、不謹慎な事は起こっていないし、これからも起きない。

それでも、つい最近まで他人だった女の子が一つ屋根の下にいるわけで・・・

だからという訳じゃないが、気を使わないわけにはいかない。

家族が増える事で、親に変な心配はかけたくない。

兄として、凜とした態度をとらなくてはならない。

と、思う!

まずは、呼び方だ。

急に兄と呼んでもらうのも恥ずかしいが、とりあえず妹は名前で呼ぶことにした。

名前で呼んでいると恋人のような錯覚もあるが、そこは兄として毅然とした態度でいなくてはならないと思う。

と、思う!

友達からは彼女が出来たのかと聞かれ、違う妹だといつも答えている。

しかし、血気盛んな高校生という男女の関係に敏感すぎる年頃男子達は、俺にあらぬ想像をぶつけてくる。

確かに、他人事であれば自分もそうはやし立てていただろう。

実際、そんな事はない。

というか、あってはならないと思う。

マンガや小説のような事が起きれば色々と複雑になって、どんどん人生を踏み外す事は目に見えている。

だがしかし・・・気にしないという事も難しい。

改めていうのもなんだが、妹は可愛い。

家族としてというよりも、異性として可愛いと思う。

でも、今は家族!

それ以外の何者でもない。

という理性を持ち続けないとダメだろ、俺。

兄として、振る舞っていたい自分もいるから、少しのわがままも許して色々な面倒にも付き合っている。

かっこつけすぎかな、俺。

今日から連休が始まる。

そして、こんな自分の考えを無視して、何故か両親は子供を残して旅行に行くらしい。

お互いにいい歳だから、別に生活上は困ることはない。

だがしかし!

男として困る事がたくさんある。

ここは兄として・・・困らないように・・・したい。

あーーーーーーーーーーーーーーーー!

余計な事考えるな自分!

ふがいないな・・・俺。

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