僕の話 第11話

 帰り道、一人自転車を漕ぎながら考える。はて、このまま家に帰ってもやることがないぞ。高校生らしく勉強に精を出そうと考えたけれど、いかんせんやる気が出ない。僕の体のどこを探ってもやる気を出すスイッチはなかった。

 家に帰って、服を着替えて、それから散歩に出る。華の高校生にあるまじき様子が容易に想像でき、肩を落とした。さて考える。本能ばかりではなく、理性を抑える時も必要である。潮風が鼻をくすぐる。それならばと、自転車のハンドルを切った。

 海を見に行くのも悪くない。

 進路を変更し、五分も走ると防砂林ぼうさりんが見えてくる。最後に海を見たのはいつだったか。たしか中学校の行事でウミガメの産卵を見るために行った海が最後だ。思えば、自分から海を見に行くなんて初めてのことだ。もしかしたら、あの時のウミガメに出会えるかもしれない。しかしお互いに相手のことは分からないだろう。僕がウミガメを見分けられないようにきっとウミガメも人間を見分けられない。

 防砂林を抜けるとそこに海が広がっていた。久方ぶりの海は自分の想像より大きく、その雄大さと比較して自分のちっぽけさを痛感する。

 なんてことはまるでない。むしろ見に来たはいいけれど特にやることもなく、どうしたものかと途方にくれてしまった。そもそもどうして僕は海を見に来たんだろう。青春の風を少しでも感じたかったのだろうか。吹き荒れる潮風で肌がベタつく。

 こういう時、アクション映画なら銃撃戦が始まるだろう。SF映画なら宇宙人が襲来してくるだろう。サスペンス映画なら死体が見つかるだろう。青春映画なら僕の隣には可愛い女の子がいただろう。

 しかし、周囲を見渡しても誰も何もない。浜に押し寄せる波の音だけが虚しく耳に響く。とりあえず、海岸沿いに歩いてみるかと見切り発車に歩を進めた。片目に海を見ながら、ゾンビのように目的もなく歩いていた。いや、きっとゾンビにも捕食とかそういった目的があるはずだと考えるとゾンビ以下の自分を嫌悪した。

 少し歩きすぎただろうか。気分に任せて行き過ぎると帰りが辛くなることは少年時代に体験積みだ。帰りのことを考えられるようになった分、あの頃より成長したのだろうか。それとも保守的になっただけだろうか。

 そういえば昔、沙仲さなと二人と探検に出て迷子になったことがあったなと思い出す。僕らは勢いに任せてずんずん進んで、隣の地区で迷子になったんだっけ。思い返す分にはいい思い出だ。しかし、あれから二人きりで遊ばなくなったような気がする。あの時何かあったからだろうか。どうしても思い出せなかった。記憶できることより忘れられることの方が幸せである。記憶よりも先に思い出したのは海尊の言葉だった。

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