僕の話 第10話

「ちょっと話過ぎちゃったわね。私もそろそろ部活に行かないと怒られちゃうわ」

 じゃあね、と沙仲は話すだけ話して走り去っていく。残された僕らは二人ともしばし無言だった。おそらく同じようなことを考えているのだろう。

「小松さんも可愛いですけど、美薗さんも可愛いですね。鼻が高かったですけど、外国の血が入っているんでしょうか」

 確かに日本人離れした顔をしていた気もする。そうだなと、僕は頷いた。

「もしかして、発馬も狙っているんですか」

 ずるいですよ、二股ですよ、と雄索がののしる。一人は美薗さんだとするともう一人は沙仲だろうか。

「僕と沙仲は別に付き合っているわけじゃないぞ」

 このやり取りも何度目だろうか。この件に関して雄索は一向に取り合ってくれない。

「既に一本手中に入れているのに、もう一本の高嶺の花にも手を出そうなんて業腹ごうはらですよ。それぞれ別の山に生えているんですから一旦下ってから上り直してください」

 雄索にエンジンが掛かり始める。彼の進行方向を逸らす必要がある。

「しかし、一夫多妻制を取っている国についてはどうなんだ。その主張は当てはまらないんじゃないか」

 ふうむ、雄索が減速した。しかし、この程度で止まる彼ではない。そもそも、と言葉を繋ぐ。

「そもそも一夫多妻って戦争や狩猟で夫を失った女性の福祉制度の一種ですよね。飽食の国、日本では関係ありませんよ」

 雄索が思いのほか博識なことに驚く。矛先を変えることはできなかったようだ。

「それに一夫多妻や一妻多夫を認めたら余りものがでるじゃないですか。そういうのは良くないですよ。余りものの気持ちは痛いほど分かりますから」

 過去に何かあったのか、雄索のトーンが下がる。しかし、弱った所に畳みかけるのは戦の定法、今度は僕が言う。

「どうやら沙仲の話を聞く限り、男子を毛嫌いしているようだし、この話し合いも無駄じゃないか」

 取らぬ狸の皮算用と言うべきか、これほど無駄な議論もないと。

「それを言ったらおしまいですよ」雄索は笑った。

 それが終戦の合図だった。下校時刻から一時間後、僕らはようやく各々の帰路に着いた。

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