破滅
「アクション映画における1対1の殴り合いは、見る者にとっては本質的な部分でダンスに似ている。同じように、カーチェイスのシーンなどは、腹の底でサーカスの曲芸を見ているような心地を味わう。では、SF映画における人類の破滅とは一体、見る者にとっての何にあたり、そして心に何を訴えるものであるのか」
――(或る作家の手記より)
まるで樹液に群がる虫たちのように、姿形や大きさのまるで違う「元」人間たちが配給された少ない食料を奪い合っていた。
隙間を作ることは罪だとでも言わんばかりに、かつて手や足だった部位、はたまたそれ以外の長くて硬くて醜悪なものを前の空間へと捻り込み、多少体が抉れようとも気にもせず、ただ貪欲に食料にありつこうとしている。そこにはかつて人間を人間足らしめていた理性などほんの一欠片も残っていない。
少し離れた場所からその様子を強化ガラス越しに眺めていた「現」人間たちは、飛び散る体液に顔を顰めつつ、その無知の塊どもを、哀れみの眼差しで、しかし瞳の奥底に嗜虐的な高揚を鈍く輝かせて、薄笑いとも、泣き顔ともとれる不思議な表情で、口をヒクヒクと動かしていた。
夕方、タイムセールの開催を告げるアナウンスが響くのを今か今かと待ち望んでいた者たちが、アナウンスの前に一瞬鳴るピゴッという音と同時に走り出した。
狙いは普段ならば手を伸ばすのに躊躇する衣服や化粧品、バッグといったもの。
自分が目的としている品を誰よりも早く手にする為に、肩を押し、スカートを掴み、髪の毛を引っ張り、ウゴウゴと手を伸ばす。
ドギツい香水や化粧の臭いが弾けたように辺りに振りまかれ、甲高い怒声がそこかしこから噴出する。
誰もが物凄い形相をしていている。家を出たときには持ち合わせていた筈の恥じらいや常識といったものをどこかに置きざりにして、ギャーギャーとやっている。
それを遠巻きに眺めている者からすれば、どこか滑稽で、目をそらしてはいけない禁忌の魅力みたいなものが、そこにはあった。
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