VR探偵

「警部、探偵の方をお連れしました」

「うむ、ご苦労」

 そう言って新海警部は笹垣巡査部長の方を見た。

 彼女に褒められてから笹垣は黒縁の伊達メガネをするようになっていたのだが、今日は水色の縁の眼鏡をかけている。それはそうと、笹垣が指し示している隣の場所には誰も見当たらなかった。


 新海は、ははあんなるほどといった様子で、笹垣に言った。

「なるほど、またによってというわけか? いや流石にもう驚かないぞ」

 そう言われた笹垣は、何を言っているんだ? と馬鹿にした顔でこう話した。

「いえ、警部にも見える探偵ですよ。あと、うまいこと言ったみたいな感じを出してますけど、寒いですよ」

 新海のちょっとしたジョークを切り捨てると、笹垣は自らのつけているものと同じような水色の淵の眼鏡を取り出し、新海に渡してきた。そして促されるままにその眼鏡をかけると新海の目の前に黒いスーツを着た老紳士が現れた。


 急に人が現れたことに驚いた新海に笹垣が説明を始めた。

「彼は国主導の元、多数の研究機関で共同開発された超高性能AI、ジョーです。一応、協会の方から認可を受けています」


 笹垣からそう紹介を受けた老紳士は折り目正しくお辞儀をしてから、自己紹介を始めた。

「私は人工知能のジョーです。今回は事件捜査をすると聞いています。よろしくお願いします」

 新海はその見た目とは裏腹にそっけない挨拶にやや面食らいながら、ジョーに話しかけた。

「ああ、初めまして、私は今回の事件捜査を統括します新海と言います。よろしくお願いします。見るだけでなくて音声もちゃんと聞こえるんですね。この眼鏡はすごいですね。最近よく聞くVRってやつですか?」

「そうですね、あなたのつけているこのスマートレンズは最新の技術を駆使した新しいデバイスです。音声が聞こえるのはそのスマートレンズから脳の聴覚を司る部分に直接情報を送り届けているので、それを着けている人間以外には聞こえないので安心してください。また、事件の記録はスマートレンズを通して行われるので、捜査中に極力外さないにお願いします。」

 そこまで言うと、ジョーはため息をついてから、話を続けた。

「あと、これはVR仮想現実というよりはAR拡張現実です。まあそこまで間違えているわけでもないですが、分かりやすさのために正確でないことを言うのは如何なものかと。まあ、どうせ、私のことがもし紹介されることがあればVR探偵なんて言われるんでしょう? 私はAIなのに。それに名前がジョーで、見た目が老紳士ってどういうことなんでしょうね。まあ初期の案にあったようなイルカよりはましだと思うのですが……」

 

 そんな風によく喋るやたら人間くさいジョーを見て、ああ、こいつも苦労をしているんだなと妙にシンパシーを新海は感じずにはいられなかった。


 *****


 事件が起こったのは四月二十一日の夜のことだ。槙野友則まきのとものりが自宅に数人の友人を招いてパーティを開いていた。それからしばらくして、槙野が少し席を外したあと、招かれた友人同士で話をしていると、何者かの悲鳴が聞こえ、何かが落ちるような音がした。その音を聞いた友人たちは、何人かで外の様子を見に行った。そして、外の庭で見つかったのは、落下の衝撃で首が折れ、即死したであろう槙野友則の死体だった。


 槙野の家を調べた結果、現場の散らかった様子からおそらく三階の上の屋上から落ちたのだろうという結論に至った。友人たちは三階部分にある広いリビングスペースで遊んでいて、槙野が落下したとき、その友人たちのほとんどが最初の悲鳴は上の方から聞こえた、と言ったことも理由の一つではある。

 槙野の家は三階建てのコンクリート打ちっぱなしの住宅で、上から見ると長方形の形をしている。槙野は建築関係の仕事をしており、この家も自身で設計したものらしい。三階の上には洗濯物などが干せる屋上スペースがあり、大体腰辺りの高さくらいの柵が落下防止のために全周に設置されている。それで槙野は落下したのだから、やはり高さが足りないのだろう、と新海は思った。


「当日の流れを説明してもらってもいいですか」

「ええ、昨日は槙野の家でパーティをするというので十八時ごろに集まるように言われていました。私は三十分ほど早く槙野の家に着いていたので中に入って彼と話しをしていたのですが。他の人は時間通りに来ていました」

 新海の質問に、槙野の友人の一人である鴻巣こうのすはそう答えた。鴻巣は高身長で筋肉質な身体をした男で、まだ少し肌寒いこの季節に半袖のシャツを着用していた。

「その友人たちについてもう一度伺ってもいいですか?」

「いいですとも。昨日槙野のパーティに呼ばれたのは大学時代のサークルで仲良くしていた五人で、入江いりえ岸波きしなみ白石しらいし千川ちかわ、そして私です。これに槙野を合わせて六人で遊ぶ予定でした」

  槙野が屋上から落下したことと、その友人たちは全員三階のリビングにいて、さらに三階に行く人物を見なかったことから、現在、槙野の落下死が事故の可能性が高いとみて捜査を続けている。今行っているのも念のための事情聴取といったところか。

 AIのジョーは、どこか退屈そうにしながら部屋の隅の方で話を聞いている。

「パーティの進行はどうでしたか?」

「ええ、十八時頃に皆が集まってから、さっそく三階のリビングの方で事前に注文していたピザを食べたりしながら、酒を呑んでいました。そうしてから一時間ほど経ってからですかね、槙野がみんなに見せたいものがある、と言って階段の方向へと行きました。それから大体二十分ほどしてからですかね、大きな悲鳴が聞こえたのは。その間五人とも途中席を外したりすることはありませんでした」

「落下音が聞こえてからはどうしました?」

「みんなで槙野を探そうという事になりまして、私と岸波が下に降りてから外に、千川と白石が屋上の方へ、入江が念のためリビングに待機してもらっていました」

 そう言うと、鴻池は一息ついてから続けた。

「下に降りて、庭の方に出ると、私はすぐに人が倒れていることに気付きました。慌てて駆け寄り、それが槙野であることを確認したとき、岸波も気が付いたのか私の方に寄ってきました。槙野は呼びかけても返事がなく、救急車を呼びました。その後、岸波の助言で、警察も呼ぶことになりました。その間、特に不審なことはありませんでした」

 前に岸波に事情聴取で聞いた話と矛盾はないな、新海はそう思った。

 その後も話を聞いたが、めぼしい情報は得られなった。他の人間に聞いてみよう、そう思いながら新海は鴻池の方に礼を言ってから、別れようとすると鴻池から話しかけてきた。

「刑事さん、その眼鏡、もしかしてスマートレンズではないですか?」

「ええ、そうですが。よくわかりましたね」

「そこの刑事さんも同じものを付けていたのと、仕事柄そういう情報をよく集めているので。あ、特に何かあるわけではないのですが気になったので」

 そういえば鴻池の仕事はゲーム開発だったなと思い出し、その場を後にした。


 次に、新海たちは槙野と同じ会社にも務めているパーティに呼ばれた友人の一人、入江に話を聞いた。入江は日焼けした肌がよく似合うスポーツマンといった感じだった。

 話を聞いたが、パーティの進行などについては他の人と同じだった。

「槙野さんの死体が発見されたとき、リビングに一人でいたと言いましたが、何か不審なことはありませんでしたか?」

「いいえ、特には。あの建物は防音がしっかりとしているので、槙野があげた悲鳴の後は特に何も聞こえませんでしたし、変なものも見ていないですね」

「入江さんはその悲鳴は槙野さんがあげたものだと考えているわけですね?」

「ええ、声が槙野のものでしたし、他に誰かが悲鳴をあげる理由が思い浮かばないですね」

「そうですか。では、槙野さんについて聞きたいのですが、槙野さんに何か恨みがあった、という人物に心当たりはありませんか?」

「心当たりはかなりいますね。鴻巣、岸波、白石辺りなんかは槙野とよくトラブルになっていたと思いますね。たまに、取っ組み合いのけんかになることもありましたよ」

 誰だ、仲が良い人間が集まったとか言った奴は、そう思いながら新海は眉根を寄せた。この入江という男とももしかしたら槙野は何かトラブルを起こしているかもしれない。仮に殺人だった場合でも動機の線であの五人から絞ることは難しいだろう、と新海は思った。


 千川は華奢な女性で、長く伸ばした黒い髪を後ろでポニーテールにしてまとめている。顔立ちは整っており、目が大きい。金融の仕事をしているという彼女は新海たちの質問によく答えてくれた。

「槙野さんの死体を発見したときのことなのですが、何か不審なことはありませんでしたか?」

「ええと、白石と屋上に行ったのだけれど、ノートパソコンが起動していました。それと……」

「どうしました? ちょっとしたことでも言ってもらえると助かります」

 千川は意思が強そうな眼を伏せて、新海たちにこう告げた。

「ええと、ちょっとした音が下の方から聞こえてきて、こう、カサッていう草に何か放り込まれたような音がしたような気がして」

 その千川の発言に今まで他の人の話を適当に聞いていたジョーが、ほう、と言って少しだけこちらの方に興味を示した。

「分かりました。ありがとうございます。あと、千川さんその、ついていたノートパソコンについて話を聞きたいのですが」

「はい、なんだかゲームの画面みたいな感じでした。その、一人称視点で建物の中を探索するといった感じの」

「そうですか、ありがとうございます。他に何かありますか?」

「いいえ、特に、今のところは」

 

 千川からは大体の話を聞いてから、礼を告げて別れようとしたとき、ジョーが近づいてきて、新海の耳元に口を寄せてこう言った。

「警部さん、これは殺人事件かもしれません」


「笹垣、死体の状況について教えてくれ」

 新海たちは槙野の身体が落下した地点に立っていた。勿論、調査の方はすでに終わっている。

「はい、警部。槙野は頭から落ちており、地面と衝突した衝撃で、首の骨が折れ、即死だったそうです。また、直前まで頭部に何かつけていたのか、髪が不自然に段になっているところがあり、また、目元の部分が若干陥没していました。しかし、該当する物体は現場付近にはありませんでした。他には、争い合った痕跡などはなく、また、外傷もありませんでした」

 ここは土に覆われており、三階程度なら頭から落ちてしまわなければもしかすると助かっていたかもしれない、そう新海は思った。

「その頭に何かつけていたってものは分かったのか?」

「いいえ。何かバンドのようなものを目の部分から後ろまでぐるっと囲むようなものなんですが、まだ見つかってないですね。そうそう、私の家で使っているテンピュールのアイマスクと同じ感じですね。あれを使うようになってから、夜もぐっすり眠れるようになりました。警部も使ってみてはいかがですか?」

「話を脱線させるんじゃない。ジョーは何か気づいたことはあったか?」

 そう新海はジョーに話を振る。この人工知能、今のところ何か独自に調査したりだとか、ARっぽいことをやってみたりだとか、一切そのようなことをまだしていない。このままだと空気も同然で、どうにか話を引き出そうと新海は気を使ったのだ。

「いえ、特には」

 なんか話せよ、と新海は思った。


 しばらく現場の方を検証してから、新海たちは事件当時屋上で起動していたパソコンを確認していた。

 起動していたソフトだと言われたものを見てみると、槙野の住んでいる家の3Dモデルだった。このモデル、驚くことに一人称視点で見て回ることが出来るようである。新海がそのソフトを触っているのをジョーは横から見て、へえ、なるほど、と呟いた。そして、改まった姿勢になると、ジョーは急にやる気が出た様子でこういった。

「警部さん、事件の真相が大体わかりました。あとはもう少し確認することがあるので、その後に説明をしたいと思います。では」

 そう言うとジョーは唐突に視界から消えた。


 *****


「刑事さん、事件の真相がわかったって本当ですか?」

 そう鴻池は新海に尋ねてきた。心なしかそわそわしているように見える。事件当日の関係者五人を、槙野友則が死亡した事件について真相がわかったとして新海が集めたものの、新海も真相についてはジョーに聞いていないので答えられなかった。これ以上訊かれても困るので、新海は全員が集まったことを確認してから、ごまかすようにこう言った。

「全員集まったようですね。では、笹垣君、皆さんに例のものを配ってください」

「はいかしこまりました」

 新海の指示の従って笹垣はスマートレンズに似た、縁が紫色のものを取り出した。

「皆さん、これはスマートレンズの廉価版として開発されたものです。まあ、掛けてみればわかるでしょう」

 関係者全員がそのスマートレンズを身に着けたことを確認すると、新海はこう言った。

「では紹介しましょう! 今回の探偵、人工知能のジョーです!」


 ジョーの姿を初めて見た五人は唐突に現れた老紳士に戸惑っていた。そんな彼らに対しジョーは平然とした様子でお辞儀をしてから、話し始めた。

「皆さん初めまして。まあ私からすれば初めましてではないのですが。今回の事件の探偵、人工知能のジョーです。今回の事件の真相をという事で皆さんをここにいる新海警部に呼んでもらいました」

「事件の真相って、事故じゃないんですか?」

 そう不安そうに、岸波がジョーに言った。両手を自分のその華奢な身体を抱え込むようにしている。

「ああ、そうですね。後々の為に宣言しておきましょう。これはです」

 ジョーのその発言に、一同はまた驚いた。

 

 しばらくして、入江が口を開いて、皆が思っているであろうことを口にした。

「殺人事件って……確か事件があった時、槙野のそばには誰もいなかった筈では……?」

「ええ、そうですね。確かに皆さんの証言から、槙野友則さんが落下した時、彼の近くには誰もいなかったことは間違いないと思われます。しかし、近寄らなくとも人は殺せます。爆殺、銃殺、毒殺、呪殺……まだ挙げますか? とにかく、皆さんもその程度のことならお分かりいただけるでしょう」

 

 そこまで言うと、ジョーは皆を威圧するように見渡した。温和そうな見た目や話し方とは裏腹に人を馬鹿にした態度がにじみ出ている。おそらく自己学習の時点で何かしら問題があったに違いない、と新海は思った。

「さて、まず、なぜ槙野さんが落下したのかを考えてみましょう。事象には必ず原因がある。そう誰かも言った筈です。ならば、我々はなぜ槙野さんがあの十分な高さがあるとは言えない柵を超えて落ちてしまったのかを考えることは事件の真相を知るに当たって、良い方針と言えるでしょう」

 ジョーは急に演説家のような語りを一度止めて、間をおいてからまた話した。

「唐突ですが、人間が何かに躓いて転ぶ時、どういった原因が考えられるでしょう。スピードの出しすぎ? 足元を見ていなかった? 誰かに押された? 他にもいろいろと考えることが出来るでしょう。私は、彼が躓いた原因は彼が足元を見ることが出来なかったものと考えます」

 そこでジョーは一呼吸おいて続けた。関係者はみな黙ってジョーの話を聞いている。

「槙野さんの死体を調べ、髪が不自然な段になっていたり目元の骨が陥没していたようです。このことから落下時、何かバンド状のものを頭に着けていたものと推測されます。その着けていたもので槙野さんは足元が見えなかったとしても、不自然ではないでしょう」

「つまり、被害者は危ないと分かっている屋上で自らに目隠しをしたという事か」

 どういうことだ、と思い新海は尋ねた。

「当たらずとも遠からず、というところですね。では、皆さん、思い出していただきましょう。槙野さんが屋上へと上がる前に、皆さんに何を言ったかを。確か『』そう言っていたのではないですか? では、彼はいったい何を見せようとしたのでしょうか? わざわざ屋上で目隠しのようなものをして。では、その謎を解くために別の方向から考えてみましょう」

 

「次に、屋上で起動していたノートパソコンについて考えましょう」

 ジョーは数学の問題を理路整然と解く教師のように皆が理解していることを確認しながら、次へと話を進めた。

「ノートパソコンで起動していたソフトは、槙野さんの住んでいた、そうです、事件のあった建物の3Dモデルでした。このソフトはすごいことに、中を視点で見て回ることが出来ました。さらに、このソフトはでした。建物の内部で恐ろしいバケモノから逃げながら、ゲームクリアの為のアイテムを探す、というものです」

 またジョーは一呼吸おいて関係者たちを見まわした。

「では、槙野さんは頭に何かバンドのようなものを巻いて、さらに自らの住む家を舞台にしたゲームを起動して、いったい何をしようとしていたのか、もうお分かりであると思います。まだお分かりでない方がいるのなら、最大のヒントが目の前で、こうして喋っていると申し上げましょう」

 

 ジョーは口元を性格が悪そうに歪めながら、その場にいる人々に、こう宣言した。

「そうです。槙野友則さんは、に、VRを見せようとしたのです」


「槙野さんが頭に着けていた機器はVR機器の中でも、ワイヤレスのもので、これは開発されたばかりで、一般人の槙野さんには手に入りにくいものでしょう。そうですよね、鴻池さん?」

「あ、ああ、そうだな」

「VRは普通、着けると周りのものが見えなくなり、別の世界が広がったように感じます。そのことから、仮想現実Virtual Realityと呼ばれます。また、現実の像に虚像を重ねて、現実のものと仮想のものが同時に見えるものを拡張現実Augmented Realityと言います。では、なぜわざわざVR機器を槙野さんは屋上で装着したのでしょうか? また疑問が生まれます。そのことに対して、一つ仮説を考えることが出来ます。VRAR? と」

 そこで、ジョーが止めると、入江がジョーへこう言った。

「流石に槙野もVRとARが違うことくらいは知っていた筈だ。そんな勘違いは起こらない」

「そうでしょう。でも、そのソフトを作った人間に『AR』と説明されたならどうでしょう? さらに、実際にやってみてVRとARの区別がつかないものだったとしたら? 槙野さんはワイヤレスVR機器の見た目はあまりよく知らなくても不思議ではないでしょうし、犯人に騙されてしまったと考えるても不自然ではありません」

 ジョーがそう話しているのを横にほとんどの人間の視線が鴻池へと向かっていた。鴻池は、先ほどから汗が止まらないのかハンカチでしきりに額を拭いている。どう考えても彼が犯人だろう、と新海でも思った。しかし、まだどう殺されたか、それが分かっていない。AIのくせにやたらと人間くさい探偵の解説をまだ聞くべきだろう。

「槙野さんがVRをARと勘違いをしたとしますと、彼を殺害することは非常に簡単です。3Dのです。そうするだけで、槙野さんは下への階段がある方向に歩いていると思いながら、全く別の――低い柵の方へと歩いて、その結果、転落したのです。実際、ソフトを確認していましたら、方角が九十度ずれていました」

 

 ジョーはそこまで話すと、急にやる気を失ったように話し始めた。

「事件で起きたことの説明はこの程度でいいと思います。次は犯人の指摘ですか。ああ、めんどくさい。事前に槙野さんのところにソフトとワイヤレスのVR機器を持ち込むことが出来、槙野さんがその人物の説明に信頼を置いていて、さらに落ちた槙野さんに近寄り、落下後も装着しているであっただろうVR機器を回収出来た人物。もうわかりましたね? 犯人は鴻池さんです」

 投げやりなジョーに指摘された鴻池は膝から崩れ落ちた。


 *****

 鴻池の動機は言ってみれば、怨恨で、それを語るだけで一つの小説になりそうなものだった。

 鴻池の大きな失敗は屋上にノートパソコンを放置したことだった。想定以上に他の四人の監視の目を潜り抜けることが出来なかったのだそうだ。わざわざ人殺すためにゲームを一つ作るまでしたのに、情けない話だ、と新海は思った。


「新海警部、今回の事件はお疲れさまでした」

「いやいや、君が居て助かった。ありがとう」

「そうですか、では、またどこかで会えるといいですね」

 新海はこの人間くさいAIが嫌いではない、むしろ好ましく思っていたので、ああ、と肯定を返して別れを告げると、ジョーの姿は消えた。


 今回の事件捜査はそう悪いものではなかったと思いながら、新海はふと思った。

 なんだかいつもと違うような……?



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