幕間 搦め手門の別離
まだ成人の儀の最中で、琉心は誰にも見咎められることなく搦め手門まで辿り着くことができた。
門には衛兵が一人。
「……あぁ、当番を確認しておくんだった」
「なにが確認だ。その上でここに来たくせに」
伯雷は相変わらずの険しい顔つきだ。へらりと笑う琉心に、表情を変えない。
「というか旦那。朱麗様付きの護衛じゃなかったんですかい?」
「……書類上はな! この国は平和なんだ。俺は基本的には朱麗様に付くことになっているが、その……。先輩方には逆らえなくてな……」
「ははっ! 旦那、下っ端でしたかい」
「下っ端と言うな!」
おかしそうに笑う琉心に、伯雷は呆れたように大きくため息をついた。
「比陽なら止めるだろうが、俺は止めねぇ。どの道このままじゃあ辛い結果になる。姫様も、お前も」
「おや、俺のことも心配してくれるんですかい?」
「米粒一粒くらいはな!」
からかう琉心に、眉間の皺を深める伯雷。
琉心のことが気に食わないのは事実だ。どう考えても朱麗とつりあわない。
だけど朱麗が琉心に心を許しているのは、傍から見ていて分かる。
ずっと仕えてきたのだ。玻璃姫と呼ばれた朱麗の心が溶けていくのが分かった。初めてだったのだ。あんなに柔らかく笑う朱麗を見たのは。
三線のかすかな音が聞こえる。二人は城を振り返った。
成人の儀も終盤なのだろう。朱麗の三線のお披露目だ。
音は途切れることなく聞こえてくる。琉心は知らず知らずのうちに、頬が緩んでしまう。
「……聞いてから、行けばいいのに」
「大丈夫。どこにいたって聞こえてますよ」
伯雷はふんと鼻を鳴らす。琉心は懐から手紙を取り出した。
「落ち着いたら、お
「変なことは書いてないよな?」
「検分しても構いませんよ」
伯雷はまたふんと鼻を鳴らし、奪うように手紙を受け取った。そして懐に仕舞う。
琉心は伯雷の横をすり抜け歩き出した。
「琉心!」
呼びかけに振り返った。同時になにかが飛んできて、慌てて受け取る。
「餞別だ。城の食いモンはもう食えないだろうからな」
饅頭だった。任務の合い間、腹が減ったら食べようと思っていたのだろう。
琉心はふっと笑い、饅頭を懐に仕舞った。
「達者でな」
「あぁ。旦那も!」
小さくなっていく影を、伯雷はいつまでも見送っていた。
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