出せなかったラブレター
平行線は、いつまでたっても平行線のままだ。
私には、夢にまで見るほど好きな人がいる。
「よっ」
朝。窓際一番後ろの席に座り、グラウンドを見下ろしていた私の頭の上からそんな声がした。
「……はよ」
それに不機嫌な声で応える。
「なんだよ、んな不機嫌そうな顔して」
そう言って前の席に座る、親友で悪友で……そして片想いの相手でもある男子。
「別に。ちょっと寝不足なだけ」
「マジで? お前最近ずっとだよな」
誰のせいだと思ってるんだ。
そんなことは口が裂けても言えないから、「まあね」とだけ言って再び目線を戻す。
「今日はいい天気だよな」
「……だね」
冬のこの時期には珍しい、春みたいに暖かい陽気。
いつもは灰色の空も今日はキレイな水色をしている。
最初は本当に親友だと思っていた。キミを好きになるつもりは全くなかったんだよ。
それが変わってしまったのは、席替えをしてキミの隣が彼女になってからだ。
偶然か私達はいつも席が近くて、ずっと消しゴムを貸し合ったり問題の答えを教え合ったりしていた。でも……それはあの日から私ではなく、彼女の役割になった。
あの場所は、私のものだったはずなのに。
そうして自分の気持ちを自覚して、今の親友というポジションが辛くて……悩みすぎた結果が、寝不足だ。
まあ今日のは違うんだけど。
私はチラッと鞄に目をやる。その中には、四時まで掛かって書いた手紙がある。
まさか、自分がラブレターを書く日が来るなんて。
考えるだけで顔が熱くなってきて、寝たフリをするため机に突っ伏した。
放課後、私は誰もいない教室に残り、彼の机に手紙を入れる……はずだった。
でも実際には、私の前にはキミがいる。
「こ、こんなとこで何やってるの? 部活は?」
「今日は休みなんだよ」
「へえ……」
じゃあどうして残ってるのかは、訊けなかった。ううん、聴くのが怖かった。
いつにも増してそわそわと落ち着かない様子のキミ。いつもと違う雰囲気。
だてに長い間、友達をやっていない。
それで解ってしまった自分が、嫌だ。
「そっか、告白するんだ。相手は……隣の席のあのコ?」
「まあ、な」
ハニカミながらそう言うキミの顔を、まともに見れない。
「……じゃあ、私はお邪魔だね。帰るよ。…………頑張って、応援してる」
「サンキュ。結果は、必ず最初にお前に言う。親友だもんな」
“親友”
その一言が、どれだけ深く心を抉るか解っている?
「…………フラれたら、優~しく慰めてあげるから」
そう言って笑い飛ばす以外、私に何が出来ただろう?
そんな日は、絶対来ないのに。
だってあのコも、キミのことが好きだから。
廊下ですれ違った彼女に向かって、小さく、聞こえない声で言う。
「あいつを、よろしくね……」
人の気配のない渡り廊下に着くと、そのまま座り込んだ。
ずっと握っていた手を開く。
ぐしゃぐしゃになった、名前の書かれていない手紙。
行き場のない、出せなかったラブレターを私は思い切り破り捨て、空を見上げながら泣いた。
悔しいくらい清々しい青空。
そこに二つの飛行機雲が、並んで伸びていく。それはまるで私とキミの関係みたいだ。
平行線はどんなに頑張っても交わることはないから。
恋人にはなれなくても、親友としては側にいられるなら。
「バイバイ……私の恋」
明日からは、また親友に戻ってみせるから。だから今だけは……。
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