涙のあとに



「……冷たい」

 小さく呟いた声は、雨音に消されていく。

 土砂降りの中傘も差さず、かといって急ぐ素振りもなく歩いている私は、端からはどんな風に映っているのだろう?

 けど、そんな事気にしている余裕なんてない。

 このままこの雨が、この想いと涙を流してくれればいいのに……。



 今日、私は四年越しの片想いに終止符を打った。

 相手は一つ上の先輩で、とても優しくて人気があった。

 結果は見事玉砕。

 解ってはいたんだ。先輩にはずっと好きな人がいて……その人も実は先輩が好きで……私が入る隙間なんてないって。中学の時から見ていたから分かる。

 それでも、伝えたかったんだ。

 私が告白したら、すごく驚いていたよね。そして私が好きな人を指摘したらもっと驚いて焦っていたっけ。

 でも大丈夫。あの人は……お姉ちゃんは鈍感だから気付いていない。

「良かったね……二人とも」

 ありがとうって言って笑い掛けてもらえただけで充分。なのに……。


 涙が溢れて止まらない。


「本当に、好きだったのにな……」

 この呟きも、雨に融けていくはずだった。

 けれど。


「そこにいるのって……」

 聞こえてきた声は、よく知っている人物。

 同じクラスで、顔を合わせると何かと言い争ってしまう……犬猿の仲の男子。

 良くいえばケンカ友達ともいえるけど、相性が悪いんだと思う。

 普段ならこんな姿は見せないけど、今は取り繕う気力もなくて私はゆっくり振り向いた。

「やっぱり。どうしたんだよ、傘も差さな………」

 驚いた表情で私を見る。

「お前、泣いて……?」

 いくら雨で濡れていてもバレるらしい。

「失恋したの。笑えば?」

 訊かれる前に答え、顔を背けた。

「……笑わねーよ」

 その言葉が耳に届くと同時に、私は彼に抱き締められていた。

 ……何、これ?

 思考が追い付かない。

「笑うわけねーよ。お前が泣き顔見られたくないって言うなら、こうしてれば見えないから……思い切り泣けよ」

 不意打ちだ。ズルすぎる。そんな事言われたら、涙が……。


 そうして私は、気の済むまで泣いたんだ。





 五ヵ月後、彼と私は何でも話せる親友になる。






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