卒業写真
吹いてくる風がどこか秋を感じさせる日曜日の午後。私は一人、部屋の掃除をしていた。
「? この奥になにか…」
押し入れの中身を整理するため手を伸ばしてみると、それ……小さめの箱はあった。
「私、何入れたっけ?」
全く何が入っているのか記憶にない。ということは少なくとも最近の物じゃないはず。
作業する手を止め、箱の中身を取り出した。
「……これ……」
中身は、懐かしさで切なくなる、そして未だに消化出来ていない想いの原点……中学の卒業アルバムだった。
「懐かしい……」
本当はそんな言葉では片付けれないけど、それしか今の感情を現せなかった。
ゆっくりページを捲り、当時に思いを馳せていく。そして……
一つの写真のあるページで手が止まった。
写真に写っているのは、私と一人の男子生徒。私が当時好きだった人だった。
そこに写っている二人はとても笑顔で、それが胸を締めつける。
この笑顔がもう見れないなんて、この時は誰が想像出来ただろ?
浮かんできた涙を拭いページを進め、最終ページの寄せ書きページを見て私は再び手を止め、息を飲んだ。
「ど……うして」
そこに書かれていた文字が信じられない。
――お前の事がずっと好きだった――
実を言うと、卒業式から今日まで一度もアルバムを開いたことがなかった。
だからまるで中学時代、過去の彼が未来の私に言ってくれているようで、私の視界は完全に歪んだ。
もう、いい。彼も私と同じ気持ちだったと判っただけで充分。
一週間後、私は住み慣れたこの地を旅立つ。
その時、彼からも卒業する……。
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