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「本当に、付き合っていたらどうしよう」

 バリバリのキャリアウーマンが打ちひしがれて泣いている。見た目こそ強い女性のように見えるが、蘭子さんは浩太郎さんのこととなると繊細な女性に変わるのだ。それ以外は本当にいろいろ強い女性だけど。

「なら訊いてみましょうか」

「え」

「付き合ってるの? って」

 繊細が故に身動きが出来なくなって苦しくなることがある。それを救えるのは第三者しかいない。

「出来たら苦労しないわよ」

「私が聞いてあげましょうか」

「浩太郎の連絡先知ってるの」

「まさか。蘭子さんのだって知らないのに」

「なっ」

「だから蘭子さんの携帯から私がお尋ねして差し上げましょう」

 にっこりと微笑んだはずだが、蘭子さんは見たこともない怯えたような顔でブンブンと首を振った。

「いい。大丈夫」

「おや、遠慮なんてしなくていいんですよ?」

「やだ。変な奴って思われたくないもの」

 確かに。知りもしないバーテンから急に『彼女出来ました?』なんて問われても蘭子さんの悪ふざけにしか見えないだろう。いや、浩太郎さんなら真に受ける可能性もあるが。

「じ、自分で訊く」

 よしっ。

「では景気付けに何か作りましょうか」

「じゃぁ、サイドカーがいい」

「かしこまりました」

 蘭子さんの好きなやつ。腕によりをかけて作りましょう。

 この一杯が彼女の背中を押す一杯になるのなら。喜んで。

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