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「どうぞ」

 ミネラルウォーターをグラスに注いで前に出す。蘭子さんはじとっと俺を睨んでからそれを口に運んだ。

「ずいぶん飲まれたようでしたけど、まだ落ち着きませんか」

 ちょっと言い方が意地悪だったか。

「何言ってんのよ。全然酔ってないし」

 嘘つけ。ずっときつい酒ばっか飲んでるくせに。

「それに落ち着いてなんかいられないでしょ。浩太郎に彼女が出来たかもしれないんだから」

 赤いネイルが水滴を指で伸ばした。

「本当に彼女なんですかね」

「彼女に決まってるわ。だって今日は休日よ? 会社だって休みだし、何のために二人で歩いてたって言うのよ」

 蘭子さんが言うには今日の夕方、自店で打ち合わせを終えた後、店を後にしようと外に出ると丁度道を挟んだ向こう側にその二人を見つけたんだそう。若い女性の顔は浩太郎さんから以前に見せてもらっていたらしく、一目で分かったそう。何を話していたのか聞こえなかったが、二人は笑顔で両手にスーパーの袋を下げていたんだと。

「もしかして」

 あ、やめよ。何でも思いついたことを口にするのは良くない。

 言いかけて止めるとまた睨まれた。

「なによ。もしかして同棲かもって?」

 ビンゴ。

 一応ポーカーフェイスで返すも、蘭子さんはゴトンッと音を立てて机に額を落とした。

「私も、そうかなって思った。違うとは思うけど・・・」

 まぁ出会ってからそんなに日は経っていないから同棲ってのは飛び過ぎかもしれないけど、どっちかの家で食事とかお泊り、とかはあり得る。スーパーで買い物もしてるわけだし。

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