第17話 少年とお雑煮
外から騒々しい音が聞こえる。
大人の大きな笑い声や怒鳴り声が聞こえ、保吉は部屋を飛び出して外の様子を見に行きたいと思うが、窓とドアは固く閉ざされており外に出る事が出来ない。保吉は外部から守られ安全で暖かいこの部屋に嫌気がさし始めた。
硬い雪が窓に当たる音で保吉は目を覚ました。外を見ると見慣れた景色が一面真っ白で一瞬知らない土地に来たのかと錯覚する。保吉は朝食を食べようとベットから降り居間に向かう。廊下の冷たさが足の裏から身体中に広がる。居間に入るとコーヒーと石油ストーブの暖かい匂いがする。炬燵には母親と祖母が談笑しており母親は保吉を見ると炬燵から出て
「おはよう、お雑煮何個食べる?」
保吉は
「3個でいいや」
「たった3個でいいの?」
「うん」
と答えると椅子に座り、TVをつける。
「保吉ちゃんも今年の春で中学生やね〜」
祖母が蜜柑を剥きながら嬉しそうに言う。
「うん」
お雑煮が出来るとあっという間にたいらげ、炬燵に入る。炬燵はとても暖かく気持ち良かったが、祖母と母親が何かと学校の事や友達の事について質問してきて答えるのがめんどくさくなり、炬燵を出る。
「どこ行くの?」
「外」
「寒いし吹雪なんだから家にいなさい」
「うん」
保吉は自分の部屋に戻る。特にする事が無いので窓から外を見る。吹雪は先ほどから更に勢いを増している。居間でTVを見ても良いが、あの炬燵は何か居心地が悪い。かといって部屋にいてもする事がない。
保吉はクローゼットの中からこないだ買ってもらったコートを取り出してしっかりフードまで被り、手袋と毛糸の靴下をはいて、母親にバレないように外に出た。猛吹雪の中を歩く。歩きなれた道だがいつもと違いスリリングで面白い。車も通ってなく雪がフードに当たる音と自分が雪を踏む音しか聞こえない。寒さが手袋を貫通して手がかじかんでくるが、その吹雪の中を保吉は大声を出して駆け出す。もっと色んな所を見に行きたい。
しかし見通しが悪いのと、ろくに足元を見ずに走ったせいかいつも気づく段差に足を取られた保吉は道につまづいてしまった。雪がクッションになり衝撃は無かったが、丁度倒れた所に尖がった石があり膝から出血している。出血は止まらず冬用の厚いズボンを貫通し純白の雪を朱に染める。保吉は自分の血で雪が染まって行くのを見ると急に不安になり辺りを見渡す。一面真っ白な景色と吹雪の音が保吉をいっそう不安と孤独にする。
保吉は急いで家に帰る。
玄関のドアを勢いよく開けると母親と祖母が何事かと玄関までやってくる
2人の姿を見ると保吉は泣きじゃくる。2人は困惑しながらも雪と涙でビシャビシャな保吉をシャワーに入れる。暖かいシャワーに入り少し落ち着いた保吉が母親に
「お母さんお雑煮8個食べたい」
「やっぱり3個じゃ少なかったでしょー」
と笑いながら鍋に火をかける。お雑煮が出来る間保吉は暖かい炬燵に入り祖母と中学生になったらやりたい部活について話す。祖母が微笑み頷きながら保吉の話し聞く。しばらくするとお雑煮が出来上がり、暖かい炬燵に入りながらお雑煮を食べる。ふと窓を見ると
まだ吹雪いている。
祖母が窓見ながら、今年何度目かの
「保吉ちゃんももう中学生やね〜」
「うん!僕頑張るよ!お母さんお雑煮お代わり!」
春はまだ遠い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます