第2話 ある人材派遣
あるマンション近くの公園で、子供達が何かを囲むようにしてしゃがんでいる。その囲いの中心にはどうやら蟻の巣があるようで、巣の穴から出てくる蟻達を楽しそうに眺めている。蟻達は子供達の視線など気にも止めず、自分の体より大きい菓子のクズや、虫の死骸をせっせと巣へと運び入れている。
やがて日が沈み始めると母親が迎えにやってきて子供達の帰りを促す。
そこには帰りを促す母親と、帰りたくないとグズル子供という日が暮れる公園のお馴染みの光景が広がる。
グズル息子を引っ張るようにして、マンションの部屋に戻った母親は洗濯物を中に入れ、子供をお風呂に入れ、仕事から帰ってきた夫を冷えたビールと共に迎え入れる。
家族で夕飯を囲みながら息子は今日の公園の出来事を一生懸命喋る。息子が喋るのに飽きると、今度は夫が仕事場での出来事を愚痴と笑いを交えながら喋る。それを笑いながら聞く妻。
平和な日常である。
その話しの中で夫が思い出したように
「あっ来月部署に転勤で新しい奴が来るんだよね〜」
そうなの。仕事が出来る人だと良いわね、と相槌をうち平和な1日が終わる。
しかしそんな平和な日常は長くは続かない。
夫の仕事が急に上手くいかなくなったのか、帰りが遅くなり酒を飲んでる帰る日が多くなった。休日も塞ぎ込んで酒を飲んでいる。どうやら毎日上司から怒鳴られるているようだ。家庭の雰囲気も悪くなり、子供も休日の日課だった夫とのキャッチボールをしなくなった。
悪い流れは続き、妻が家で家事をしていると息子の学校から電話があり
息子がクラス内でイジメを受けているかもしれないと担任から知らされる。
帰ってから息子にそれとなく
学校生活について聞いては見るがハッキリしない答えが返ってくる。
最近公園に遊びに行かなくなった所をみるに、友達が離れていったしまっているようだった。
どうしたものかと頭を悩ます母親。
上司に怒られる夫、クラスから疎外される息子、悩み塞ぎ込む母親。
この悪循環により家庭から笑いが消える。
そんなある日のこと、
マンションのインターホンがなり出て見ると隣に引っ越したきたという家族が挨拶にやってきた。
後から分かったが先日夫が言っていた人が偶然同じマンションに引っ越しをしてきたようだった。そしてまたしても偶然なのか息子と同い年の男の子がいるようで、同じクラスに転校生として入ってきた。夫と息子の日常を変えてくれる存在になってほしいな、と思いながら過ごしていたある日のこと。
夫が少しづつだが明るくなり、前みたいに仕事の話をするようになった。息子の方も公園に通うようになり、毎日学校の話をするようになった。少しづつだが家庭に笑いが戻り始めた。原因は分からないが妻としては、何より嬉しい出来事だった。
妻は夕食中にふいに気になったので夫に転勤してきた人について尋ねると
「あいつはダメだねぇ〜
毎日上司から怒鳴られてるし、周りからも頼りにされてないよ」
それを聞くとTVに夢中だった子供が
急に会話に入ってきて
「隣に引っ越してくた転校生マジキモいぜ。こないだタケシ君がさソイツに〜」
それを聞きながら妻は思う。
隣の人が越してきて
夫も息子も組織内の立場が良くなった。上司の矛先は夫から隣人に行き、いじめっ子の標的は息子から隣人の息子にいった。
それから夫は仕事が楽しいようで
あるプロジェクトを任され毎日イキイキしはじめた、子供も同様でクラスの学級委員になった。
一カ月前と比べたら二人とも別人のようだ。
それから一年経つと隣人は耐えれらくなったのか引っ越しをしてしまった。
しかし誰も隣人と親しい人はいなかったようで誰も、どこに引っ越しをしたのか知らなかった。隣人には申し訳ないが隣人が組織内でウチより下に入ってくれたお陰で私達は助かった。
今や夫は昇進が決まり息子も学級委員に加えテストの点数も伸びた。
妻として何より嬉しい事だった。
昇進が決まった夫、テストの点数が伸び学級委員長になった息子、悩みが消えお肌の調子を戻した妻。この好循環により家庭には毎日笑い声が溢れる。
ここは市役所の一室
市長とある男が喋っている
「どうでしたか?ウチが派遣した者は役に立ったでしょうか」
「いやーおおいに助かりました。
イジメがあった学校ではイジメがなくなりイジメられていた子は伸び伸び学業に励み、仕事が出来なかった社会人は自分より下の者がいると分かると自信を持ち仕事に励むようになったと、派遣先の校長と社長は
大喜びでしたよ」
「いやー良かった。また何かありましたらよろしくお願いいたします。
いつでも嫌われ者を送りますので」
全員優秀な組織が上手く回るとは限らない。喋りが上手いやつ頭が良いやつ、そして嫌われ者や無能な者も一定数いなければ組織は上手く回っていかない。
ナポオレン、チンギスカン、
織田信長、項羽、曹操
が同じ組織にいたところで良い国や軍隊が出来るとはいえない。
本田宗一郎、松下幸之助、孫正義、ビルゲイツ、スティーブ・ジョブズ
が同じ会社にいたとして良い会社になるとは限らない。
そう思えば無能や嫌われ者も
ある意味では貴重な人材と言えるかもしれない。
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