第3話 労働の消失
【労働】
・骨を折り働く事。体力を使用して働く事。
ここは未来の地球、AIロボットの発達で人間が骨をおって働かなくても良い国。AIロボットの発達で最初多くの歓喜と混乱とそして反発があった。
まず本当に働かなくても大丈夫なのか、というAIロボットの性能を疑念視する意見があった。
もちろん最初はロボットが上手く出来ない仕事も有ったが、これは直ぐにプログラムに修正が入れられ何の問題無く回った。スーパー・コンビニのレジ
工場などの作業業やルーチンワークなどは人間がやるより早く正確で企業のコストダウンにも繋がった。
AIロボットの性能が確かなものだという事が分かると、多くの大企業が導入を始め中小企業もそれに続いた。政府がAIロボットの開発費と導入する企業に多くの補助金を出したのだ。みるみるうちに人間の仕事はロボットに取られて多くのリストラが起こった。
しかし政府は月々に一定額お金を支給する制度をこしらえて、国民は必要最低の生活は保証された。
江戸時代の農民は全国民の約8割だったという。8割が朝から晩まで農業に従事しながらも多くの飢饉が起こったが、産業革命以降多くの飢饉がそう頻繁に起こる事が無くなった。21世紀になると農業に従事している人は8割はおろか1割にも満たない。ご先祖様は日々飢えを凌ぐ為に他の生命体を蹴飛ばしここまで命を繋いできたが、もう食べる事に困らないのである。
人類最初の課題である
「安定的な繁殖と食料確保」
という宿題は達成されたのだ。
人類は次なるステップに進むべきなのだ。
もちろん中には月々一定額貰っても
足りない人やもっと贅沢がしたいという層も存在した。
その様な人はロボットが出来ない様なビジネスを展開する事が求められた。
人間は1を100にする能力に関してはロボットに勝つ事は出来ないが、0を1にする能力はロボットに勝つ事が出来る。
1分間当たり作れるパンの数ではロボットに負けてしまうが、新しいパンのレシピを思いつけるのはロボットでは出来ないのだ。
そのため
「ロボットよりクリエイティブである事」
これがこの働かなくても良い地球では絶対的なステータスになっている。
頭の固い老人達は、人が労働を辞めたら生物として腐る、と言って反発した。しかしそんな事は無かった。
科学者達はより研究に励んだ。
ロボット業はより優れたロボットを世に出そうと研究が続けられたし、ロボット発達のお陰で宇宙開発の研究も多いに勧められた。
科学者達は最初明日から働かなくても良いと言われて最初は嬉しかったが、
数ヶ月するとまた研究する日々に戻った。科学者達は自分達は別にお金を貰うために研究をしていた訳ではなかったことを悟った。
まるで大学時代の研究室に戻ったかのように純粋に研究に打ち込めた。
お金が欲しいわけではなく純粋に彼らはロケットや優れたロボット開発したいだけなのだ。
これは文芸や芸術家達にも言えた。
売れずに、コンビニでバイトをしながら絵を描いていた画家達はより自分達の芸術に打ち込めたし、好きでもない冷蔵庫の営業マンをしていた男は小さい頃からの夢だったロックスターの夢を再び追いかけ始めた。
またボランティア活動が非常に活発になった。サラリーマン達が人の為に何かしようとボランティアを始めたのだ。街の掃除はロボットがしてくれるのだが人と交流しながら街を綺麗にしたり人の為に汗をかくという事はいつの時代も気持ちの良いものだ。
そこに対価としての汚い賃金がないのがいい。対価は汗でビッショリになったシャツとボランティア団体が配る冷えたポカリスエットで十分だった。
そのポカリスエットの美味しさはお金で買う事は出来ない。
前までは会社と自宅の往復しかなかった社会人も、ボランティアやその他のイベントに参加することで、今まで無かった交流が生まれそこで恋人が出来たので結婚率も多いに上がった。
政府が一定額払うお金は
子供にも支給されたので少子化問題も解消された。
政治に興味が無かったというか、新聞とニュースを見る余裕が無かった人達も真剣に自国の政治に関心を持ち勉強をして自分なりに考えて選挙に足を運び投票した。
前までは暇という事が怠け者のように悪い印象が有ったが、暇だからこそ心に余裕が生まれ新しい発想や人の為に何かをするという発想を人類に与えたのだ。
心の余裕により犯罪も減った。
犯罪を起こす最大の原因は心の余裕の無さなのだ。
また政府が支給するお金は電子マネーで配られたので、国民は金をどのように使いどんな人が何を消費しているのか政府は全て管理できた。
もちろんこれもロボットが管理しているのでプライバシーは守られた。
政府は国民の消費動向を性別・年齢層毎に見る事が出来たのでそれと睨めっこしながら経済政策を考えた。
この管理化で脱税や政治家の汚職も全て取り締まる事ができたし、何より
官僚や公務員の人員を大幅に削減する事が出来た。
AIロボットの普及により
ようやく人類は次の課題である
「より楽しくより充実した人間らしいを生活を送る」
という課題に取り組むことが出来るようになったのだ。
ここまでクチャクチャになったメモを
みて男は溜息をはいた。
会社の得意先から来月から取引を終了すると言われ、上司に報告するのが怖く近くの公園のベンチでうなだれていた所に、風にのりクチャクチャになったメモが男の前に転がってきたのだ。
誰が書いたものだろうか、恐らく仕事が嫌で気晴らしとして書いたのだろう
こんなのは夢物語でしかない。
今ある仕事の6割がロボットに奪われると21世紀前半に世間を騒がしたそうだが、今は25世紀。
今日のニュースでは去年過労死した人数は過去最高だったと言っていた。
確かにロボットの普及により無くなった仕事も多くあるが、それでもゴキブリみたいに新しい仕事はどんどん出てくる。時代が変われば、仕事が変わるだけでなくなる事はない。
男の通信機が鳴る。
上司からだ、取引き先との話しについてだろう。また怒られて会社で怒鳴られるだろうな。
男は1つ深呼吸して、通信機のボタンを押す。
「…はい」
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