第7話おまけ

 暫く強く抱擁し合っていたけれど、やがてアルトさまは顔をこちらに向けて、


「セレナ。わたしたちはまだ皇帝と皇妃になった訳ではない。いつ何が身に降りかかるかわからない」

「はい。ですが、アルトさまと一緒なら、わたくしはどうなっても構いません」

「互いの心が解った今、わたしは悔いのないよう、そなたと今、めおとになりたい」


 ……。

 …………。

 ………………。えっ?


「い、いま、ですか?」

「ああ」

「ここで?」

「ああ」

「……」

「嫌なのか?」


 アルトさまったら……いつ、ミーリーンが戻ってくるやも知れないのに。私は何もかもお捧げしても構わないけど、何も、いまここででなくても?!


「い、いやではありませんが……」

「そうか、よかった。では、ミーリーン嬢が戻ってこないうちに」


 えっ、そんなにあっさり?! いえ、何を考えているの、私は。何でも、アルトさまのお考え通りでいいではないの。


「セレナ、愛している」

「わたくしも……」


 それ以上考える暇はなく、アルトさまの端正なお顔が近づいてくる。私は眼を瞑り、唇が重なった。長いような短いような時間、私たちは再び抱き締め合って、互いの唇を貪った。蕩けるように幸せで、そしてアルトさまは私を長椅子に………………押し倒さなかった。

 満足したように、少年のような笑顔でアルトさまは、


「これでそなたはわたしの妻だ」


 と仰る。えっ。


「何を不思議そうな顔をしている。婚姻の儀では、こうするものだろう」

「……そ、そうですわね」


 私の顔をじっと見つめていたアルトさまは、ようやく、私の誤解に思い当たられたようで、不意にお顔が赤くなる。


「な、なにを考えておるのだ、そなたは! わたしは節度を弁えている!」

「な、なにも考えておりませんわ! だからアルトさまも何も考えないで下さい!」


 最後の方は悲鳴に近かった。


 やっぱり踊り娘稼業で、はしたない考え方をする娘になってしまったのかしら……。いえ、でも、今のはアルトさまがおかしいわよね? 誰だって「いまここでめおとになりたい」なんて言われたら……。


「すまない……わたしは、男女のことに疎くて……誤解させる言い方をしてしまった」


 アルトさまは背中を向けて、小声で謝られた。もしかしたら、下町でそういう事にも詳しくなっておられるかも、と思っていたけれど、アルトさまは純真だった。

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